『東京セントラル』編ロケ現場での様子

 前シリーズでは最終回に驚異の視聴率42・2%を叩き出したドラマ『半沢直樹』。現在放送中の新シリーズも佳境を迎えているが、9月13日に放送された第8話はこれまでで最高の25・6%という視聴率を記録するなど、その勢いはとどまるところを知らない。

 今作の前半は、半沢シリーズの生みの親である池井戸潤氏による小説『ロスジェネの逆襲』が原作となっていた。堺雅人演じる半沢直樹は、前シリーズで自身が勤める『東京中央銀行』の数々の不正を明らかにするも、最終回で出向を命じられてしまう。

 その出向先は子会社である『東京セントラル証券』。そこでは証券トレーディングシステムの大規模リニューアルを予定していた。そのシステム構築を請け負うのは、『スパイラル』という新興IT企業だったが、同社への敵対的買収が持ち上がり……というストーリー。

 香川照之や片岡愛之助による過剰なまでの“顔芸”など、コントにも見えるような極端な演出も人気の要因となっているが、劇中の演出やストーリーについては、現場を知る証券マンが首をひねる場面も少なくないという。

「あくまでフィクションであるドラマの設定にケチをつけることは無粋」「リアリティーを求めすぎると面白さが犠牲になる」「面白ければ細かいことはどうでもいい」という声もあり、それはごもっとも。しかし「細かくないところ」に違和感を覚える人もいるようで……。

 今回は元証券会社社員で、現在は株式会社Japan Asset Managementにてプライベートバンカーを務める吉田友哉さんに、大人気ドラマと“現場との差異”について話を聞いた。

ほかの客も大勢いるガヤガヤした居酒屋で、買収提案書をテーブルに出して、そのことについて飲みながら話す

 半沢は出向先で同僚となった森山雅弘(賀来賢人)と居酒屋へ。そこでの話題はもちろん仕事の話。でも、わざわざ機密事項であるはずの買収提案書を出し……(同様の場面は、ほかにも何度かあり)。

「普通に考えてありえないですね。近年では情報漏洩の観点からお酒の場に、名刺や社用のタブレットなど会社の仕事にかかわるものを持っていってはいけないという証券会社もあります。あえて、騒がしい場所を選ぶ必要はないと思いますね」(吉田さん)

新しい証券トレーディングシステムを導入する予算が数億円

 証券トレーディングシステムのリニューアルを行うこととなった『東京セントラル証券』。それを請け負うのは、検索エンジンサービスの開発・運用で勢力を伸ばしていた新興 IT企業 『スパイラル』。その予算は数億円ということだったが……。

「これは安すぎると思いますね。仕様にもよりますが、トレーディングシステムをイチからリニューアルするのであれば、100億円単位になると思います」(吉田さん)

検索エンジンサービスの企業が証券トレーディングシステムを請け負う

 そもそも検索エンジンサービスを提供している企業が、証券会社のシステムを請け負うことなんてあるのだろうか?

「ソフトバンク、ヤフー、みずほ銀行の関係性を考えればあり得ない話でもない気がしますが、本作のような新興IT企業に委託することはほぼないでしょうね」(吉田さん)

 “あり得ない話ではない”という3社の関係性はというと、

「ヤフーはソフトバンクの子会社で、みずほ銀行はソフトバンクのメインバンク。ソフトバンクとみずほ証券が合弁で『One Tap BUY証券』に出資をしていて、将来的に『PayPay証券』にするという話です。

 PayPayの株主はソフトバンクとヤフーですから、One Tap BUY証券がどこのシステムを使っているかわかりませんが、店頭取引型のシステムならヤフーのエンジニアでも作れそうな気がします。しかし、既存の証券会社は野村総研が多いと思うので、普通のトレーディングシステムならありえないと思いますが……」(吉田さん)

営業企画部の部長がメールの痕跡をすべて消す

 半沢の古巣である『東京中央銀行』の伊佐山泰二(市川猿之助)に諸田祥一(池田成志)が買収の情報をリークするメールを送信。しかし、そのメールが半沢にバレ、三木重行(角田晃広)がメールの受信記録をすべて削除するという暴挙に……。

実は証券会社では社員が不祥事の際に証拠隠滅を図り、お客様とのメールを削除してしまうということは多々ございます。バレたくないという人間の性なんでしょう。

 しかし、証券会社はそういった事態も想定しているため、サーバーのシステムにすべてログ(記録)が残されていて、総務課で復元することができます。ですので、本当の意味で痕跡を消すことはできないと思われます」(吉田さん)

株価が3万円台なのに、値動きが1円単位

 敵対的買収を仕掛けられている『スパイラル』の株価の値動きは、何度かドラマ内で描かれる。

3万円台の株価の値動きが1円単位というのは、ありえないと思います。3万円台なら50円か100円刻みです」(吉田さん)

 リアリティーか面白さか。ただ1つ言えることは、『半沢直樹』は本シリーズも大人気であるということだ――。