2020年9月20日、少年隊の錦織一清(55)と植草克秀(54)が年内いっぱいでジャニーズ事務所を退所することが公式サイトなどで発表されると、テレビ番組では速報が報じられ、SNSでは「少年隊」がホットワードに。翌朝のスポーツ新聞各紙でも芸能面トップを飾るなど、あらゆるメディアで騒然となった。
900円のシングルCDが数万円に!
少年隊は前述の錦織、植草と、来年以降も事務所に残留する東山紀之(53)からなる3人組の男性アイドルグループで、'85年に『仮面舞踏会』でデビュー。'08年のミュージカル『PLAYZONE(プレゾン)』での主演以降、グループとしての活動がなかったものの、テレビ番組のジャニーズ特集では著名人やジャニーズ後輩たちが少年隊の楽曲やパフォーマンスをこぞって絶賛し、そのたびに若いファンや昔の出戻りファンを増やしつつあった。
その証拠に、オークションサイト『ヤフオク!』や、フリマサイト『メルカリ』では、彼らのCDなどが当時の数倍から数十倍の値段で取引されている。定価900円(税込み)のシングル『仮面舞踏会』が2万円、定価2400円(税込み)のアルバム『翔』が1万円で売れた事例も。というのも、少年隊は'85~'95年にリリースされたCDのほとんどが、なぜかすでに廃盤で入手困難な状態。それでも、なんとか商品を手元に置きたい! と新旧のファンが躍起になっているのだろう。
筆者が担当するラジオ番組『渋谷のザ・ベストテン』(渋谷のラジオ)でも、少年隊限定のランキングを発表したところ、コミュニティFMにもかかわらずツイッターのトレンド2位に急上昇するほどの注目度だった。先日、デビュー35周年記念日となる今年12月12日にベストアルバムやDVD BOXが発売されることが発表され、ファンたちの渇望(かつぼう)感も多少は解消されるだろうが、まさかこんな形になるとは……。
ともあれ、この機会に、故・ジャニー喜多川氏も最強グループだと認定した(TOKIO/国分太一・談)少年隊の魅力はどこにあるのか、振り返ってみたいと思う。
第1の魅力は、歌もダンスも本格的なアイドルグループのパイオニアであること。彼ら以前のジャニーズは、'80年代に活躍した田原俊彦、近藤真彦、シブがき隊と、ルックスやキャラクターの魅力を前面に押し出して“歌やダンスは二の次”という状態でデビューした(ただし、数年後からは歌唱レベルや、ダンスセンス、演技力などにそれぞれ磨きをかけたことは周知のとおりである)。
対して少年隊は、デビュー前からマイケル・ジャクソンの『スリラー』で有名な振付師、マイケル・ピータースの1日8時間にも及ぶ猛特訓を受けて歌やダンスのレベルを高め(当時のテレビ番組ではダンスシューズが2週間でボロボロになると言っていた)、実力派歌手が幅をきかせていたフジテレビの看板番組『夜のヒットスタジオ』に何度も出演している。
また、デビュー前年の'84年には歌番組『ザ・ベストテン』の注目歌手を紹介するコーナー、“スポットライト”に出演し『あなたに今Good-bye』を歌っているが、この曲はレコード発売がないにもかかわらず、はがきリクエストが上位入り。総合でも20位台に入るという異例の高ランクをマークした。それほどまでに「歌もダンスもうまい子たちがいる」と、デビュー前から評判だったのだ。
なお、事務所の後輩グループである嵐は、5人が切れ目なくスピーディーに歌いつないでいくパフォーマンスも持ち味だが、これは少年隊から継承したお家芸と言えるだろう。例えば、'87年の『stripe blue』を聴くと、メンバー全員の高い歌唱力がなければスムーズにつなげないことがわかるのではないだろうか。本作は夏の爽快感を抱かせる流麗(りゅうれい)なポップスで、人気シンガーの椎名林檎も「ここまで眩(まぶ)しい夏の曲には、いまだ出会えておりません」と絶賛しているほど。
カラオケでは若い世代にも人気
そんな彼らの第2の魅力は、ヒット作が多いことだ。デビュー翌年にNHK紅白歌合戦に初出場した際、俳優の加山雄三が「少年隊『仮面ライダー』です!」と勢いよく間違って紹介したことが語り草となっている『仮面舞踏会』は言わずもがな、広い世代に耳なじみがある曲だろう。
ほかにも、イントロの指鳴らしから始まり、美しいダンスで魅せるバラード『君だけに』、スウィング・ジャズに合わせて華麗に歌い踊る『まいったネ今夜』などを含め、9曲がオリコン1位を獲得、また、それらを含む16曲がオリコンTOP10入り。紅白歌合戦には'86年以降、8年連続で出場を果たすなど、輝かしい功績を残している。
続けて、第3の魅力として挙げたいのは、シングルにとどまらずカップリングやアルバム収録曲にも、歌い継がれるカラオケ曲が多いということ。'19年における少年隊のカラオケ人気曲(JOYSOUND調べ、以下カラオケデータは同じ)を見てみると、前述の『仮面舞踏会』や『君だけに』などのシングル曲にまじって、5位に『星屑のスパンコール』、15位に『Baby Baby Baby』、18位に『NON STOP!』、24位に『PGF』などシングル以外の楽曲がランクイン。その中には、彼らが毎年のライフワークとしてきた前述のミュージカル『PLAYZONE』のナンバーも上位入りしている。
また、少年隊のファン層は40代から50代の女性が多いと思われるが、意外なことにカラオケ歌唱状況では10代・20代が女性全体の2割以上を占めているのをご存じだろうか。
これは、少年隊のコアファンのみならず、SMAPやKAT-TUN、A.B.C-Z、King & Prince、さらにはジャニーズJr.など後輩グループがステージで何度も歌い継いだことで、少年隊の楽曲がより多くのファンに広がったことが要因となっている。彼らの楽曲はアクロバットさが光ったりノリがよかったりとステージ映えするものが多く、それらを見たほかのグループのメンバーや演出家などがカバーしたいと思い、そして、それを聴いたファンも自分で歌ってみたい、といった連鎖反応が起きているのだ。
ニッキ、ヒガシ、カッちゃんの素顔
最後に、第4の魅力として、3人の異なる個性や絶妙なバランス感、グループ愛がステージや画面から伝わることも人気の秘訣だろう。
まず、ニッキこと錦織一清の負けん気の強さは、シブがき隊と同学年でありながら、デビューまでに何年も遅れをとったことも大いに影響していそうだし、どの楽曲にもフェイクを入れるのは、ただのアイドル歌手としてではなく、ロック・ボーカリストとしてのプライドを感じさせる。『ザ・ベストテン』でマッチのバック・ダンサーとして出演し、黒柳徹子に「あなたはトシちゃんに似てるって言われない?」と尋ねられた際「えっ……」と一瞬、声を詰まらせたのは、若いながらも自分らしさを認めてほしかったからではないだろうか。
ヒガシこと東山紀之は、従来のジャニーズには珍しい切れ長の目で、何ごとにも慎重で冷静、というキャラクターもアイドルらしからぬ存在感を示していた。大人になってからは、大人数になるであろうジャニーズの後輩たちにお年玉をあげていたり、どんなに夜遅くまで酒を飲んでも早朝の自主トレーニングは欠かさなかったりと、その面倒見のよさやストイックさを示すエピソードは数知れず。彼は、ひとりでメディアに登場する際にも「少年隊を忘れないでほしい」と常にアピールしていた。
そういえば、東山の妻・木村佳乃がテレビ番組『あさイチ』で夫の好きなところを尋ねられたとき「厳しいところ。ベターっと甘くない」と答え、ヒガシの姿勢が一貫しているからこそ頑張れる、と話していた。
カッちゃんこと植草克秀は、激しく踊りながらもハイトーンをビシッと決めるのが得意だが、一見、ニッキやヒガシのようにストイックには見えないムードメーカーぶりも大きな持ち味で、それゆえ『さすらい刑事旅情編』や『渡る世間は鬼ばかり』などの長寿ドラマにも出演できたのだろう。実は植草、今回の発表がある前に、ファンクラブ会員に向けて「少年隊の中で好きな曲」をさりげなく尋ねていた。だが、彼のお茶目なキャラだからこそ、その後の重大な発表につながるとは誰も予想しなかったのではないだろうか。
ちなみに、この3人の「ソース顔(ニッキ)」「しょうゆ顔(ヒガシ)」「ケチャップ顔(カッちゃん)」を象徴したソウルフルなポップス『お好み焼き』という楽曲も'93年に発表されているが、こちらは今回のベスト盤には未収録である(苦笑)。
'21年以降、ジャニーズ事務所に残るのは東山のみとなるが、今後も「少年隊」は存続するという。解散でも活動休止でもないという今回の発表を信じて、彼らの語り継がれ、歌い継がれる名曲たちを、3人そろって歌ってくれる日がまた来ることを信じていたい。
(文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)