テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
1990年代後半、時代の寵児に翻弄された女がいる。類まれなる歌唱力も、度重なるお騒がせスキャンダルで宝の持ち腐れに。薬物依存疑惑を乗り越えて、45歳で出産という偉業も成し遂げ、さあこれから再出発と思っていたのに。彼女の過去も受けとめ、真摯に見守って育ててきた事務所もレコード会社も契約を終了したそうで。
そりゃあ、いろいろと憶測は飛び交いますわな。ともちゃんこと華原朋美の話である。
「またか?」と思わせる不安定さが懸念される中、彼女が週刊誌にリークしたと言われているのは、ベビーシッター虐待問題。「友人・高嶋ちさ子から紹介されたベビーシッターが1歳になる息子を逆さ吊りにして虐待した」と訴えたのだ。高嶋にもその画像をLINEしたところ、「これは虐待ではない、監視するほうが恐ろしい」という旨の返信がきたという。
正直、育児のことはよくわからないので、知人で現役のベビーシッター、SさんとRさんの2名に記事を見てもらった。
現役ベビーシッターに
聞いたところ……
写真だけでは詳細がわからないが、Sさんは「(逆さ吊りなんて)私なら絶対しないですね。1歳に満たない乳児で、しかも哺乳瓶くわえたままというのはありえません」。Rさんは「これはもう虐待。警察通報案件でしょ!」と吐き捨てた。
さらに、Sさんがベビーシッター業界の事情を話してくれた。
「子供の危険を事前に取り除いて安心・安全に遊ばせるのがシッターの仕事なので、私は絶対にしません。『ヒヤリ・ハット』(ヒヤリとしたり、ハッとするようなことを未然に防ぐ)の観点からしても、乳児には絶対と言っていいくらい、しないです」
高嶋が反論した「シッターをカメラで監視」については、どうなのか?
「今、撮影は当たり前ですよ。いろいろ事件もあったし。シッター側もお金をいただいてご自宅で仕事をするので、撮影されていてもかまいません。むしろそれでお母さんたちが安心してくれるほうがやりやすい。ただ、入浴のときはシッターも下着姿になったりするので、撮影していることを伝えていただけるとありがたいかな……」
問題のシッターさんについては、どう思うか。
「いろいろな指針や特色があるので何とも言えませんが、昔から人の紹介だけでシッターをされている人は、今の保育を知らない可能性もありますよね。『自分の子育て法』で長年やってきてしまって、最新の学会報告とか知識がアップデートされていない。歯科医と同じですよ。昔に開業して自分流でずっとやっている先生は、昔のやり方で治療する人が多いですよね? あれと同じです」
なるほど……よくわかるたとえ。かなり年輩の方なので、さもありなん。
「高嶋さんが『うちもこれ大好きでいっつもやってもらってた』と書いていましたが、もしかしたら乳児ではなく2~4歳くらいのときだったのかもしれないですよね。保育の世界は正解があまりなくて、日々更新される情報に振り回されている部分はあります。逆さ吊りも感覚運動を鍛えるためにOKという考え方もあるようだし。でも運動させるにしても相当、知識がないとできない。華原さんが不審に思ったのも当然だと思います」
正反対の2人が「友人」……?
Sさんのおかげでシッター事情はなんとなくわかった。「虐待」「対立」といった文言は世間の目を引くが、実は私が最も驚いたのは、華原と高嶋が「友人である」という点だった。広くとらえるなら、ふたりとも音楽業界のプロフェッショナルという共通点はある。あるが、どう見ても仲よしになる要素は見当たらない。
華原は時代と流行と周囲の人間に翻弄され、主語がないままに芸能界を泳いできた人という印象がある。同じ時代を築いた歌姫・安室奈美恵は、自分の足ですくっと立ち、自己を確立していった感があるのに対して、華原の場合はどこか不安定で、主語を奪われたというか、失ってきたようなイメージ。こういっちゃなんだが、幼さと甘えが漂う。
一方、高嶋は真逆。もう、主語は「私」どころか「俺」に近い。ヴァイオリニストとしての活躍はもちろん、バラエティー番組でのバッサバサとぶったぎって俺流を貫く姿といい、わが道を「大股歩き&仁王立ち」で行く人だ。
脳内体育会系というか、甘えを一切許さない独特な家庭運営法は、モヤモヤと悩むお母さんたちに少なからずの勇気を与えてきた。バッシングもあっただろうが、竹を割ったような性格、いや、竹を割ったらカミソリ生えてたくらいの強烈なキャラクターは、バラエティー番組でも引っ張りだこになったのだから。
え、このふたりが友人……? 華原が一方的に高嶋を慕っていたような気もしないでもない。高嶋のInstagramの文言(よく読むと辛辣)と写真を見ても、妙に懐かれている気配が漂う。
そして今回の虐待報道。高嶋はうっかり火の粉が降りかかったというか、巻き込まれた印象を私は受けた。とばっちりを受けたが、逆にこれで縁が切れると安堵しているのかもしれない。ちさ子危うきに近寄らず。厄介払いという文字が頭に浮かぶ。
そして華原はその後、YouTubeのチャンネルを開設……。なにやら仕掛けの香りが匂う。芸能人がYouTubeを始めたくらいでは昨今ニュースにはならない時代。しかし、そこに「対立の構図」という魔法の粉がまぶされると、あっという間に話題になる。真相を知りたい人とメディアの人間がチャンネル登録。これを仕掛けと呼ばずに何と呼ぶ?
キナ臭さ漂うものの、その仕掛けに意地汚くのっかるよ、あたしゃ。
華原のYouTubeは「THE・不安定」そのもの。眉毛はぶっとく描かれ、左右非対称の日もあれば、すっぴんで呂律が怪しい日もある。ハンバーガー食ってたかと思えば、未だ衰えぬ高音ビブラートで歌うときもある。編集はほぼしておらず、だらだらとしゃべり、ペットの犬に幼児語のアテレコ(かなり激痛)をしたり、急に昔のことを匂わせる発言をしたり。「レジ打ちでもやろうかな」発言で、「レジ打ちという仕事をナメている」など開設数日でプチ炎上する快挙も。
引いてしまうほどの
マジな“号泣”謝罪
猛烈な勢いで、たて続けにアップしているのも気になるし、「気分のアップダウンが激しい」印象も否めない。むくんだ顔で主語と述語と謙譲語がとっちらかったまま話すときもあれば、ヤフコメのアンチに対しても真摯に自分の思いを伝えるときもあった。
長年のファンの人は「ああ、これがともちゃん節だよね!」と思うのかもしれないが、私は心がざわざわした。今、ともちゃんは野放しの野生YouTuber状態。何をしゃべるかわからないので、メディアもそこに期待をしていたに違いないのだが……。
連日30分前後の投稿が続いていたが、9月23日、様子が一変した。今まではほとんどアップの撮影だったが、上半身が映る引きの映像に。タイトルは「謝罪をもうしあげます。」。約29秒の映像で、高嶋と所属していた尾木プロダクションの社長に対して謝罪したのだ。そして、「虐待ではなかった」として、泣きべそをかいて反省しているという。とうとう怒られちゃったともちゃん。やはり甘さと幼さが災いしたようで、虐待騒動はこれで手打ち、ということらしい。
そもそも仕掛けなどなかったのか? 誰かの「ともちゃん、YouTubeやっちゃいなよ~」の無責任なひとことを鵜呑みにして軽い気持ちで始めてしまったのか? 週刊誌にリークしたと言われている例の記事も、「ともちゃん、それ、記事にしなよ~」と言われたからなのか? 仕掛けにまんまと乗っかって本人がサンドバッグ状態に。そういう悪しき仕掛け人ではなく、彼女の才能をちゃんと世に出す仕掛け人はいないのか……。
ともあれ、怒濤のスタートをきり、満員御礼であることは事実だ。YouTubeはそういうメディアでもあるわけで。ファンの応援コメントもたくさん送られている。そして、YouTubeでは過去の映像もたんまり観られる。
輝いていた若いころの映像も、一度挫折を味わい、隔離病棟にまで入って死ぬ気で頑張って復活したころの映像もある。再出発のときに出演した番組では、歌の出だしで感極まって歌えなかったシーンもある。でもその後、笑顔でのびやかな歌声を披露した。つまり、YouTubeで華原朋美の人生まるっとおさらいできるのだから、新規顧客獲得も目指せる。とにかく歌うこと。それに尽きる。
平成の世を波乱万丈で生き抜いた歌姫が、令和の時代は平穏に生き延びられますよう。“Kファミリー”という呪縛が解けて、自身の足で立った状態で歌えるといいよねぇ。ひとりでは厳しそうなので、善き仕掛け人が現れるといいよねぇ……。
吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。