「逮捕される母親は加害者であり、被害者です」
そう訴えるのは、セックスカウンセラーで妊娠・出産・性暴力に関する相談員として活動する竹田淳子さん。
「相手の男性がいなければ妊娠はできません。ですから責任は男性にもあります」
望まない妊娠。誰にも相談できずに人知れず出産。公園、トイレ、コインロッカーなどから遺棄された赤ちゃんが見つかる事件は後を絶たない。母親は逮捕され、世間からも責められる。だが、『父親』たちが一緒に逮捕されることはほとんどない。
相談できている女性はひと握り
母親を追い詰め、そして逃げる『無責任な父親』とはどんな人物なのか─。
「本当に好きな相手だから言えないと男性をかばう女子高校生や結婚する予定だったけど、相手がいなくなったという相談もありました」
と話すのは匿名で赤ちゃんを預け入れることができる『こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)』を運営する熊本県の慈恵病院の担当者。
SNSで知り合った男性、彼氏、夫、妻子持ち、未成年の少女と性的な関係を持ち、逮捕を恐れて逃げた成人……社会的な地位がある人物から未成年まで、逃げる『父親』は多岐にわたる。
新型コロナ禍による休校措置で親の目が行き届かない時間が増えた影響もあり、中高生の妊娠が問題になっている。同病院でも4月から相談が増え続け実際、妊娠していた件数も多かった。前出・慈恵病院の担当者は、
「相談できている女性はほんのひと握り。1人で悩みを抱えている人はもっといると思います。今後、新生児遺棄が増えるのではと心配です」
男性は逃げ、女性は誰にも相談できずに孤立していくことで悲劇が起こる。
「未成年の場合、親に心配かけたくない。話したら怒られる、と口をそろえます。親との関係も崩れてしまう、と子どもは恐れるんです。相談窓口や相談できる第三者は必要です」(前出・竹田さん)
実父や母親の彼氏から性暴力を受けている被害者たちはさらに過酷だ。
「加害男性は誰にも言わない、大騒ぎしないと見越して行為に及んでいます。被害者なのに、お母さんに心配かけたくない、両親の関係が悪くなるのは嫌、と性暴力も妊娠も誰にも相談できずに追い詰められてしまうんです」(同)
1人で自宅での出産は赤ちゃんが亡くなる確率も高い。
「亡くなれば母親は罪に問われます。母子を守るためにはきちんと相談ができ、安全な場所でお産ができるよう、社会全体で考えなくてはいけません」(前出・担当者)
逮捕、起訴されれば母親は法廷でこれまでの人生から家族関係、男性との関係まで洗いざらい、公にされる。
「罪の思いに苛まれ続け、女性の将来はめちゃくちゃになってしまいます」(同)
男性は“出したら終わりの生き物”
一方の『無責任な父親』たちはのうのうと生き続ける。新潟青陵大学の碓井真史教授(犯罪心理学)は、
「男性に罪の意識はないでしょうし、遺棄されたのは自分の子どもとも思っていない。母親に対しても愛した女性という感覚も鈍い。人間の心理は自分に都合よく物事を考えるようになっているので、自分のことは棚に上げ、逮捕された母親に対して、“俺に迷惑かけるな”という意識を持つことが考えられます」
竹田さんは以前、19歳の元彼からレイプされ、妊娠した18歳の女性から相談を受けたことがあった。竹田さんが相手の男性と対峙すると、
「オレの子じゃない、責任はない、の一点張り。謝罪はおろか、彼女の身体の心配もお腹の子どものことも何も言っていませんでした」
女性は当初、妊娠を誰にも相談できず最悪、出産後に遺棄していた可能性も否定できなかったと明かしたという。
ではなぜ『無責任な父親』が生まれるのか。
「言い方が悪いですが、男性は“出したら終わりの生き物”。身体の関係を持ったら終わりです。でも女性はそこからがスタート。連絡もとって、お付き合いも望みます。妊娠すれば女性は2人の間にできた子だから2人の責任と考えますが、男性はそうは思いません。都合が悪くなると逃げる生き物です」(同)
事件が起きれば「父親は誰だ」と世間は注目するが、公にはならない。社会的制裁も受けず、法的責任もないことが無責任さを助長させる。
「遺棄の幇助、とまではいかなくても父親になんらかの責任をとらせることができる法整備は必要です」(同)
子育ての負担が母親に集中しすぎ
『無責任な父親』とは対極にいる子育て中の父親はどのように考えているのか。父親の育児やシングルファーザーの支援を行う『NPO法人ファザーリング・ジャパン』の徳倉康之理事に聞いた。
「無責任な父親は私たちの団体には、まず問い合わせてはきません。生物学的な父親ではなくて、『お父さん』は子どもが生まれ、成長していく過程で芽生えていくんです」
妊娠中を含め父親がそばにいなくても子どもは育つ。母子と距離をとる男性は関心ごとからはずれていくという。
「もっと言えば無責任な男性はきちんと避妊をしない、お付き合いに関しても手順を踏まないなど、すでに無責任な行動をとっているんです。だからこそ逃げられるのだと思います」(前出・徳倉さん)
子育ての第一責任者は母親だという意識も依然として根強いことも起因する。
「子育てに関する抜本的な支援の強化も必要です。虐待事件を含め、実母が加害者になることがありますが、そこには子育ての負担が母親に集中している背景があります」
と女性支援や性暴力被害の根絶に尽力する日本共産党の本村伸子衆院議員は訴える。
「結婚していなくとも父親は父親。養育責任は養育費の支払いも含めてあります。子育ての負担についても、両親のどちらでもシングルで子育てをする可能性はありますから、家族だけに負わせずに、社会全体で子育てをする仕組みをつくることが必要です」
しかし、『無責任な父親』の意識を変えることは難しい。
法で裁かれなくても『無責任な父親』たちの犯した罪は永遠に許されることはない。