事件現場となった容疑者一家の自宅。左側が容疑者の自動車で、右が月代さんのもの

「おとなしくて、まじめで賢く、可愛い子だった」

「小さなころから英語がうまかったのに」

 と知人には記憶されている男が、9月下旬の連休中、敬老の日の直前に、年老いた母を素手で殴って殺害した─。

 20日の午前1時ごろ、

「トイレに行こうとしたら、母親が倒れている」

 と埼玉県深谷市の佐藤陽亮容疑者(38)は、みずから119番通報。救急隊員が駆けつけると、母親の月代さん(72)が1階の廊下であおむけに倒れており、心肺停止の状態。すぐに病院に搬送されたが、その後、死亡が確認された。

結婚9年目に生まれたひとりっ子

 月代さんの顔面には拳で殴られた痕跡がいくつもあったという……。

「昔から親子間のトラブルが絶えなくて、警察がよく来ていました」

「もともと近所付き合いをほとんどしない家で、そんな面倒な部分もあったから、余計に避けていました」

 近所の住民たちは、佐藤家について口々にそう話すが、

 どんな家族だったのか─。一家をサポートしていたAさんが明かしてくれた(以下、同)。

「父親は地元の有名企業に勤めていましたが、約10年前に病気で他界。月代さんは自宅で英語塾を開いていました。息子さんは結婚して9年目にようやく生まれたひとりっ子で溺愛されていましたよ」

 大学を出て留学経験もあった月代さんは教育熱心だったが、厳しい面もあった。

「ヨウちゃんは幼いころからそれに反発していた。賢かったけれど、協調性がないこともある発達障害の傾向があることがわかりました」

 容疑者が手に負えない時期もあり、父親の実家に預けられたこともあったという。

「祖母はヨウちゃんを猫可愛がりしたようで、お母さんの悪口を吹き込んだ。嫁と姑の関係ですから。すると、ヨウちゃんはおばあちゃんが大好きになって、お母さんはその次の存在になったようです」

 地元の小・中学校では、目立つ存在ではなかったという容疑者。同級生が語る。

「勉強ができましたね。中学校のときは、いつもワイシャツのいちばん上のボタンをきっちり留めていた。生徒会に入っていて、文化祭なども積極的にやっていた印象もあります。

 話題は、いつも勉強のこと。勉強はホントに努力家でしたね。ゲーム、アニメ、マンガ、芸能界、異性の話などはしたことがない」

 別の同級生は、

「はしゃいでいる姿は1度も見たことがないですよ。親友はいなかったかも。でも、同窓会だったか、成人式のときだったか、酒を飲んで周りと打ち解けて笑っていたので、肩の力が抜けたなぁと思ったんですが……」

刃物を振り回したことも

 高校卒業後は、学習院大学法学部へ進学した。その後は、有名企業に就職したようだが、“奇行”が目立つようになった。

 近所の居酒屋店主の話によると、

「きちんとスーツを着て“新幹線で通勤していて、検察官をやっています”と話してました。カラオケで『ラバウル小唄』などの軍歌を歌って、お酒を飲んですっと帰るの。一時、自宅の玄関前に新興宗教のポスターが貼ってあったこともありましたが、とにかく変わった子だなぁと」

 仕事は長続きせず、実家で過ごす日々が多かったようだ。

「ときどきネットカフェや飲みには出かけていましたが、それ以外は家でした。糖尿病を患っていたお母さんもほとんど家にいたので、口論が絶えなくてね。

 お母さんはよく、私の家に逃げ込んで来ました。腕とふくらはぎにアザがあったこともあります。息子さんが刃物を振り回して騒動になったこともありました」(前出のAさん・以下同)

性格が強く似た者同士だった

 父親が亡くなってからは、親子ゲンカの歯止めがきかなくなったのだ。

「お母さんはヨウちゃんが幼いころからずっと精神科、カウンセラー、警察、養護施設、市役所などにしきりに相談に行っていました。子どものことに一生懸命でした」

 親子仲は濃密なようで、恋人ができたときにも、佐藤容疑者は母親にすぐに報告したという。

「パソコンが好きなのでネットで知り合ったのでしょうが、お母さんに写真を見せて、“この子と結婚する”と。お母さんが“あまりきれいじゃないわね”と言うと、“オレにはそのくらいが合っているんだ”と、応じたそうです。

 プロポーズするためにペアリングを買ったようですが、しばらくすると、“いらなくなった。お前が使え”と、お母さんにあげたようです」

 一方、トラブルになるときは、金の無心などささいなことが多かった。

「ヨウちゃんは心からお母さんが嫌いなわけではないんです。いなくなると“お母さんは来てる?”と心配して、うちに来ていましたから。顔も似ているし、お互いに性格が強い、似たもの同士がいつも一緒にいるから、ケンカになるんです」

 実は、月代さんはそんな日々のトラブルや心配事を克明に記したメモを手帳に残しているという─。

「殺そうと思って殺したのではないと思いますよ。だから、逃亡せずに救急車を呼んだのです。いまごろは後悔して、悲しんでいるはず」

 容疑者が母親のメモを見たら、その後悔や悲しみはさらに深まるのだろうか。