小泉今日子

 最近、政治について発言する芸能人が増えている。そのひとりが小泉今日子(54)だ。

独自の路線を突き進む小泉今日子

 5月には『検察庁法改正案』問題での政府の姿勢をめぐり、ツイッターで抗議運動を展開。

「こんなにたくさんの嘘をついたら、本人の精神だって辛いはずだ。政治家だって人間だもの」

 というつぶやきをして、そこに「さよなら安倍総理」「赤木さんの再調査を求めます」というハッシュタグを付け加えたりした。が、政治家から「根拠のないまま嘘と言うのであれば誹謗中傷だ」(参議院議員・和田政宗)という反論も浴びることに。

 同月には、共産党の機関紙『しんぶん赤旗』で渡辺えりと対談した。そんな経緯から「小泉今日子『共産党から出馬』準備」(週刊アサヒ芸能)という報道も出たが、本人は「あんなウソを平気で書くなんて」と、ツイッターで否定している。

 なお、ここ数年の彼女といえば、俳優・豊原功補との不倫を公表して、長年所属した大手事務所から独立。政権批判をするようになったのは、豊原の影響もあるとされる。この調子だと、自身の出馬はともかく、誰かの応援演説くらいは買って出そうな勢いだ。

 ただ、デビュー以来の動きを見ていると、これはさほど驚くことではない。この人は昔から、今でいう“意識高い系”なのが売りだからだ。

 というのも、彼女は日本レコード大賞の新人賞5組に入れなかった。はるかに売れていたシブがき隊や松本伊代はともかく、早見優や石川秀美、堀ちえみにも負けたのだ。ライバルたちには、英語や足の速さ、のちに“ドジでのろまなカメ”と呼ばれるキャラといった売りがあったのに対し、彼女にはそれがなかった。

脱・王道アイドルでブレイクする小泉

 そこで翌年以降「でも、それがきっかけで開き直っちゃった」として路線を変更。髪を短くカリアゲたり全身、黒塗りのアートっぽいビキニグラビアをやったり、迷惑をかける人を「甘えてんじゃねーよ、バーカ」と怒鳴りつけた話をするなど、王道アイドルのあえて逆を行くことでブレイクしていく。

 そこには、いわゆる元ヤンっぽい気質もプラスに働いたのだろう。また、反体制的なものを好むメディアや文化人にも面白がられ、ちやほやされた。

 そう、実はこの成功体験こそ彼女の原点なのだ。最近の政治発言も、その延長線上にある。元ヤン気質だから権力には反発したいし、そこを頭のよさそうな人からほめられればうれしい、という感覚が根っこにあるのだろう。

 驚くとすれば、そんな最近の彼女を支持する人もそれなりにいること。それはたぶん、アイドル時代、こんな発言をするところが好きだった層である。

「セブン-イレブンでおにぎりを買うときも、ビギなんかのカッコいい袋を持って行くことにしまーす」(フライデー)

 写真誌に撮られた際、コンビニの袋を持っていたことが情けなかったとして発した言葉だ。最近の政治発言も、コアなファンには「カッコいい袋」に見えているのではないか。

 彼女の場合、永瀬正敏と離婚せず、幸せな家庭を育めていれば、人生観も変わったかもしれない。が、ママタレにならなかった分、コアなファンにとっての永遠のアイドルでいられるともいえる。

 代表曲『なんてったってアイドル』で歌ったように、やっぱり「アイドルはやめられない」ものらしい。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。