7月の三浦春馬さんから、芸能人が自ら命を絶つケースが続いている。
「1986年の岡田有希子さんや、1998年のX JAPANのhideさんが亡くなったときは、後追いとみられるファンの自殺が相次ぎました。今回はそういうことがないといいのですが……」(スポーツ紙記者)
三浦さんの死後、彼のサーフィンの師だった卯都木睦さんのもとには、多くのファンから相談が寄せられている。
「多いときは、日に60件ほど相談の電話が来ていましたね。春馬が死んだことで、“生きていたくない” “生きていく気力がない”と話す方が多いです。電話口で20分以上も泣いている方もいました」
三浦さんの地元の海で女性が自殺
茨城のご当地ヒーロー『イバライガー』の運営に携わっている卯都木さんは、正義の味方として悩みに答えている。
「後追い自殺を考える気力、根性があるなら、彼のぶんまで生き延びて自分の生きた証を残そうよ、って諭したりしています。しっかり話すと、“春馬さんのぶんまで頑張ります”って気持ちになってくれる人が多いんですが……」
納得せず、“春馬さんがいないと生きていけない”と話す人もいるという。
「春馬がサーフィンをしていた海を教えてほしいという電話がありました。イヤな予感がして、答えずにはぐらかしたんですが、2~3日後に茨城の海岸で女性の自殺があったという新聞記事を見ましてね。まさかとは思いつつも、そういう電話を受けた後でしたから心が痛くなりました」
卯都木さんは個人的にファンの相談を受けたが、そうした悩みに対応する組織もある。『いのちの電話』だ。
「『いのちの電話』の活動は1953年にロンドンで始まりました。キャッチフレーズは“電話で自殺予防”です。日本では1971年に東京で活動が開始され、現在では全国で50の相談センターが活動しています」(病院関係者)
新聞やテレビなどでは、自殺報道にあわせて『いのちの電話』の連絡先を案内することが多い。テレビ番組のディレクターとして自殺問題を取材してきた放送作家の大嶋智博さんによると、
「2000年にWHOが公表した自殺予防のためのガイドラインの中に、報道の際は“どこに支援を求めることができるのかについて、情報を提供する”という項目があります。それに基づいて、日本では『いのちの電話』の電話番号を案内することが多いです」
ただ、一部では不満の声も。電話をかけてもなかなかつながらないというのだ。受付時間が午後10時までというのも実情に合っていない。実際に電話をしたことがあるという40代女性に話を聞いた。
「結婚を考えていた男性に裏切られて“もう生きていてもしかたないかな……”みたいな気分になったときに、電話をかけてみたんですが、全然つながらなくて。いま思えば本当に死にたいと思っていたというより、そう考えてしまっていることを誰かに聞いてほしかったんだと思います。私は大丈夫でしたが、つながらないことで気分が一層落ち込む人もいるでしょうね」
『いのちの電話』が抱える問題点
最後の頼みの綱をつかむことができない。不安を抱える人が増えている状況に『いのちの電話』が対応できていないのだ。
「『いのちの電話』は人員も予算も足りていません。厚生労働省の自殺対策予算は増加していますが、民間主体の『いのちの電話』への補助までは手が回っていないのです。ボランティアや寄付で成り立っていますので、東京や大阪などの都市圏はともかく、地方だと携わっている人間が1~2人ということも。
『いのちの電話』という全国的な団体があるわけではなく、地域ごとの運営母体は自治体だったり、宗教団体だったりとさまざま。全国放送の番組では十分に説明する時間がないので一応の代表である『いのちの電話連盟』のナビダイヤルを伝えているんですが、そこに電話が殺到してしまい、つながらない状態になっているんだと思います」(大嶋さん)
実は『いのちの電話』以外にもこころの相談窓口はある。
「厚労省は『こころの健康相談統一ダイヤル』を運用していて、各自治体が運営する公的な相談機関の案内をする電話サービスを実施しています。電話だけでなく、SNSを通じてメッセージで相談を受ける活動もありますが、まだ広く知られているとはいえませんね」(大嶋さん)
『いのちの電話連盟』事務局に、現状について聞いた。
「緊急事態宣言下で多くのセンターが休止を余儀なくされました。宣言解除後も、コロナ以前の状態には戻りきっていません。相談員はボランティアで成り立っています。高齢の方も多く、相談員の役目を果たしてほしい、と強制することはできないんです」
報道で伝えられる電話番号は、実は全国のセンターで対応している。
「1つ目のセンターが取れなければ次、2つ目が取れなければその次と、全国のセンターにつないでいます。ナビダイヤルでの受付は午後10時までですが、センターごとに受付時間が違い、24時間やっているところもありますからいつでも電話はしていただけるんですよ」(事務局)
しのだの森ホスピタル理事長で精神科医の信田広晶さんは、コロナ禍に自殺報道が重なる状況に危機感を持つ。
「今はまだ“頑張ろう”“コロナに立ち向かおう”という気持ちを持っている方が多いでしょう。ですが、心配なのは“コロナ疲れ”。時間がたつにつれて限界を超える人々が増え、うつ病になる人が多くなってくるのではないか、と危惧しています。実際に8月くらいからうつ状態で来院される方が増えてきています。自殺報道で抑うつ状態が強くなる人もいます。竹内結子さんの報道を聞いて調子が悪くなり、われわれの病院にうつ状態で入院した方がもうすでに何名かいらっしゃいます」
季節的にも、気が滅入る要素が増えていく。
「秋になると次第に日照時間が短くなります。夕方や夜は物悲しくなる時間帯です。夜の時間帯が増えてくると、人は孤独感や不安感を感じやすくなります。秋から冬は特に注意したほうがいいですね。コロナに気をつけながらも、ある程度は外に出てコミュニケーションをとっていくことが大切でしょう」(信田さん)
テレビや映画で親しんでいた芸能人の姿が消えたことは悲しい。でも、人々がそれを乗り越え強く生きていくことを彼らも望んでいる。
もしもの時の主な電話相談窓口
「いのちの電話 ナビダイヤル」
電話0570-783-556 受付時間:午前10時~午後10時
※時間外でも、24時間相談を受け付けている全国のセンターに居住地を問わず連絡できます。
「こころの健康相談統一ダイヤル」
電話0570-064-556 受付時間は都道府県によって異なります
「よりそいホットライン」
電話0120-279-338 受付時間:24時間対応
(岩手県・宮城県・福島県から電話0120-279-226)