今年の9月場所で優勝を勝ち取り、大関昇進を果たした時津風部屋の正代。そんな彼と優勝争いを繰り広げたのが、“小柄でイケメン”という力士らしからぬ個性を持った翔猿だった。新入幕で優勝という106年ぶりの大記録に迫った、期待の若手の素顔とは─。
四股名の由来は“申年生まれ”
9月13日から開催された大相撲秋場所は、13勝2敗という成績を残した正代の優勝で幕を閉じた。
「正代は時津風部屋の力士。熊本県出身の力士として初の優勝を飾りました。今回の優勝を受けて大関昇進が決定。熊本県出身の大関は栃光関以来58年ぶりです」(スポーツ紙記者)
その正代と優勝を争った翔猿は、もし勝っていれば大記録達成の可能性があった。
「大相撲の番付は下から序ノ口、序二段、三段目、幕下、十両、幕内と6段階。初めて幕内に入ることを新入幕というのですが、翔猿も秋場所が新入幕でした。新入幕力士の優勝は、大正3年夏場所に両国という力士が成し遂げたのが唯一。翔猿が優勝すれば106年ぶりの快挙でした」(同・スポーツ紙記者)
千秋楽で翔猿は正代を押し込むものの、土俵際で突き落としを食らって逆転負け。それでも11勝4敗と大健闘し、敢闘賞を受賞した。
「翔猿は東京都江戸川区の出身。彼の兄も英乃海という力士です。お兄さんは身長185センチ156キロという堂々たる体格なのに、翔猿は175センチ、131キロ。力士としては小柄ですが、素早い攻めで大型力士を翻弄する相撲が持ち味。申年生まれで猿のように動きまわることから、四股名に猿の文字を入れたそうです」(相撲ライター)
幼少期から熱血漢だった
スピーディーな取り口以外にも、人気の秘密がある。
「目鼻立ちがくっきりしていてイケメンですよね。取組後のインタビューではユーモアたっぷりにハキハキと話していて、いい意味でお相撲さんらしくないのも新鮮です。すぐファンになっちゃいました!」(相撲ファンの女性)
彼の地元の東京・小岩では角界の新スター誕生に沸いている。しかし、翔猿の実家近くに住む女性は、突然の活躍に驚きを隠せない。
「お兄さんが力士になったということは有名でしたが、弟さんも相撲をしていたことは今回の優勝争いで初めて知りました。お兄さんは小さいときから身体が大きく、あだ名は“ジャイアン”。でも、おっとりした性格でしたね。逆に弟さんは活発な性格。サッカーや野球などいろいろなスポーツをしていて、友達と街中を走り回っていました。それでいて正義感が強く、いじめられている子を助けたりするような一面もありましたね」
幼少期から熱血漢だった翔猿。彼は兄の影響で相撲を始め、実家のほど近くにあった『葛飾白鳥相撲教室』で一緒に稽古した。
「いたずら小僧で、当時はやんちゃ盛り。相撲教室でも楽しくワイワイ騒いでいたな。それを叱ったりするとさっさと逃げたりしていたよ(笑)。足が速くて運動神経はよかったね。あのころから今と同じ前傾姿勢で立ち向かう相撲を取っていたよ。学校を休んでも相撲の稽古には必ず来ていたから、真剣に取り組んでいたと思う」(相撲を教えていた佐久間幸一さん)
とはいえ、最初から強い選手ではなかったらしい。
「小学生でも体重が100キロを超える選手はたくさんいるからね。兄の英乃海と違って普通の体形だし、食も太いほうじゃなかったから当時は苦労したと思うよ。それでも大きな相手にも真正面から向かっていく度胸があったね」(佐久間さん)
とにかく男にモテモテだった
メキメキと実力を伸ばしていったのは、小学校高学年から中学生にかけての時期だった。
「だんだん身体ができてきて、体格のいい相手にも勝てるようになってきてね。同学年の中でもトップクラスの強さになっていたよ」(佐久間さん)
相撲にのめり込んでいった翔猿は、相撲の名門といわれる埼玉栄高校に進学する。
「2年生のころからどんどん実力をつけて全国大会の団体戦で優勝。人望もあって、3年生のときにはキャプテンに選ばれました」(相撲部の山田道紀監督)
高校時代は、寮で部員同士の共同生活をしていた。
「人懐っこく口も達者でみんなに好かれていたね。とにかく男にモテモテだったよ。女子は知らないけどね(笑)。あるとき、翔猿に“お前は男前だから活躍したら女性人気も出るかもしれないな”って冗談っぽく話したこともあったけど、まさか本当にそうなるとはね……」(山田監督)
高校卒業後は日本大学経済学部に進み、相撲部に入部。
「大学相撲で結果を残した翔猿はプロを決意。日大出身が多いという理由で追手風部屋に入門。あまりのスピード出世でマゲも結えず四股名をつけるタイミングを逃したことで知られる遠藤が同部屋です」(前出・スポーツ紙記者)
力士になってからも、高校時代の縁は続いている。
「秋場所の前、高校の後輩たちにお米を600キロも送ってくれたんだよ。幕内に上がったことでの感謝の気持ちだったんだろうね。心の余裕もあったんじゃないかな。今後はケガをしないで頑張ってほしい」(山田監督)
休憩時間は英単語の勉強
追手風部屋の近くで蕎麦店『ほてい屋』を営む片岡三男さんは、入門当時から翔猿を応援している。
「うちは追手風部屋と長い付き合いでね。今はコロナウイルスの影響であまり来られないけど、以前はよくうちに来てくれていたよ。今でも週に1回か2回、夜に本人が電話で出前を頼んでくれるね。うどんや蕎麦とどんぶりが一緒になった天丼セットやカツ丼セット、ヒレカツセットの注文が多いかな」
健康を第一に考え外出を控えて過ごすことが多い。
「今は感染しないように稽古漬けの日々を送っているみたい。夜遊びの話も聞かないね。昔はいたずらっ子だったようだけど、今じゃ立派でまじめな力士だよ。最近は、休憩時間にタブレットを使って英単語の勉強をしているらしいよ」(片岡さん)
イケメン力士が英語を身につければ世界に相撲の面白さを伝えられるはず!