いつまでも帰宅しない少女。心配した親は警察に通報し、周囲も心当たりを捜し回った。一緒にいたのは「生徒指導に熱心」と評判のいい公立中の先生だった。
「逮捕は何かの間違いではないかと思っている。生徒や保護者から絶大な信頼を集めていたあの先生に限って……」
と、容疑者を知る男性は事件を信じられない様子。
まじめで実直な先生
「もうすぐ校長だった」
その先生は、静岡県沼津市立中学校の教頭・山本英仁容疑者。9月下旬に県東部に住む10代の少女を車に乗せて誘拐し、車内に監禁した疑いが持たれている。
「少女の話から関与が浮上し、未成年者誘拐と逮捕監禁の疑いで10月4日に逮捕、翌5日に送検された。警察は被害者が特定されるおそれなどがあるとして、少女との関係性や犯行の詳細、容疑を認めているかどうかも明らかにしていない」(地元記者)
少女の親から「娘が帰ってこない」と110番通報があり発覚。関係者によると、事件や事故に巻き込まれたのではないかと周囲が心配して行方を捜すなか、少女は歩いて無事帰宅したという。
年の離れた山本容疑者との接点はどこにあったのか。
冒頭の男性は言う。
「山本容疑者は以前、少女が通う中学で教頭を務めていたことがある。少女にケガはなく、事件翌日も普段どおりに登校したと聞きホッとしている。誘拐目的が明かされていないが、やましくない事情があったのではないか。なにしろ、まじめで実直な先生だから」
つまり、「教頭と生徒」の関係だったということ。
教師歴は約30年。大学卒業後、美術教師の道を選んだ。2000年には沼津市内の小学生による工作コンテストの審査員を務め、静岡新聞の取材に「子どもなりのこだわりや夢を感じる秀作が多い」と語っている。同年度、市教委の「教育研究奨励賞」の優良賞を受賞。こうした生徒指導などの実績が認められ学年主任、教頭と駆け上がった。
今春、現在勤務する公立中に赴任したばかりで「もうすぐ校長だったのに」(学校関係者)というタイミングだった。
勤務校を遡り、複数の教え子から話を聞いた。
「ほかの先生がジャージーなんかで通勤するなか、山本先生はいつもきちっとスーツ姿で、美術の授業もスーツでした。富士山の絵を描く授業があって、なかなかうまく描けないでいると、熱心に手伝ってくれたことを覚えています」
と30代男性は振り返る。
別の30代男性は、逮捕のニュース映像で流れた容疑者を「少しやつれたように見えましたね」と言う。
「硬派で威勢のいい先生でしたから。生徒から悩みを相談されるようなタイプではなく、生徒とは一定の距離を保っているようすでした。生活指導担当として校則を見直す立場でもありました」(同男性)
山本容疑者の母親は
やがて、人間性も丸みを帯びていったようだ。
「まじめに授業を受けなかったりすると厳しく叱られましたけど、誰にでもやさしくてみなから好かれていました。生徒が真剣に悩んでいると、ちゃんと話を聞いてくれましたよ」
と20代男性。
一方、同県富士市の容疑者宅周辺でも「礼儀正しく謙虚な方」(近所の女性)などと評判がよかった。妻子がおり、両親とも同居している。少女を車で連れ去った目的は何だったのか。
自宅を訪ねると、山本容疑者の母親が「お話しできないんです」と指でバツ印をつくりながら、「息子は悪いことをしていないと信じています」とだけ話した。車中で、少女の相談に乗っていたとでも言うのだろうか──。