中村獅童 撮影/森田晃博

「誠実でまっすぐ、ウソがない。男らしく信頼できる人間を意識して演じました」
 
 江戸を舞台に境遇の違った女性ふたりの友情を描いた映画『みをつくし料理帖』(10月16日公開)で、ふたりを見守る料理番を演じた中村獅童。
 
 原作は400万部を超すベストセラーで、NHKなどでドラマ化されたが映画化は初めて。角川春樹氏が最後の監督作品として手がけ、旧知の監督からオファーを受けた。

「監督は、亡くなった母と句会が一緒で、子どものころからの知り合いです。僕が無名のころから応援し続けてくださるので恩義を感じています。最後の作品に声をかけていただけた特別な思いと、役者として必要とされていることも重なって、うれしかったです

歌舞伎で主役は無理
映画から“逆輸入”

 出演した角川監督のプロデュース映画『男たちの大和/YAMATO』(2005年公開)は大ヒット。オーディションでつかんだデビュー映画『ピンポン』( '02年公開)とともに、代表作になった。

19歳のときに“歌舞伎で主役は無理です”と言われたけど、あきらめずにチャレンジして自分の道を切り開いていくと決めました。そうしたなかで、映画が僕の名前を世に広めてくれたと思います
 
 知名度で映画から歌舞伎に“逆輸入”され、今では花形役者のひとりに。梨園に生まれながら、父親が廃業した環境で歌舞伎役者を目指し人知れぬ苦労があったと想像するが、

「今、思うと楽しかったし、運がよかっただけ。自分ひとりで闘って、勝ち取った気分になっていたけど、そんなことはなくて、ずっと信頼してくれた両親からあきらめないということを教えてもらった。あきらめたら終わり。悔いの残らない、潔い生き方をしたいと思うことにつながっています

失敗も、批判も覚悟
私生活を動画で発信

 コロナ禍の今春、『中村獅童一家』と題したYouTubeとインスタグラムを始め、3歳の長男・陽喜(はるき)君と7月に生まれた次男・夏幹(なつき)君との親子ぶりを公開している。

「SNSをやることは半信半疑でした。僕が知っているスターは私生活を見せず、夢と現実の境界線があったけど、今は、それがない時代。スマートフォンひとつで何でも見ることができる。現実を見せないことも考えたけど、時代に取り残されないようにチャレンジしている部分もあります。
 
 YouTubeやインスタは、本名の小川幹弘として、子育てをしているリアルな姿をお見せしています。歌舞伎や映画は夢。現実をお見せすることで、ちょっと夢を見たくなったと思っていただけたら、うれしいです。

 “コロナで気持ちが沈んでいたけど、陽喜君の笑顔に癒された”というコメントに、芝居以外でも(ファンを)笑顔にできる。SNSで発信していく方法もあるというのをやってみて学びました
 
 批判的なコメントが寄せられることも覚悟している。

過去は消せるものではなく、いいこともあれば、失敗もしてきました。以前は、世の中に対してカッコつけていたときがあったかもしれないけど、今は何を見られても恥ずかしくないと思えるようになりました。役者としても、父親としても何事にも誠実に向き合い、自分が好きな仕事を純粋に追いかけている生き方は、子どもたちにも伝わると思っています

兄弟とも歌舞伎役者はNG

 陽喜君は、すでに見得を切って歌舞伎のまねをしているそう。「歌舞伎役者になってほしいとは思うけど、3代目中村獅童を継ぐという期待感を押しつけるのはかわいそう。僕は歌舞伎とロックが好きで、子どもがやってくれたら、うれしいかな。長男は歌舞伎、次男はロックバンドとか。ふたりとも歌舞伎役者は、役の取り合いで摩擦が生まれて、兄弟仲が悪くなるから嫌ですね

(C)2020映画「みをつくし料理帖」製作委員会

角川春樹監督ラスト作に出演
『みをつくし料理帖』


【物語】大坂で育った幼なじみの澪(松本穂香)と野江(奈緒)は、大洪水で生き別れに。10年後、江戸で女料理人として腕を磨く澪。澪が作った料理が評判になり、吉原で幻の花魁といわれる、あさひ太夫(野江)に仕える料理番の又次(中村獅童)が訪ねてくる。それをきっかけに、ふたりの運命が動き出す。