坂東眞理子さん

「“断捨離”に“終活”。捨てたり、終わったり……こんなネガティブなフレーズが“人生の後半”に紐(ひも)づけられて、世にあふれています。私はいま74歳ですが、そんな言葉は好きじゃないな」

 と、語るのは大ベストセラー『女性の品格』の著者で昭和女子大学総長・理事長の坂東眞理子さんだ。人生100年時代と言われて久しい現在。

「年を重ねることに対して、“人生下り坂、何もすることがない”など後ろを向かず、もっと前を向いて生きてほしい。50代、60代はこれからの新しい後半人生を切り開くパイオニアになってもらわなきゃ!」(坂東さん、以下同)

60歳で終活を考えるのは早すぎる

 近著『老活のすすめ』(飛鳥新社)では、笑顔の80歳になるための心得をまとめた。

「60歳で悠々自適や、終活などを考えるのは早すぎる。今の時代、60代、70代はまだまだ元気な人も多いですから」

 タイトルにある老活は「おいかつ」と読む。坂東さん作の造語だ。年を重ねるごとに気弱になっていく自分に「おーい、カツ!」と喝(かつ)を入れたい、と思いを込めた。

 そもそも日本人女性の平均寿命は87・45歳。60歳の人の平均余命は29・17歳もある。1960年代ごろまでは日本人男性の平均寿命は60代後半だった。その名残でバリバリ働く60歳前後を過ぎると余生は好きにのんびり過ごしたいと考える人が多かった。

 だが、今や自由気ままに穏やかに暮らす老後など、もはや経済的、精神的にも難しい。長くなった老後のことを考えると不安しかない、という読者も少なくないだろう。

 老後に必要なお金とされる2000万円問題も、

「定年後から20年かけて毎年100万円稼ぐと考えれば、無理なく近しい金額を備えられるのではないでしょうか」

 そのためにも子育てを終えたなら、少しずつでも準備をして、納得できる仕事に就けるよう目指そう。アラフィフ、アラカン世代は高学歴にもかかわらず、寿退社でキャリアを中断した人も多い。だからといって「もう正規の仕事には就けない」と諦めるのは早すぎる。これからは後半人生のステージに入った人々が学び、働き続ける社会なのだ。

後半の人生も、前向きに歩んで!

「本学(昭和女子大学)も社会人向け1年制の大学院を開設します。このような流れは今後、増えていくはずです」

 とはいえ、50・80問題(※坂東さんによると50代の未婚の子が80代の親を看る社会問題)で、50代女性には“そろそろ親の介護が始まるから”と躊躇(ちゅうちょ)する人も多いかもしれない。

じっさいに起こるかどうか、わからないことを心配して何も動かないのはもったいない。私の知り合いの女性は数年前に“介護が始まるかもしれないから”と、素晴らしい仕事のオファーを断りました。でもね、そのお母様は今でもお元気なの。彼女“あの仕事、受ければよかったわ”と、悔しがっていましたよ」

 同様に自分が老後、子どもたちの負担にならないために今からできることはたくさんある。その第一歩が“私も自分なりに頑張ってきた”と人生を肯定することだ。他人の人生との比較ではなく、自分の尺度で「今の私」「過去の私」を受け入れること。そこから明るい後半人生は開ける。

「自己肯定感を持って。頑張ってきた自分を知っているのは自分だけ。自分の人生を受け入れられた人は、自分にも周囲にも優しくなれます」

 そのうえで“あいうえお”(写真ページのイラスト参照)はやめて、以下に紹介する“かきくけこ”を目指す。さらには“新友”をつくる、“ベター”を目指す、今日の用事や行く場所を持つといった『人生後半の3か条』(次ページで解説)を今からすぐにでも実践したい。

 50歳、60歳はもちろん、80歳、90歳になってもこれらを大切にすること。それこそがこれからの時代の“新しい人生後半の生き方”の心得になるに違いない。

【人生を明るくする「かきくけこ」】

か……感動
「なるほど」と感心、感激、感動する心を持ち続ける。

き……機嫌よく
意識して機嫌よく過ごすように努めるのが周囲への礼儀。

く……工夫して
同じことを繰り返さず、改善のための小さな工夫を。

け……健康
身体と心の健康が人生後半を充実して生きる基本。

こ……貢献・交流
新しい人と交流すると同時にできるだけ世話をし、貢献を。

坂東さんオススメ人生後半の3か条

■「親友」ではなく「新友」をつくるべし!

「親友」も大事だが、人生後半は新たな友人「新友」も大切。親友や旧友ばかりと付き合っていると世界が縮む。新しいことを始めることで「新友」もできる。

■「ベスト」でなく「ベター」を目指すべし!

 オール・オア・ナッシング思考に陥るのではなく、気づいたときにやればいい、ベター・ザン・ナッシング(ゼロよりマシ)思考で気楽に何事も実践しよう。

■「きょうよう」と「きょういく」を持つべし!

 今日用事(キョウヨウ)がある、今日行く(キョウイク)ところがあるのが大事。加齢とともに「行くところも、用事も誰かが与えてくれる」と受け身になりやすい。自分から積極的に仕事や用事をつくろう。

(取材・文/松岡理恵) 

《PROFILE》
坂東眞理子さん ◎​昭和女子大学総長。東大卒業後、'69年に総理府入り。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事などを経て、女性初の総領事(豪ブリスベーン)、内閣府初代男女共同参画局長を歴任。'04年、昭和女子大学学長を経て現職。ベストセラー『女性の品格』など著書多数。近著に『老活のすすめ』(飛鳥新社)

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