テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
夏を過ぎると、各テレビ局の新人アナウンサーがちらほらとお披露目される。「初鳴き」と言われるそうだ。4月に入社し、厳しい研修期間を経て、朝の番組や特番などで地上波デビュー。
なかには、番組内で新人アナに密着したコーナーをつくる過保護な局も。「新人さんはいいわね」と初々しさを愛でる……と思ったら大間違い。世間は(私も)アナウンサーに対して、とても厳しい。
「ニュースを読む」だけが仕事ではない
漢字をちょっとでも読み間違おうものなら、その後のアナウンサー人生でずーっとずーっと言われ続ける。言動が軽薄だと茶の間から嫌われ、真面目すぎても認識されず、「局の顔、あるいは番組の顔」として認知されるまでには、相当の時間がかかる。
ニュースを読めればいい存在ではなく、その場を秒単位で取り仕切る、あるいは大物芸能人や面倒くさい文化人のキツイ物言いを丸めたり、気持ちよく接待して掌で転がす。とはいえ、局の看板を背負っているので、自分の意見や見解は抑えなければいけない。限りなく透明に近い存在の割に、顔も知られているので、プライベートでもはっちゃけられず。テレビ局のアナウンサーって、心臓が剛毛で胃に穴があく過酷な職業だなと思っちゃう。
個人的には新人アナの初鳴きには、さほど興味がない。みんな同じ顔に見えるのよ。
男は爽やかな体育会系か、舌先三寸の2.5枚目系。女はゆるふわ癒し系か、くっきりはっきり美人系。地頭もお育ちもよくて、突出した個性は出すことなく、それなりに品行方正の20年強を生きてきた良家の子女のみなさんだもの。
芸能界やら政界やら梨園やら文学界の親戚筋として「人身御供」的な採用も匂う。勝ち組エリートの血筋と出自に、ありあまるというか、あふれ出す自信が、とても、まぶしい……。
楽しみは数年後。我と業が出てから♪
そんな良家の子女たちが、数年後テレビ業界の清濁を併せ飲み、あきらめたり、やさぐれたり、あるいは古巣を蹴って飛躍する姿を見るほうが楽しい。思うんだけど、最近、若手の離職率が高くない? 特に女性アナウンサーの転向と活躍が気持ちいいのよね。
テレ朝からフリーになり、TBSの『NEWS23』でメインキャスターとなった小川彩佳といい、TBSから足抜けして女優に転向し、男女の支持層を増やした田中みな実といい、不倫疑惑が報じられ、テレ東を“円満退社”した後はスキャンダル専門タレントになりつつある鷲見玲奈といい。
なんとなく「テレビ局が求める“女子アナ”像」に嫌気がさして、わが道を突き進んだイメージがある。あ、そうそう、忘れちゃいけない、元TBSでタレント・作家になった小島慶子も、このスジの先駆者だよね。
80年~90年代、“女子アナ”がブームだったとき、あまりに未来がなくて気の毒だなあと思ったことがある。いわゆる“女子アナ”は30代になると、出番が極端に減る。「アスリートと結婚」か「海外に移住し、セレブ生活を滔々と自慢する」か「なんちゃらアドバイザーとか、なんちゃらソムリエの資格をとる」ぐらいの行く末だったから。
結局、“女子アナ”というのは「若いとき限定の職種」であり、年齢という壁や天井にぶち当たり、傷つき、疲弊するしかないのか、とも思った。
ま、もちろん、“女子アナ”からキャスターの風格と威厳を身に着けた「女帝」もいるっちゃいる。野次専門のトンデモ政治家になっちゃった人もいるし、アナウンサー時代に事故やら騒動やらの波乱万丈を経験した後、頑張って司法試験に見事合格、弁護士になった人もいる。
ひとくくりにしちゃ失礼だけど、“女子アナ”に課せられた壁と天井は、少しずつ壊されてきたような気もする。
つまりは、我と業が出てきてからナンボ、と思っている。実際、何人かの女性アナウンサーと酒を飲んだことがあるのだが、みんな賢くて毒舌で豪快で楽しいオンナばかりなんだよ。「その面白さ、テレビの画面に出せばいいのに……」と思ったほど。
女性アナウンサーに求めるもの
そもそも視聴者は女性アナウンサーに何を求めるのか。「男だろうと女だろうと、ちゃんとニュースを読んでくれればいい」という人が大半だと思っていたのだが、世の中そうではないらしい。それを教えてくれたのは、『報道バズ ~メディアの嘘を追いかけろ!~』というネット配信のドラマだった(Amazonプライムビデオ、GYAO!ストアなど)。
主人公は、元・民放キー局のいわゆる「女子アナ」の和田明日佳(アメリカで活躍する俳優・本田真穂)。報道志望を訴えても、与えられる仕事はバラエティー番組。しかも、演出でチョコバナナ練乳がけを上目遣いで食べさせられるようなものばかり。
男の欲望目線でしか使われないことに心底嫌気がさし、ニューヨークのネットニュース編集局へ単身乗り込む。日本のテレビ局のタブーに斬り込み、「嘘のない報道」を目指すものの、立て続けにトラブルに見舞われて……という物語だ。
第4話で、和田が言及したのは「テレビでの女性の扱い」だった。局アナ時代、苦情やクレーム、誹謗中傷が毎日のように届いた。それは話した内容ではなく、髪形やメイク、服装など、いわゆる見た目に対するイチャモンが多かったという。
また、オーストラリアのテレビ局の男性キャスター、カール・ステファノビッチが実際に行った実験も紹介。彼は毎日同じスーツを着て、クリーニングもせず1年間テレビに出続けたが、誰も気づかなかった。
一方、毎日違う服装の女性キャスターには、服装や見た目に対する誹謗中傷が届いたという。しかも、女性キャスターに誹謗中傷を送るのは女性であると指摘。日本だけじゃないのね……。
劇中、和田は上半身下着姿で、「テレビはこうして女性の価値は見た目であるというメッセージを送っているのです」と話す。下着姿と何が違うのか、と皮肉を込め、「女性は清楚で魅力的でなければならない」という価値観の押し付けを問題視するべきと訴えた。
いや、ほんとそうだよね。そのうちアナウンサーを志望する女性なんていなくなるんじゃないかと危惧もする。
ということで、2020年入社の新人アナウンサーのみなさん! NHKは16名(8名)、日テレは4名(2名)、TBSは2名(1名)、テレ朝は4名(3名)、フジは3名(2名)、テレ東は1名(0名)。カッコ内が女性ね。
青息吐息のテレビ界を担うみなさんに期待するのは、個性と特性を前に前に。前近代的な価値観に唯々諾々とならず、独自の色をぜひ出してほしい。嘘臭さやわざとらしさ、予定調和を視聴者はもう求めていないからね。
そして、毎年、毎年、懲りずに作られている各局の女子アナ限定カレンダー、あれ、もうやめたら? 日テレは早々にやめて正解。このカレンダーに載るのは、ほぼほぼ若手のアナウンサー。年齢制限でも設けているのか、定義も意味不明。
たいていがひどい写真というか、センスのないカメラマンが撮影しているのも問題(シャンパングラスとか花とか持たせんなよ!)だし、なかには「あきらかに嫌がっている」顔の女性アナウンサーもいる(よく見ればわかる)。いやいや参加させられて、ダサイ服で古臭いポーズをとらされて気の毒だ。
逆に「今年はもう呼ばれなかった……」と複雑な思いをする女性アナウンサーだっているはず。誰が買うのか知らんが、あのカレンダー廃止に一票。女性アナウンサーを見た目と年齢で商品化するのをやめたってくれんか。
吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。