「動画を全部撮っておいて! 110番通報は頼んだから。いいよ、このままで警察が来るまで待っていよう」
と、胸ぐらをつかまれグイグイ揺さぶられている男性(72)が言うと、
「くだらねえなあ」
と、金髪男が吐き捨てる。
2年前、大きな石を投げられた
10月5日午後2時23分ごろのこと。埼玉県桶川市の歩道でこう言い争い、約10分後に駆けつけた県警上尾署が暴行の疑いで同日逮捕したのは、市内に住むパート従業員・成島明彦容疑者。
捜査員や近隣住民から通称「桶川のひょっこり男」「上尾のひょっこりはん」などと呼ばれる困った男だった。
車道のセンターライン付近を自転車で走り、対向車の前にひょっこり飛び出すなど危険な妨害行為を繰り返し、昨年9月にも逮捕されている。
「犯行動機は“運転手の驚く顔が見たかった”というあきれたもの。さいたま地裁は今年2月、道路交通法違反などで懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡したばかり。今回の事件で猶予は取り消され実刑を食らうことになるだろう」と、地元メディアの記者。
暴行のきっかけは“再犯”をとがめられたこと。被害男性が事件当日を振り返る。
「事件直前、弟が成島容疑者の蛇行運転に出くわしたと電話してきました。また、そんなことをやっているのかと腹を立てていたら、ちょうど成島容疑者が自転車で車道の真ん中を走ってきたんです」
後続の自動車は詰まって渋滞。すぐ後ろを走る女性ドライバーの困った表情が見えた。
被害男性は、
「おいっ、いいかげんにしろ! 危ねえだろ!」
と怒鳴りつけたという。
自転車から降りたところで再び注意し、言い合ううちに胸ぐらをつかまれた。
「関係ねえ。邪魔くせえ」
周囲が制止してもきかず、そう悪態をついた。
「私が成島容疑者を初めて知ったのは2年前。不自然に蛇行する自転車を見かけたので、“そんな危ないことをするんじゃない!”と叱り飛ばしたら、大きな石を投げつけられたんです」(被害男性)
石は左腰骨のあたりに当たった。拾い上げると、底辺約9・5センチ×高さ約8・5センチと、こぶし大の三角形の石で先端は尖っていた。
「そりゃ痛かったですよ。もし目に当たっていたら失明しますよ。石はずっと保管していたので、この日すぐ自宅から持ってきて、成島容疑者の口グセを逆手にとって“じゃあ、おまえにぶつけられたこの石を投げつけるけど、関係ねえですむんだな”と言ってやったんです。なぜ、謝ることができないのか」(同)
今回の暴行では、幸いケガはなかった。しかし、すごい力で前後に大きく揺さぶられたため、セーターの下に着たシャツは大きく裂けた。
ほとんどの地域住民が「関わりたくない」
「自転車に乗っていただけなのに文句を言われ腹が立った」と容疑を認めている。
地域住民によると、事件の約2~3か月前から“ひょっこり行為”を繰り返す自転車が再び出没していた。
「犯行エリアを少し変え、ドロップハンドルの白い自転車も黒い自転車に乗り換えたみたい。でも、黒ずくめの服装で金髪、サングラス、マスクだからバレバレでした」
と女性住民はあきれ顔。
ほとんどの地域住民が「関わりたくない」と接触を避ける中、成島容疑者を叱り続けた住民もいる。
「車の前に飛び出されてから、見かけるたびに“おにいさん、みんな迷惑してるんだよ”などと声をかけましたが、ほぼ無視されました。遠ざかってから“しつけーよ”とか言われたりして。悩みがあるなら飲みにでも連れて行こうかと思ったこともあったんですけどね」(地元商店の男性)
歩行中の妨害行為も繰り返し目撃されている。例えばヘッドホンをして道路の真ん中を歩き、後続車のクラクションに気づかないふりをする。車道寄りの歩道を歩き、車が近づく気配がすると、ひょっこり車道に飛び出す。
手に負えない男はどのような半生を送ってきたのか─。
千葉県北西部の出身。両親と姉の4人家族だった。
「すばしっこくて、鬼ごっこでは逃げるのがうまかった。いつもチャカチャカと動き回り、同級生からはいじられていた感じ。グレる寸前の下っ端タイプで、女子にはモテなかった。事件を起こすような度胸はなかった」(小・中学校で同級だった男性)
やがて両親が別居。姉も家を出て父親とふたり暮らしに。
近所の住民は言う。
「おとなしい子だったのに金髪に染め、自転車で遠くまで出かけて飛び出し行為をするようになったんです」
実家の父親に話を聞くと……
約3年前に桶川へ。家賃5万円弱のアパートでひとり暮らしを始めた。関係者によると、別居中の母親が現地まで来て「ひとり親で育ったので至らないところがあるかもしれませんが」と挨拶したという。
入居してすぐ騒音トラブルを起こす。夜中から明け方まで、J-POPの男性バンドの同じ曲ばかりを大音量で流すようになった。
男性住人はこう話す。
「管理会社に注意したら、成島くんはふんぞり返ってガニ股で歩き、無言の威嚇をしてくるようになった。タバコの吸い殻を部屋の前に捨てたり。そのくせ、睨みつけると目線をそらす。説教しようと思って、1度、飲みに誘ったんですよ」
昨春、居酒屋で酎ハイを酌み交わしながら、年上にあたる男性住人が「いま楽しいだろ? 社会のルールを守って近所付き合いをすれば楽しい時間が持てるようになるんだよ」と諭すと、素直に「はい」と答えたという。
「5歳若くサバを読み、自分のことは話そうとしませんでしたね。“オレ、もうジジイだから夜は眠らせてくれ”と言うと、“音楽はやめます”と約束して騒音は止まりました。2軒目のスナックでは照れていたし、あの夜は素直でおとなしかった」(同・男性)
昨年の逮捕まで勤めていた金属加工会社は辞め、工場で働き始めていた。関係者によると、職場では「いつも同じ服で、変な香水をつけて気持ち悪い」と悪評が立っていた。
飲みに連れて行ってもらったり、きちんと叱られるなど更生機会を再三、与えられながらすべて棒に振ってきた。
実家の父親を訪ね、逮捕をどう受け止めているか聞くと、
「知らない。全然関係ない。そんなこと聞いてどうすんの?」と言うばかり。
塀の中で長時間反省してもらうしかなさそうだ。