実家で親と同居する未婚の中年男性のことを「子ども部屋おじさん」という。ネガティブな印象を受けるが当事者たちはいたって楽観的。“勝ち組”とも思える彼らの生活に迫った。
両親との関係はいたって良好
3人の「子ども部屋おじさん」に取材をしたが、彼らは一様に穏やかで前向きなごく普通の青年だった。
ブログで自らのことを発信する三橋雄二さん(34歳・会社員=仮名)によると『子ども部屋おじさん』は実家暮らしで未婚の中年男性ということだけでなく、「学習机がある」「内向的」「現状について保守的な人が多い」「異性と交際したことがない」などの共通点があるという。
自立していないと言われるが、定職を持ち、稼いだお金を実家にしっかり入れている。ムダな家賃の支払いがないので、合理的ともいえる生活だ。貯蓄もある、家もある、同居する家族との関係もさほど悪くない……。結婚相手としてもアリでは?
●椎葉博之さん(38歳・会社員=仮名)
「ひとりっ子なので両親のことが心配です」
栃木県の椎葉博之さんは60代後半の両親と3人暮らし。1度は大学進学で県外に出たが、生活は苦しく、両親が心配だったこともあり、20代後半で実家に戻り、子ども部屋おじさんになった。
椎葉さんの部屋の隅には小学生のときから使っている学習机。パイプのロフトベッドは高校時代に購入、スーパーファミコンや漫画の単行本が置かれ、男子高校生の部屋という状態だ。
部屋の中央の座卓と座椅子が定位置。ここに座り、俳優の大泉洋が出演する『水曜どうでしょう』や格闘技のDVDを見ながらビールを飲むのが楽しみだという。
現在は県内の企業で正社員として働き、少額だというがボーナスもある。収入は安定し、貯金も300万円を超えている。
「最近、新車を購入しました。実家にも少しはお金を入れていますが、両親はそれを貯金しているようで……」
食事や家事は母親まかせ。ごくたまに父親と一緒に晩酌することもあり、両親との関係はいたって良好だ。
「ひとり暮らしから戻った身からすると実家のありがたみを実感します。結婚しても親と同居したいと考えています。出たほうが好きに暮らせるのはわかっていますが、両親の老後や収入、今後のことを考えたら……ひとりっ子ですし」
両親思いの椎葉さん。照れくさそうに笑った。
結婚しても親と同居したい
●竹内勇人さん(42歳・自営業=仮名)
「実家から出るメリットがわかりません」と語る竹内さん。
「親との同居は当たり前だと思っていたし、出ていく理由もないからひとり暮らしは考えたこともありません。親からも出ていけと言われたこともないです」
竹内さんは現在、首都圏の実家で70代の両親と暮らしている「子ども部屋おじさん」だ。会社員として働いていたときも実家から通った。今は自宅でユーチューブで配信をしたり、ゲームを自作し、ダウンロード販売をするなどして収入を得る。
「家賃もゼロだし、お金のことを考えても実家暮らしのほうがいいと思うんですが……。特に不便もないですし」
竹内さんの部屋には懐かしいアイテムが数多く残る。学習机はもちろん、一世を風靡したビックリマンシール、スーパーファミコンなどのゲーム機や攻略本など、まるで'90年代にタイムスリップしたような錯覚に陥る。
竹内さんの生活は家事や食事は両親が準備。洋服も母親が買ってきたものを着る。子どものころのまま時間が過ぎていったという。
「現在、生活の大半は父親の収入に頼っています。親も高齢になるので将来のことなども考えていかないと、とは思っています」
目標は自作するゲームを販売してヒットさせること。
「稼げれば新居を建て、そこで親と同居します。そのときはこの部屋を丸ごと持っていきたいですね(笑)」
そんな竹内さんの結婚観について聞いた。
「親に孫の顔を見せたいとは思っています。でも収入がないし、実家暮らしだと相手を探すのは難しい」
たとえ結婚しても、
「うちで同居したいと思ってるんです。この家、この部屋が重要なんですよね(笑)」
それほどにまで強い愛着を持つ竹内さんの子ども部屋。思い出があふれ、確かに居心地はよさそうだった。
両親の身体のことも心配
●三橋雄二さん(34歳・会社員=仮名)
「金銭的な理由から実家に戻ると思います」
関西でひとり暮らしをしている三橋雄二さんは元「子ども部屋おじさん」だ。
「実は家を出る予定ではなかったんです」
というのも仕事は病院の設備関係の業種。病院に出入りしており、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同居する60代の両親への感染リスクを減らすために家を出ることを選ばざるを得なかった。
「家族とはよく話をしていたので、ひとり暮らしを始めてすぐは家の中がシーンとしていてなんだか寂しかったです」
そう苦笑する。実家では家事や料理は母親任せだったため、当初は悪戦苦闘していた。だが、今では本を見ながら料理を作ったり、ひとり暮らしを楽しんでいる。
「実家暮らしと比べると出費が大きく生活は正直厳しいです。コロナが落ち着いてきたら自宅に戻ることを考えています。ひとりで暮らしていける自信はついたし続けたいですが、お金の問題は大きいです。この生活を続けていたら貯金はできません。それに両親の身体のことも心配です」
給料の一部を実家に入れていたこともあったが両親から「貯めておけ」と言われて以後、貯金に回しているという。
三橋さんの実家にも子ども部屋おじさんを象徴する学習机やゲーム機が残っている。
「小学校3年生のとき引っ越し、自分の部屋ができたのはうれしかったですね。そこでずっとゲームをして過ごしていました」
これまでにも部屋をおしゃれにしよう、と学習机の処分を考えたこともあるが、大きくて処分できず、ズルズルとそのままになっている。
「今は生活がきついので、将来のことは考えられません」
と不安を吐露する一方で、ささやかな希望も語る。
「実家に戻ったときは思い切って模様替えをしたいですね。机はもうボロボロなので処分しようと思います」
実家という安定を得つつ、家族ともつかず離れず。そのうえで、仕事、夢に、前向きに生きる。彼らにはそんな共通点もあるのかもしれない。
親と同居する選択肢『経済的にも……』
“子ども部屋おじさん”。その呼び方について独身研究家の荒川和久さんは、
「独身男性を揶揄する言葉で、“いつまでも子どものままで親元から離れられない”“自立できないおじさん”という蔑称。実際は子ども部屋おばさんも同じ割合がいるのに、おじさんなら叩いてもいい、という風潮の表れとも言えます」
かつて話題になった「パラサイトシングル」と同様で、世の中では「子ども部屋おじさん」に批判的な風潮があるとみる。
「実家で暮らす未婚を自立心がないとか、一方的に決めつけて、悪のように叩く人たちがいます。未婚の実家暮らしは何も特別なことではありません。もともとは結婚するまで親元に住むのは標準でした。それに経済的なことや介護で同居を避けられない人もいます」
「子ども部屋おじさん」を攻撃する人は、自分の安心のために攻撃できる対象としての「生贄」を常に探しているとも言えるのではないか。
「確かに生涯未婚率は増えていますが、みんなが親に依存しているわけではありません。経済的に自立している人はいますし、実家なら経済的にもプラスの面もあります。家にお金を入れても、ひとり暮らしするよりも割安です」
実家から出て暮らしていても今後、経済的な理由や親の介護で実家に戻る選択をせざるをえないケースも増えることが考えられるという。
「“息子がまだまだ実家にいて”と心配する人や“結婚していないと一人前じゃない”という人もいますが、そんなことはありません。ひとり暮らしや結婚していても親から援助をしてもらっている人もいます。状態だけでその人を判断することはよくないです」
親も高齢化する中、時間は限られている。その時間を一緒に過ごせる、同居という選択肢も決して悪いものではないはずだ。
ソロ社会及びソロ男女を研究する独身研究家。独身生活研究の第一人者として、「結婚滅亡」など著書も多く。メディアにも多数出演