(左から)原田龍二、林下清志(ビッグダディ)

 さまざまな経験や失敗、反省を重ねて「今がいちばん充実している」と語る俳優・原田龍二。五十路を目前に控えた彼が今回、言葉を交わすのは“ビッグダディ”こと林下清志だ。

 男手ひとつで、8人のわが子を育てる林下家の日々を追ったドキュメンタリー番組『痛快! ビッグダディ』で一世を風靡し、今もなお世間の耳目を集めるビッグダディの人生哲学に迫る─。

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原田 今日はよろしくお願いします! 僕も『痛快! ビッグダディ』拝見してました。

ダディ よろしくお願いします! 実は、あの番組は2回くらいしか見たことがないんですよ。でも俺は、原田さんが言うような立派な人間でもなければ、大層な番組でもないかと……(笑)。

原田 いやいや、ダディのパワフルさはとうていまねできませんよ。

ダディ テレビは編集でどうとでもなりますからね。シーンのつなぎに違和感があったり、俺の口元が見えてない場面で違う音声をアテレコしたり、ヤラセなんかしなくても関係ないんだな、と思って逆に感心しました。だから、番組を見て、とやかく言う人の声にはまったく興味がないです。

原田 それは僕も同感です。結局、テレビには一面しか映らないですよね。密着生活の期間はどれくらいでしたか?

ダディ 足かけ8年ですね。スタッフは365日じゅう360日ウチにいました。なぜかというと、俺がヤラセや仕込みをすべて拒否したんですよ。仕込みでスタッフが撮りたい画が撮れれば、もっと効率よくなるんでしょうけど「一銭もいらないから、俺に一切命令するな!」という約束をして、撮影が始まったんです。

 実は、5年間密着を断り続けたんですよ。最初に打診されたころは、日々の生活でいっぱいいっぱいでテレビどころじゃなかった。でも、5年がたったころに引っ越しをすることになって、そのときの費用を出してもらう条件でオファーを受けたんですよ。

原田 5年も粘られたんですか! それは長いなあ。

ダディ まあ、ウソはつきたくないので言いますけど、8年のうち後半2年はおカネをもらいました(笑)。

原田 アハハ! 珍しい話じゃないですよね。でも、なぜおカネを受け取ることにしたんですか?

ダディ 理由は、番組放送中に2人目の元嫁、美奈子と再婚したから。美奈子には連れ子もいたし、今まで関係なかった人のプライベートも晒すことになるから、タダじゃ相手も納得しないと思ったんですよね。

原田 全国放送ですからね。じゃあ、後半は多少スタッフに譲歩することも?

ダディ いや、それ以降は「カネはもらうけど口出しするな」に変わりました。

原田 痛快だなあ!

ダディ でもね、やっぱり口を出したがるんですよ。1か月もたつと俺に命令してきて、それを拒否すると「ただ撮ってるだけでおもしろい番組ができると思ってんのか!」と怒りだすから、すぐに東京に帰らせました。

 でも翌日には制作会社の社長が謝りに来てディレクターが代わる……という繰り返し。先方も途中から諦めて、われわれ家族のことを真剣に考えてくれるようになりましたね。

原田 僕もダディほどではないけど密着番組に出た経験があります。かなり独特な関係性が築かれますよね。

反省は舌打ちと同じようなもの

原田 実は、この対談のテーマは「反省」なんです。

ダディ えっ! いま初めて知りましたよ(笑)。

原田 そうなんです。つい、ビッグダディの話で盛り上がってしまいました。ダディは「反省」という言葉から何を思い浮かべますか?

ダディ 反省っていうのは、舌打ちひとつでゼロになるものですよね。俺は「ちぇっ」って言って終わりです。

原田 舌打ちひとつですか!

ダディ 今回ばかりは立ち直れないかもしれないっていう出来事も起きるんですけど、3年もたつと「あのときはさ〜」って大笑いなんですよ。その経験を何度かすると「何があっても今から笑っておこう」と思えるようになりましたね。3年先にはどうせ笑い話になりますから。

原田 達観されてますね。2014年には、ご自宅が火事に遭ったという報道がありましたが……。

ダディ あれはびっくりしました。俺の人生に“火事”が起きるとは!

原田 火事の原因は何だったんですか?

ダディ 明確な原因はわからないんですけど、消防と警察には「おそらく漏電だろう」と言われました。ただ、念のため元嫁の美奈子に電話をしてみると「私は火をつけてない」と言ってました。

原田(笑)

ダディ 全財産燃えましたからね。2時間くらい現場検証に立ち会ってヘトヘトでした。当時、一緒に暮らしていた息子たちと、駅の待合室で時間をつぶすことになって「トランプでもやろうぜ」と提案すると、次男坊が「よーし、今夜は燃えるぞ!」と言いだしたので、アタマをひっぱたきましたよ(笑)。

(左から)原田龍二、林下清志(ビッグダディ)

原田 本当にユニークなご家族ですね(笑)。

ダディ 火が消えたばかりの家の残骸を見ながら、冗談を言うような家族なんです。みんなそういう性格だから、本当に精神的に沈むことはなさそう。そもそも、何かに悩むことがないので。

原田 悩まない、というのは僕も同感です。悩んでも、どうにもならないんですよね。

悩むことの意味がわからない

ダディ そうそう! 昔から悩む意味がわからないんですよ。悩んでストレスをためてまで一生懸命やる意味なんてない、と思ってます。

 一生懸命やらないから、疲れもしない。本当に“今”しかないです。終わってしまった昨日を後悔することもないし、まだ来てもいない明日のために悩むこともないですね。

原田 今も1秒1秒、過去になっていますからね。子育てに関しても悩まずに?

ダディ 一切迷わないですね。まずは子どもを第一に考えるのは当然。よく「どうしたら親子仲がよくなるんですか?」「どうしたらそんなふうにお子さんが育つんですか?」とか聞かれるんですけど、そんな質問が出てくる世間のほうがおかしいと思います。

 親に手本はないから、自分の好きなように親をするだけでいいと思いますね。自由に育てないと、子育ての醍醐味を欠いちゃいますよ。

原田 そうですよね。子育ても楽しんだほうが絶対にいい。ちなみに、ダディにとっての子育ての醍醐味って何でしょう?

林下清志(ビッグダディ)

ダディ 実は、若いころは自分という人間が好きじゃなかったんですよ。若いころは、女を口説くときは、甘い言葉を吐いてなんでも言いましたけど、はたして、その女のために命を張れるかといったら自信がなかった。ダメなやつ。

 でも、子どもができると「何があっても、こいつらを守る」と思えたんですよ。子どものおかげで、自分のことが嫌いではなくなった。俺にとって、子どもは“恩人”です。

原田 すごくわかります。僕も、子どもたちのおかげで“父親”になれただけであって、それ以外には何もないと思うんです。父親は結局、先に生きている先輩でしかないんですよね。

ダディ そうそう。自分に置き換えても母親は何歳になっても“親”だけど、父親ってただの“人生の先輩”になっていくんですよね。そう思うから、子どもが自分で稼いで生活していれば、ひとりの人間。LINEも敬語ですよ。

原田 素晴らしいですね。年齢に関係なく相手を敬う気持ちは必要ですよね。今日はダディにお話を聞けて、人生におけるヒントをいただけました。ありがとうございます!

ダディ いろいろ言いましたけど、テレビに出たことで、人生がかなりおもしろくなりましたよ。ビッグダディにならなかったら、原田さんと対談なんてできませんでしたから。

原田 たしかに、すごいご縁ですね。

ダディ ご縁といえば、原田さんのスキャンダルで話題になった公園ありますよね。実は、俺と彼女がよくデートする公園らしいんですよ(笑)。

原田 ええ!? そうなんですか!? 最後の最後で爆弾を落とされました(笑)。

【本日の、反省】人生において、その人が乗り越えられない壁は用意されない、という言葉を耳にしますが、ビッグダディの話を聞いてまさにそれだと感じました。きっと、ダディでなければ越えられない壁がたくさんあったと思います。“悩まない”ということは、裏を返せば自分自身が選ぶべき道が見えている、ということなのかも。たくさんのお子さんたちを立派に育て上げたダディが、これからどんな人生を歩むのか、とても気になります。

《取材・文/大貫未来(清談社)》

原田龍二(はらだ・りゅうじ)…1970年、東京都生まれ。第3回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞後、トレンディードラマから時代劇などさまざまな作品に出演。芸能界きっての温泉通、座敷わらしなどのUMA探索好きとしても知られている。現在、YouTubeチャンネル「原田龍二の湯〜チューブ!」を配信中!
林下清志(はやしした・きよし)…1965年、岩手県生まれ。11人兄弟の10番目。2006年から2013年までテレビ朝日で放送されたドキュメンタリー番組『痛快! ビッグダディ』シリーズで密着した大家族・林下家の家長。番組終了後も、ワイドショーなどで活躍。現在は東京・南砂町にある居酒屋「Delimu」の店長として店に立つ。