中学生から大学生のときまで、いじめられていたというお笑いコンビ『たんぽぽ』の白鳥久美子さん。いじめがつらくて、ビルから飛び降りたいと思ったこともある。本や演劇などに没頭し、妄想することで悲しい現実から逃げていたという。「生きやすいところへ逃げる」という方法は、いじめが多く、ストレス大国の日本において、私たちの大きなヒントになりそうだ。
「アゴドリル」「クスクス」と呼ばれて
白鳥さんが「いじめられている」と自覚したのは、中学生のはじめだったという。
「入学式のときに“白鳥久美子って名前のヤツがいる”と話題になり、クラスまで男子が見に来たんです。私を見るなり“すげえブスじゃねえか!”と逃げていって。だから入学式の日から、私のことは“いじっていい”という空気になりましたね。それからは“アゴドリル”とか“クスクス”という変なあだ名をつけられたり、誰もやりたがらない応援団員を多数決で、女子で唯一やらされたりした。学ランを借りないといけないのに、男子は貸してくれなくて。帰り道で隠れて泣いてましたね。でも3年間、我慢すれば終わると思ってひたすらに耐えていました」
毎日のようにいじめられていた白鳥さん。抵抗することもあったが、それが逆に相手側に火をつけてしまい、いじめは収まらなかった。そんなつらい現実から、妄想することで逃げていたという。
「心の支えは、ひとりで図書館に行って本を読むことでした。『赤毛のアン』がバイブルでしたが、主人公に感情移入して別の世界に行けるのが楽しかったんです。あとは吹奏楽部に入っていたので、トランペットを奏でているときは気分がよかったなあ。吹きながらキャラを演じるんですよ。《私はトランペッターに憧れている孤児で、ある日ショーケースに張りついていたら見知らぬおじさんが古いトランペットをくれる。それをずっと練習しているうちに路上でスカウトされてプロになった》という設定を作ったりしてね。
基本的に、ひとりでいるほうが楽でしたね。妄想力があってよかったと思いました。ひどいことを言われたときでも“待てよ、この人、もしかして私のこと好きなんじゃないか”って考えると心が楽になるというか。誰にも相談できなかったし、両親は私のことを“はつらつとした、正義感の強いクラスのリーダー”だと思っていたので、傷つけたくなくて言い出せませんでしたね」
中心になって自分をいじめていた相手との感覚の違いに、驚いたことがある。
「同級生は私のことを“いじっていた”という感覚でしょうね。いつも“ワハハハッ”と笑っていましたし。芸人になってから行った中学の同窓会で、私を当時いじめていた子に“そんなことやっていないし、アゴドリルだって誰も呼んでいない。(あなたは)嘘をついて笑いをとっているよね”なんて言われたときは記憶が塗り替えられていて怖かったし、互いにぜんぜん違う感覚で過ごしていたんだなと衝撃を受けました。でも、それを聞いていろんなことを断ち切れたというか。“そもそも交われない人種だったんだな、バイバイ”って、ようやく思えました」
「リハビリとしてネタをやっている」
高校に入学して「変わらないと」という気持ちが芽生えた白鳥さん。中学の同級生もほとんどいない高校だったため、入学式で勇気を出して“あること”を決行した。
「自分のキャラを変えようと思って。自己紹介のときに笑いをとろうとして“白鳥久美子です。安室奈美恵に似てるって言われてます。テヘ”みたいなことやったら、見事にスベったんですよね。“やべえやつだ”っていう感じでクラスの中で浮いちゃって、露骨な無視が始まったんですよ。遠足に行くバスのなかでクラスメイトがボケていて、おもしろかったので思わず笑ったら“てめえが笑ってんじゃねえよ”って言われて。私は笑うことも許されないのかと思ったら、人格を完全に否定されたように感じて、つらくって。そこから笑うことをやめちゃいましたね」
気持ちを完全に打ち砕かれた高校時代の白鳥さんは、どこに救いを見出したのか。
「演劇部に入っていて、舞台上で別人格を演じてクラスメイトの悪口を言っていたから、それが逃げ場でした。それこそ“死ね”とか“嫌い”とか言うと、お客さんがウケてくれる。自分で脚本も書いて、演劇部の中では“おもしろい”って言ってもらえていたことが救いでしたね。それから、私がクラスでいじめられているのを見た先輩が“白鳥、別にあのクラスに関わらなくていいよ。行事に出るのがしんどいんだったら、演劇部の仕事を手伝わなきゃいけないってことにして逃げておいで”って。“頑張って”じゃなくて“こっちに逃げておいで”と言ってもらえたのは、うれしかったです」
演じる経験が、お笑い芸人になることにもつながったという。
「ずっと自分のフラストレーションを発散する場所が欲しくて、舞台に立ったときだけは、みんなが違う目で見てくれたのが心地よかったんです。私がなりたい人間になれるし、役に隠れて本音が言えるっていう気持ちよさもあるし。最初は演劇を続けていたんですけれど、うまくいかなくて今度は芸人になろう、みたいな。どうにか本音を言える場所をずっと探してたような気はしますね」
長年いじめられていた白鳥さんだが、『たんぽぽ』の相方・川村エミコさんも、ずっといじめられてきた。川村さんは芸人になってからも、他の女芸人からいじめや嫌がらせを受けていた時期があるそうだ。だが、川村さんは“いじめる人とは無駄に交わらない”というスタンス。白鳥さんは、彼女のそういう姿勢がかっこいいと思って徐々に仲よくなり、コンビを結成したという。
「川村さんとはよく“私たち、リハビリとしてネタをやってるよね”と言い合っています。お互いに呼ばれていたあだ名とかをコントで出すと、それがウケたりして“あんなあだ名をつけてもらってよかったね”と。あと、いじめられた側って、されたことをずっと鮮明に覚えていますから。いじめっ子に当時“やめて”とか“ひどい”って言えなかったぶん、消化されないままでいた思いをネタにまで書くんだろうな」
自分を責めてしまうマインドが怖い
いじめの経験について、ネタの中ではなく、テレビ番組で初めて話したのは27歳くらいのとき。ニキビで悩んでおり、大学時代はそれが原因でいじめられていた話をしたら大ウケ。同じようにニキビで苦しんでいる視聴者からは、手紙も届いたという。
「手紙には返事を書いて、ニキビの治し方や“いじめてくるやつを気にせず、未来が明るくなる方法を探しましょう”みたいなことを伝えましたね。私の場合は、大学への進学で東京に出てきたころからニキビが増え始めて。お弁当屋さんでバイトをしていたんだけれど、お客さんに“あんたが作ったんならいらない”って言われたり、電車に乗っていても“見て見てあの人すごいニキビ”って言われてるのが聞こえちゃったり。
当時、いじめに加えて、演劇の先生に容姿や演技のことを厳しく言われもして、お金もないし“もうダメだ”ってひたすら落ちて。“本当にしんどくなったら、ここから飛び降りよう”と思っていたビルに行ったんです。でも屋上に立ったら、あまりの低さにびっくりしたのよ。“私、ここから飛んでも死にきれないな”って。10階以上あると思い込んでいたそのビルは、実際は3階建てだったんです。確実に死ぬつもりの人はもっと高いところに行くんじゃないかと思ったら、(無意識にこのビルを選んだ)私は、実はめちゃくちゃ生きたい人なんだと感じたの。そのときに、けっこう認識が変わったんです」
生きる気力を取り戻し、皮膚科の病院を探すと、20万円ほどあればニキビを治せることがわかった。
「それからはバイトを頑張って、貯めたお金を握りしめて病院に行って治しました。すると、気持ちもすごく軽くなって。“なんだ、こんなことで人生変わるなら、早く治せばよかったな”と思いました。容姿で悩んでいる子って多いですよね。自分の人生がちょっとでも前向きになるなら、お金を貯めて整形しても全然いいと思います。
例えばニキビで苦しんでいると、肌のことだけでこんなに人から蔑(さげす)まれるなんて、と傷ついたり、ずっと治らなかったらどうしようとか、そもそも私は人間性がダメだからこういうものができるんじゃないか、と自分を責めてしまうんですね。でも、治ってからは“ニキビは病気みたいなものだし、いじめてくる人たちがおかしい”というマインドに変わったかな。この手のいじめなんて、本来はこちらにほとんど非がないはずなのに“自分が悪い”と思ってしまうのが怖いですね、いま思ったら」
美容整形は費用もかかるし、失敗のリスクもあるため、一概には推奨できないかもしれない。しかし、選択肢のひとつとして尊重されるべきものではあるはず。両親や友人など、身近な人にもっと気軽に相談できるといいのかもしれない。
白鳥さんは自殺を踏みとどまったが、大学時代に知り合い、自ら命を断ってしまった友人もいる。その女性はギリギリまで普通にしていて、白鳥さんが“あの日に死ぬって決めていたんだ”と気づいたのは、後になってからだったという。
「彼女、真面目だったんだと思うんですよね。私って、妄想とか楽器とか演劇とか、あとは人のいない田んぼを自転車で爆走するとか、ほかにも逃げ道を10個くらい用意していて生きてきたけれど、真面目な子っていじめられていることに対して真正面から向き合うじゃない。すると、だんだん行き詰まって“死ぬしかない”ってところに行きついてしまうと思うんです。“もっと人に対して適当に向かい合っていい。いじめている子に確固たる理由なんてないし、きっと自分が生きやすい場所はほかにいっぱいあるから、関わらずにそこに逃げて”って、その子にいま会えたら言いたいな」
ところで、バラエティ番組では、近年は減ってきたものの“ブスいじり”が登場することがある。実際にブスいじりをされてきた白鳥さんだが、そのシーンを目にした子どもたちがマネをするなどして、いじめにつながる恐れはないだろうか。
「私自身はブスいじり、嫌いでもないのよ。いじめと違って、芸人さんは“これをいじったら白鳥の笑いにつながる”っていうのをわかってやってくれる。それは嬉しいんだけれど、問題はそれを見た子どもたちへの影響ですよね。“私もあんなことをされたらどうしよう”とか“あれで笑いがとれるってわかったら、また男子が何か言ってくるかもしれない”っていう恐怖を与えてしまっている可能性があるかと思うと、難しいなと。結論は出ていないけれど、私はとにかく“言われたらちゃんと怒ろう”と思っています。ブスいじりをされたら“ふざけんな”“やめろー”って。“私は自分自身をそんなにブスだと思っていません”という態度はしっかりとっていこうと考えています」
逆に、自分が後輩をいじる際には、どのようなことに気をつけているのか。
「相手が傷つかないよう、“私はあなたを好きなんだよ”って気持ちが伝わるように、いじるかな。後輩だったら、何回もご飯行くようになったりして仲よくなったときにやる。初対面だとか、関係性がないうちからやったら笑いにならないから。“これはいつもの遊びだよね”って、お互い了承できる関係になってからでないと、いじりはしません。子どもたちのリアルな現場の場合には、いじられていたほうが“心の底から笑って受け入れているか”に気をつける必要があると思う。“ああ言っちゃったけど、大丈夫だった? ホントは傷ついた?”みたいなフォローをすることが大事ですよね」
「逃げていいから、頑張るな」
いじめられていた学生時代に白鳥さんが救われたのが、いつも観ていた大好きなテレビ番組“めちゃイケ”こと『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)。芸人になってからはレギュラー出演枠を獲得し、7年ほど出演。「今までのいじめられたぶんはここで解消できた」と思えるほど幸せだったというが、“ザ・体育会系”の現場は想像以上に大変だった。
「理不尽なことはありました。共演者の方々には救われた部分が多かったけれど、スタッフさんかな、しんどかったのは。新メンバーで緊張しているときに呼び出されて“お前ら笑うのも仕事なんだよ、もっと笑えよ”って言われて。それで次の収録はめっちゃ笑うようにしたら今度は“てめえ、ヘラヘラ笑ってんじゃねえよ”って怒られました。いま思えば、盛り上げてみんなで笑うところと、笑うんじゃなくて発言してほしいところがあったんだろうなって思うけれど、当時はわからないから“なんて意地悪なんだ”と感じました。メンタルがやられていた時期はありましたね」
しかし、最後には和解が訪れた。
「私、嫌なことを言われ慣れすぎたっていうか、大抵のことは大丈夫になっちゃって。でも、これからは“言いたいことを伝える人生にする”って決めたんです。だから最後にスタッフさんに胸の内を伝えたら“そんなふうに思ってたんだ”とか“言ってくれて嬉しいよ”と返してくれて、互いの思いを吐露(とろ)し合ううちに和解できました。当時はひどいなと感じた発言も、私に頑張ってほしかったからこそ言っていたみたい。いじめられていたときは自分の気持ちを言えないまま閉じていたけれど、大人になって、こんなふうに思いを明かせるようになった。結果的に周囲との関係もよくなっていったから、“私、変われたんだな”と思いましたね」
白鳥さんを長年、苦しめてきた「いじめ」。どうやったらなくなるのだろうか。
「“社会が変わればいい”だとか“そういうことをしない人間を作ろう”という意見があるじゃないですか。叶(かな)ったら本当に素敵な世の中だとは思うんだけれど、実現までにどれだけ時間がかかるんだよって思うし、経験者として“いじめはなくならないんじゃないかな”と思っていて。もちろん、理想に近づく努力をし続ける社会ではあってほしいですが、それよりは、もしいじめられる側になったときの“逃げ道”を確保しておくほうがいいんじゃないかなって。
実際、逃げていいと思う。真面目に戦いすぎている子が多い気がするから。自分自身が居やすい場所を見つけて生きることが、いちばん大事なことだと思ってます。学校も会社も、嫌だったら行かなくていい。自分が生きやすい環境を見つけたときに“ここでやっていくには何が必要だろう”って考えて仕事を探したり、お金を稼げる方法を探せばいいと思うから。とにかく“嫌ならちゃんと逃げていいから、頑張るな”。いじめに悩んでいる子には、それだけは言いたいです」
(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
【PROFILE】
白鳥 久美子(しらとり・くみこ) ◎1981年生まれ。福島県出身。日本大学芸術学部卒。'08年に川村エミコとお笑いコンビ『たんぽぽ』を結成。フジテレビ系『めちゃ2イケてるッ!』のレギュラーを約7年間にわたり務めたほか、テレビ、ラジオ、舞台など多方面で活躍中。趣味は散歩やシルバニアファミリー、特技は詩を書くこと。
※Youtube『たかまつななチャンネル』では、白鳥久美子さんへのロングインタビュー全編を公開中です。(https://youtu.be/fPSuKAYsXq8)
いじめへの対処法は、人それぞれです。上記タレントさんと同じ向き合い方が正しいとは限りません。まずは自分の状況を誰かに相談してみることが大事。難しければ、下記のような窓口へ連絡してみましょう。
◎よりそいチャット(LINE・チャット)……生きるのがつらい人の相談窓口。
https://yorisoi-chat.jp/
◎チャイルドライン(電話・チャット)……18歳までの子ども専用の悩み相談窓口。
https://childline.or.jp/index.html 電話:0120-99-7777
◎24時間子供SOSダイヤル(電話)……子どもや、いじめなど子どもに関する悩みを持つ保護者等が相談できる窓口。24時間365日相談できる。 電話:0120-0-78310
◎BONDプロジェクト(LINE・電話・メール)……生きづらさを抱える10〜20代の女子のための相談窓口。
https://bondproject.jp/ 電話:070-6648-8318
◎自殺総合対策推進センター……都道府県・政令指定都市別の、いのち支える相談窓口一覧を掲載。
https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php
※その他 厚生労働省のHPも参考にしてみてください。