健康診断を受けたら、「血圧が高い」と言われたことがある人は多いでしょう。
「でも自覚症状があるわけじゃないし」「少しくらい血圧が高いほうが長生きするって聞いたことがあるから大丈夫」
そう思って深刻には受け止めていない人も多いかもしれません。しかし内科医の奥田昌子先生は、「高血圧ほど誤解と思い込みが多い病気はない」と警鐘を鳴らします。
「血圧が高いと頭がフラフラするとか、ボーッとすると思っている人が多いのですが、高血圧だけで自覚症状は起こりません。また、血圧は一定の数値を超えたら危険なのではなく、ほんの少しでも上がると、血管の“壁”を傷つけるのが問題です」(奥田先生、以下同)
血管の壁の状態が寿命を左右する
高血圧が怖いのは、「血管内皮」と呼ばれる血管の内壁を劣化させるから。この内壁にはレンガを張りつけたように細胞が固く結びつき、血管を守っています。ところが血圧が上がると、ものすごい勢いで流れる血液が壁にぶつかり、衝撃で破れたり、詰まったりしやすくなります。
「脳の血管が破れれば脳出血を、脳や心臓の血管が詰まれば脳梗塞や心筋梗塞を引き起こします。さらに日本では、欧米に比べて、脳血管障害に占める脳出血の割合が2〜3倍高い。つまり日本人の血管は、『詰まる』より『破れやすい』のです」
血圧の数値ごとに、「死亡率」「脳血管障害の発症率」「心臓病の発症率」を比較した調査結果を検証すると、上が130ミリ未満・下が85ミリ未満のグループでさえ、完全に血圧が正常な人たちと比べて、脳と心臓の病気の発症率が上がっています。
奥田先生の言葉どおり、ほんの少しでも血圧が上がると血管の壁が異変を起こし、重大な疾患を招くリスクが高まるのです。
しかも、高血圧で血管の壁が傷つくと、そこからコレステロールが侵入し、壁の一部にカルシウムがたまって骨のように硬くなり、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が進行すると、壁が次第に厚くなり、血液の通り道が狭くなって、血圧はますます上昇。高血圧が血管の壁を老化させ、壁の老化が血圧をさらに上げるという悪循環に陥ります。
さらに、血管の壁のレンガがはがれると、壁の隙間から血液が漏れ、毛細血管が崩れて「ゴースト血管」と呼ばれる状態に。動脈硬化とゴースト血管は、どちらも認知症をはじめとする老化の発生を促進します。また、免疫の仕組みも働きにくくなり、ウイルスや、がん細胞と戦う力も低下します。
「血管が老いれば、それとともに人は老いる。血管の壁の状態が、その人の健康と寿命を左右するのです」
血圧を下げるには生活習慣の改善を
人間の寿命を縮める可能性がある恐ろしい高血圧。「大事なのは、生活習慣を改善し、傷ついた血管の壁を癒して血圧を安定させること。ただし、高血圧対策についても誤解が多いので注意が必要です」。
そこで、「血圧を最速で下げる正しい方法」を具体的にご紹介します。
【1】減塩で下げる→食べる量で調節を
まず知っておきたいのは、減塩が効果的ではない人もいること。
近年の研究により、塩の摂取で血圧が上がるかどうかは、遺伝子で決まることが明らかに。「ある研究データでは、日本人の約半数は、塩を多く摂取しても血圧が上がりにくいという結果が出ました。塩を過剰に摂取すれば、誰でも一時的に血圧が上昇します。だからある程度の減塩は必要ですが、1日の塩分摂取量の上限を5〜6gとするような厳しい減塩は、効果的でない人もいるということです」
ただし、すでに血圧が高いと指摘されている人は、「例外なく減塩すべき」と奥田先生。ポイントは、味つけを薄くするより、量を減らすこと。例えば減塩味噌を使っても、濃い味に慣れた人は物足りなく感じてつい多めに入れてしまい、味噌汁1杯に含まれる塩分量は、普通の味噌を使った場合と大差ないことも。
「それなら味噌の種類を気にするより、味噌汁の量をお椀半分にすれば身体に入る塩の量を確実に減らせる。食事を腹八分目にすると、味つけはそのままで塩分を20%カットできます」
塩を身体から早く追い出す働きを持つカリウムをとるのも効果的。高血圧の予防には、男性は1日約4・3g、女性は約3・6gの摂取が必要ですが、ほとんどの人は全く足りていないのが現状です。
「野菜や海藻、大豆、きのこ、いも類などのカリウムを多く含む食品は、食べる量を現在の1・5倍から2倍を目標に増やすといいでしょう」
【2】減量で下げる→減量は1か月2kg まで
塩の摂取だけでは血圧が上がりにくい人もいるという意外な事実を紹介しました。それでも高血圧患者が減らないのは、ほかの原因で高血圧になる人が増えているから。そのひとつが「肥満」です。特に脳梗塞は、メタボによる高血圧が原因で発症するケースが増えています。肥満による腹囲の基準値(男性は85センチ未満、女性は90センチ未満)を超えると、そうでない人に比べて高血圧になるリスクは2・3倍! 当てはまる人は今すぐ減量しましょう。
「理想は20歳のときの体重に戻すことですが、現実的な目標として『身長(m)×身長(m)×25=目標体重(キロ)』を目指してください。毎月2キロまでの減量なら身体に負担はかかりません」
減量の基本は摂取カロリーを減らすこと。清涼飲料水をやめてお茶にかえる、おかずは一汁二菜にする、平日は晩酌しない、お菓子や果物は3日に1度にするなど、ルールを決めて実行しましょう。
お酒とタバコはやっぱり控えるのが吉
【3】運動で下げる→1日30分の有酸素運動を
減塩や減量と並んで、高血圧の改善に有効なのが運動。ポイントは、ややきつい有酸素運動を、できれば毎日30分以上、行うこと。毎日運動するのが難しければ、1日60分を週3回行っても同様の効果が得られます。
「30分や60分連続で運動する必要はなく、1回が10分以上なら細切れでもOK。おすすめは、早歩き。息が弾んで、少し汗ばむくらいが目安です」
【4】節酒で下げる→女性は週に3合まで
アルコール飲料に含まれるエチルアルコールは、血圧を上昇させます。これはビールや日本酒、焼酎、ワインなど、あらゆるアルコール飲料に含まれているので、「血圧が上がりにくいお酒」は存在しません。
「安全に飲めるのは、女性なら週に3合、男性なら6合まで。毎日の飲酒量を手帳やカレンダーに記録して、1週間の量を調節してください」
【5】禁煙で下げる→加熱式タバコも×
タバコは血管の壁を傷つけるため、1本吸うと上の血圧が20ミリ、朝起き抜けの1本は30ミリも跳ね上がるほど。また、1日に30本以上吸う人は、吸わない人に比べて血管の壁の機能が約2・2倍低下しやすくなります。
「加熱式タバコなら大丈夫と思うかもしれませんが、実は血管の壁への影響は紙巻きタバコと変わりません。スッパリ禁煙することをすすめます」
【6】心身を整えて下げる→睡眠リズムが大切
ストレスも高血圧の原因になるので、睡眠をしっかりとって心身を休める習慣を。睡眠時間が5時間を切ると、高血圧の発症率は2倍以上に高まります。
「夜ぐっすり眠るには、起床時間を一定にし、日中はなるべく身体を動かして起きているときと寝ているときのメリハリをつけること。日中どうしても眠くて昼寝をするなら、時間は30分以内にとどめ15時までに起きれば夜の睡眠に影響しません」
(構成/塚田有香)
【PROFILE】
奥田昌子先生 ◎京都大学大学院医学研究科修了。内科医。著書に『血圧を最速で下げる 老化を防ぐ「血管内皮」の鍛えかた』、『内臓脂肪を最速で落とす』(ともに幻冬舎)などがある。