「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
フワちゃん

第48回 フワちゃん

 今年のニュースターといえば、フワちゃんと言っていいでしょう。『モデルプレス』が行ったアンケート「2020年上半期 最も活躍した芸能人」の女性部門で2位に輝いたフワちゃん。『徹子の部屋』(テレビ朝日系)では、憧れの黒柳徹子と共演を果たし、『林修のニッポンドリル』(フジテレビ系)では、林修センセイに「考え方が論理的」と太鼓判を押されていました。『グッとラック!』(TBS系)でコメンテーターも始めるなど、活躍の場を広げています。

 しかし、彼女のこの快進撃が続くかというと、首をかしげざるをえないのです。

タメ口キャラが通用するのは、ごく一時期

 フワちゃんはタモリ、松本人志ら、そうそうたる大御所に対してもタメ口を貫いています。業界の重鎮たるオジサンたちは、丁寧(ていねい)に扱われ慣れているでしょう。だからこそ、若い女性に馴れ馴れしくされたら、新鮮味があってちょっとうれしいのかもしれません。

 ところが、年上の女性芸能人の場合、そう単純ではないと思うのです。タメ口をきかれて、先輩女性芸能人がムッとすれば「怖いオバサン」と言われてしまうから、いやな顔は見せられない。かといって、怒ったらパワハラと言われてしまうかもしれません。となると、フワちゃんは先輩女性芸能人にとっては「絡みづらい新人」として敬遠されてしまうのではないでしょうか。

 それに、タメ口キャラが通用するのは、ごく一時期だと思うのです。会社員に例えると、新入社員が社長にタメ口ならまだ笑えるかもしれませんが、入社3年目の若手が同じことをしたら、単なる非常識になってしまう。どんどん若手が現れるテレビ業界で、タメ口キャラはいいチョイスと言えないと思うのです。

 最近では、『週刊女性』に遅刻グセを報じられたフワちゃん。事務所に所属していないということもあって、管理してくれる人がいないのかもしれません。SNSでの発信力があるからこそ、フワちゃんに仕事のオファーが絶えないのでしょうが、あまり遅刻が重なるとヤバいタレントとして、テレビから干されてしまうのでは……。

 と思ったのですが、11月7日放送の『マツコ会議』(日本テレビ系)を見て、若い人のテレビに対する意識の変化のようなものを感じたのでした。

テレビで長く生き残るという意気込みはない

 番組司会のマツコ・デラックスは「この人に課せられた使命は大きい」とフワちゃんに大きな期待を寄せている様子。それだけに、今のようにいろいろな番組に少しずつ出るのではなく、腰をすえて冠番組をやってほしいと願っているそうです。フワちゃんは子ども番組をやりたいそうですが、新しいことをやるのは簡単ではありません。「前例を見ないことをやっていきたいのに、鈴木奈々の背中が見える」と話していました。

 そんなフワちゃんにマツコは「人を選びなさい」とアドバイスしています。「フワちゃんのことをちゃんと思ってくれる、フワちゃんでこういうテレビを作りたいというのがしっかりしている、ちゃんと企画を考えてくれる人とやって、子どもたちがフワちゃんの出てるテレビを観てるって状況を作ってほしい」と「テレビで成功する方法」をレクチャーしていました。

 フワちゃんはまじめに聞いていましたが、「(テレビの世界に)しつこくしがみつくとか、長く生き残るぞとかいう意気込みではない」「海外に行って売れたい」と、芸人としての夢の最高峰がテレビとは限らないと明言しています。

若い世代にとって「大御所芸能人」とは

 テレビが至上でないように、若い世代にとっては、「大御所」の意味も変わってきているのではないかと思ったことがあります。高い再生回数を誇るとんねるず石橋貴明のYouTube『貴ちゃんねるず』。「恋ができない女芸人・大久保佳代子ほか大集結」として、オアシズ・大久保佳代子の後輩オンナ芸人が石橋に恋愛相談をするという回がありました。

 ここに男女コンビで漫才をする、おとぎばなし・吉田治加が出演しますが、私は心底驚かされたのでした。自己紹介で吉田が「オカリナ漫談をやっていたんですけど、今日、ちょっとオカリナ忘れてきちゃいました」と言ったのです。

写真右がおとぎばなし・吉田治加(プロダクション人力舎のホームページより)

 私の感覚から言うと、石橋と共演できるというのは千載一遇のチャンスであり、一生に一度あるかないかの晴れ舞台です。このような状況でオカリナを忘れるなんてありえないことですし、万が一忘れたとしたら、どうにかしてなんとかして誰かに持ってきてもらうか、調達すると思います。

 忘れ物をするというのは、自らのチャンスをつぶし、仕事に対する真剣みがたりないと石橋に思われるだけでなく、先輩である大久保さんにも失礼な行為ではないでしょうか。後輩に対する大久保さんの指導がなっていないと思われる可能性があるからです。

 ところが、本人は別にさして気にしていない様子。それはなぜかというと「大御所」の意味するところが違うからだと思うのです。

 上下関係について厳しくしつけられた世代にとって、大御所は怖くもありながら、同時に「ご一緒させていただけてうれしい」というある種のステイタスや高揚感をもたらしてくれる存在でした。しかし、若い世代にとっては「大御所」は「単なる先輩」なのではないかと思うのです。ですから、大御所との共演で萎縮することもなく、堂々としているのでしょう。

テレビにこだわる必要がない理由

 話をフワちゃんに戻しましょう。フワちゃんは『マツコ会議』で「私が選ぶというスタンスでやりたい」と仕事の方針を説明していました。「自分が選ぶ」というのは若い世代に共通する感覚でしょうが、オファーがあって初めて成立する仕事で「自分が選ぶ」立場に行くのは、それなりの業績を積み上げる必要がありますから、時間がかかります。

 しかも、テレビの世界は、ビートたけしや明石家さんまなど60代・70代がいまだ現役ですから、最近現れたフワちゃんが実績を積むには相当時間がかかることを覚悟しなければなりません。「憧れの人たちとご一緒できている」と思えれば我慢をするかもしれませんが、「大御所は単なる先輩」と考えた場合、「YouTubeもあるし、何もテレビにこだわる必要はない」という結論にたどりつくのではないでしょうか。

 その昔、芸能人の成功はレギュラー番組の本数で量られたものでした。しかし、今、テレビがメディアの王様ではなくなってきていて、特に若い世代はYouTubeよりテレビのほうが上というような序列意識も薄れているような気がします。「芸能人として成功すること=テレビにたくさん出ること」という、テレビ中心主義がすでにヤバくなっていることを、フワちゃんに教えられた気がしたのでした。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」