※画像はイメージです

 Go Toトラベルキャンペーンの利用や出張などで、「新幹線を久しぶりに利用した」という声がちらほら。それと同時に聞こえてくる「車内で感染するのではないか」という不安の声。第3波真っ只中、実際のところ、新幹線での“感染リスク”はどうなのか。大手鉄道会社の元社員で鉄道ライターの佐藤充さんが解説する。

のぞみに乗車した筆者が
「実感」したこと

 東海道新幹線の乗客が目に見えて増えてきた。実際、JR東海の中間決算(4月~9月)は1,135億円の営業損失(赤字)だが、第1四半期よりも大幅に改善している。しかも、年明けから本格的に回復するとの見通しだ。

 私自身、東海道新幹線の乗客が戻ってきたと実感したのは、10月の終わりになってからだ。

 平日朝の下り「のぞみ」を前日に予約しようとしたが、窓側の席がかなり埋まっていた。新型コロナウイルス前であれば、3列シートの通路側(C列)が取れればいい方だったので、その頃に比べると少ないが、コロナ後の落ち込みから比べると、はるかに回復している。

 前後の座席に他の乗客が座るようになると、感染リスクを意識するようになる。同時に、乗客が増えたことを思い知らされる。

 8月になっても乗車率は低迷を続けていたので、これが新しい日常になると思っていたが、ビジネス出張が復活し始めると、実際に会って話すことの重要さも再認識されたのだろう。

 Web会議ではカメラをオンにすることを嫌がる人も多く、なおさら出張の代替にはなりにくい。

 利用者としては、JR東海の経営状況や日本経済の先行きよりも、感染リスクの方が気になる。正直に言えば、自分が乗車する列車に限っては空いていてほしい。

 プライベート目的ならば別だが、ビジネス出張の場合、嫌でも行かざるを得ない。多くの企業で出張が解禁されて、Go Toトラベルなどで移動が促されると、感染リスクを理由に出張をやめることなどできない。混んでいる新幹線でも、乗らざるを得ないのだ。

空いている列車や車両を
選ぶコツがある

 それでも、個人レベルで努力できることがある。

 EX予約などでは、スマホでシートマップを確認して、混雑状況を確認しながらチケット購入できる。より空いている列車、より空いている車両を探して、他の乗客となるべく離れた席を指定する。どこまで気にするべきか分からないが、分からないからこそ最善の選択を考える。

 空いている列車や車両を選ぶにはコツがある。

 東京~新大阪であれば、山陽新幹線に直通する列車よりも、直通しない列車の方が基本的に空いている。東京駅から乗る場合には新大阪駅止まりを探し、新大阪駅から乗る場合には当駅始発を狙う。理由は明らかだ。山陽新幹線区間を乗車する人がいない分、利用者が少ないためだ。

 「のぞみ」の本数は多い。1時間あたり最大12本にもなり、一番短いところでは3分間隔にもなる。高速列車が3分間隔で運行されるのは驚異的だが、山手線とは違い、ダイヤにはバラツキがある。

佐藤充氏の著書『明暗分かれる鉄道ビジネス』

 そもそも、「ひかり」「こだま」があるため、「のぞみ」は等間隔に運行できない。当然、間隔が広がった後の列車は混雑しやすく、短い間隔の後の列車は空いている。

 在来線とは違い、「のぞみ」は臨時列車が多く、日によってダイヤが大きく変わる。利用が多い日には臨時列車も増えて、少ない日には臨時列車が減らされる。こうして列車本数を調整しているのだ。そのため、空いている列車も日によって変わる。

 混雑状況によっては、予定外の臨時列車を出すこともある。これは狙い目である。

 定期列車は混雑しやすい。その中でも、覚えやすい列車は特に乗車率が上がる。その典型が、東京駅を毎時00分に発車する「のぞみ」である。東京駅00分発の「のぞみ」は、ほとんどが新大阪駅止まり。新大阪駅止まりは比較的空いていると述べたが、00分発は例外だ。

 乗車率のバラツキには、多くの要素が絡んでいる。

 原則として、朝晩などの混雑する時間帯は避けた方が良い。しかし、日中は列車本数も少なくなるので、空いている時間帯に空いている列車が走っているとは限らない。憶測で判断せず、実際にシートマップを確認することが重要だ。

 車両によっても混雑にバラツキがある。16両編成のうち、乗り換えに便利な真ん中の車両は混雑しやすく、反対に、端の車両は空いている。博多方の1~3号車は自由席なので、指定席では東京方の14~16号車が狙い目である。15号車の博多寄りには喫煙ルームがあるため、それを気にする非喫煙者は、16号車を選ぶと良いだろう。

映画館よりも甘い
新幹線のコロナ対策

 新幹線の混雑は、感染リスクの観点で、どこまで気にするべきなのだろうか。

 他の乗客との距離は、在来線の方が圧倒的に近い。しかし、東京~新大阪は2時間30分ほどで、乗車時間は圧倒的に新幹線が長い。「濃厚接触者」の定義は、距離の近さと時間の長さに依存しており、乗車時間の長さは重要なポイントだ。飛行機に比べても新幹線は乗車時間が長く、気になるところだ。

 東京~新大阪の乗車時間は、映画上映時間よりも長い。

 映画館では、「映画館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」で、

「十分な座席の間隔の確保に努める」

 として、前後左右に人が座らないようにシートマップに制限をかけている。その後、座席制限を撤廃できるように一部改訂されたが、その場合には、

「収容率100%にする場合は、飛沫感染を防止するためにマスクを外す懸念のある食事をさせないように努める」

 と、フード類の販売をやめる対策などがとられる。

 上映中に会話することがない映画館でも、これだけ厳しいガイドラインで運営されている。一方の新幹線は、ここまでの対策はしていない。

 映画館と同様に、在来線でも、新幹線でも、ほとんどの乗客はマスクをしているが、新幹線は車内で飲食することが多く、常にマスクが着用されているわけではない。夜の時間ともなると、出張を終えたサラリーマングループが、酒を飲みながら、出張の反省会やビジネス談議に花を咲かせる。マスクを外したまま話し続けるわけだ。

 新幹線の車内では、マスク着用と、会話を控えるように呼びかけられるが、車内販売で酒類を売っており、マスクを外して会話する状況を助長している面がある。

 座席の背はあるものの、十分な高さではなく、飛沫感染が懸念される。気になるようであれば、思い切って車掌に頼んで席を変えてもらう手もある。JR東海の車掌には、このような要望には丁寧に対応してもらいたい。

 この先の混雑状況はどうなるだろうか。

 8月は対前年比25%ほどだったが、9月になると対前年比の40%にまで回復し、10月にはGo Toトラベルに東京発着が加わったこともあり、約45%に回復した。

 JR東海の予測では、年内は40%で推移すると予測している。冬の感染拡大を勘案したのだろう。直近の数字よりは低めの予測である。しかし、年明けから3か月で+20%回復して、来年6月には対前年比の80%にまで戻るとの見通しだ。

 リニア中央新幹線の開業も控えており、JR東海の経営改善は必須である。今年度は1,850億円の営業損失(赤字)になるが、来年度には黒字化を目指す。

 しかし、ワクチンなどの抜本的な改善や対策がない限り、このまま乗車率が増加するのは不安である。政府、自治体には、感染状況を注視して、適切にアクセルとブレーキを踏み分けた呼びかけをしてほしいところだ。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。