11月17日、‘97年から‘06年までの約9年半にわたって放送され、人気を博したバラエティー番組『どっちの料理ショー』(日本テレビ系)の復活が発表された。
「'12年に特番が放送されて以降、8年半ぶりの復活となります。『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』として、ネット配信限定となりますが、かつてのスタッフが再集結するとあって、喜ぶファンの声は多いですね。11月19日から配信がスタートしています」(テレビ誌ライター)
11月5日には、猿岩石やドロンズ、なすびなど数々の人気タレントを生んだ伝説的番組『電波少年』の復活も発表されている。番組タイトルは『電波少年W〜あなたのテレビの記憶を集めた〜い!〜』。‘21年1月からWOWOWでの放送となる。
『どっちの料理ショー』『電波少年』、いずれも放送していたのは日本テレビだ。なぜここにきて日テレは、かつての人気番組を復活させているのか。
コミュニティが番組をつくる
「ゴールデンウィークの前くらいに、コロナウイルスの影響で飲食業界全体が不況に陥っていることを受けて、何か応援するような企画ができないかということを広告代理店の方から提案されました。そこで出てきたのが、『どっちの料理ショー』でした。街の名店の人気メニューを取り上げ、視聴者はその場でお取り寄せできる、そんなシステムを考えたときにウェブコンテンツという形が最適だと思いました。スポンサーさんも企業のPRだけでなく、つながりのあるお店を応援できますから」
そう話すのは、『どっちの料理ショー』の立ち上げから最終回まで、9年半にわたって演出スタッフとして携わり、今回も番組を担当する読売テレビ 営業局営業企画部専門部長の中村元信氏だ(『どっちの〜』の制作は、日テレの系列局である読売テレビと、制作会社のハウフルスが担当していた)。
「近年のネット志向の流れも汲みつつ、“どっちにしようかな〜”と、みなさんを楽しく悩ませる番組本来の魅力も壊さないように努めました。今回は1つの新たなチャレンジで、これがきっかけとなってほかの番組の復活につながることもあると思います」(中村氏)
『電波少年』と非常に近いタイミングでの復活となったが、なにか関連性はあるのだろうか。
「実は私は『電波少年』のディレクターをしていた経験もあり、総合演出の土屋さんには大変お世話になったんですが、今回のタイミングは本当にたまたまですね。びっくりしています」(中村氏)
そんな『電波少年』については、同番組の名物プロデューサー“T部長”としても知られていた総合演出の土屋敏男氏が、今回の放送局であるWOWOWのホームページで復活の経緯をこのように語っている。
《去年の9月。WOWOWの方々から「うちで「電波少年」的な番組をやりませんか?」とお誘いを頂きました。口では「いいですね~」なんて言ったんですが胸の内は「できる訳がないなあ。あんなに放送する局に負荷のかかる番組はないからなあ」と思っていました》
《でもその後「WOWOWの次の時代の方向はコミュニティになりました」と聞いた時に僕の頭の中で色んなものが瞬時に結びついたのを感じました》
《コミュニティで番組を作る! 番組がコミュニティを作るのではなくコミュニティが番組を作る! そしてその過程こそが番組になる! では何に向かったコミュニティなのか? 例えば莫大なデータを集めるのはどうだろう? 例えば戦後多くの日本人を笑わせ泣かせ勇気づけてきた(はずの)『テレビの記憶』はどうだろうか? 日本中の人の「自分のテレビの記憶」を集めてそれを大きな記憶の小宇宙にする。その小宇宙は日々成長し日々精緻になっていくだろう。
WOWOWならば日本中のテレビ局と等距離にあるからそれができる! いやWOWOWにしかできない! そしてそんな番組は今までにない!今までにない番組こそ「電波少年」である! そんな瞬時の脳内爆発を経て「電波少年W」は生まれました》
《え?昔みたいなヤンチャなことはやらないのか? それは・・・・・電波少年ですからね。やっちゃうんじゃないでしょうか?》
安易に地上波でリメイクするよりも……
今回の2番組の復活を、テレビの専門家はどう見ているのか。『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)などに出演するテレビ解説者の木村隆志氏にも話を聞いた。
「今はテレビの総個人視聴率が落ちている時代です。コロナウイルスの影響で人々が家にこもり、一時的に視聴率が回復した時期もありましたが、その後は録画視聴やネット動画を見る人が増えて、特に午後9時以降の視聴率はかなり落ち込んでいます。テレビ局としては番組放送による広告収入以外の稼ぎ方が求められるようになっていて、過去の人気作という財産を利用する流れは以前からありました。その流れが、コロナウイルスによるCM収入減でさらに強まったと考えられます」
特に『電波少年』は“固定ファン”も多い番組だったが、今回日テレはなぜこの2番組の復活に踏み切ったのだろうか。
「現在の地上波は13〜49歳、中でも特に若者狙いの傾向があるため、より上の世代を狙った往年の番組は戦略から外れます。とはいえ、固定ファンがいる番組にはコンテンツ自体の力があるため、ネットや有料チャンネルで配信・放送すればお金になります。その上、さまざまな人の目に触れる地上波と違って"観たい人だけが観る"動画配信サービスなら、視聴率も批判の声も気にする必要がありません。たとえば、不祥事を起こした芸能人でも、観たい人がお金を払って観る映画や、自分からアクセスする必要があるネットなら受け入れられるといった事実にも似ているかと思います」(木村氏)
しかし、固定ファンがいることは、“復活”という観点からするといいことばかりではないようだ。
「根強いファンがいるような番組は、安易に地上波で視聴率獲得を前提にしたリメイクをしてしまうと、反感や不評を買うことがあります。その点、視聴率に関係のない動画配信サービスや有料チャンネルはリメイクを配信・放送しやすい場となっています。今年、『東京ラブストーリー』のリメイクが地上波ではなく、フジテレビの動画配信サービス"FOD"で配信されたのも、そういった事情があってのことでしょう。
復活のタイミングが重なったのは偶然だと考えられますが、それでもこうしてメディアに取り上げられることは大きなメリットになります。音楽、スポーツ、ゲームなどの分野では過去のコンテンツを生かす動きが見られますし、今後はそういったメリットを狙って動くテレビ局も出てくるかもしれません」(木村氏)
先日、在京キー局は第2四半期の決算を発表したが、各局前年比を大きく下回るものだった。これまで数多くの人の時間を獲得してきたテレビだが、インターネットの出現により苦戦を強いられている。“往年の人気番組の復活”は、テレビ局の“上方修正”の狼煙になるか、それとも……。