意外な“新人アニソン歌手”が現在、ブレイク中だ。
「大みそかに放送される『紅白歌合戦』の出場歌手が、11月16日に発表されました。注目を集めたのが、ソロとしては28年ぶりの出場となる鈴木雅之さん。鈴木さんは昨年放送されたアニメ『かぐや様は告らせたい』で、主題歌『ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花』を担当。すぐさま“アニソン界の大型新人”として話題になり、アニソンのフェスにも出演しました。
今年リリースした『DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理』は引き続き、『かぐや様は告らせたい』第2期でも主題歌となり、ミュージックビデオはYouTubeで2000万回再生を突破。アニメからの人気の再燃に、鈴木さん自身、“40年歌ってきて今がいちばん幸せかもしれない”と雑誌のインタビューで語っています」(スポーツ紙記者)
紅白はアニソンの
ラインナップが豊富
近年は、メインの活動がアニソンではないアーティストがアニメの主題歌を担当することが多くなっており、今回の鈴木雅之のようにアニソンで紅白に出場するアーティストも増えてきている。
昨年の紅白歌合戦で歌われたアニソンはというと、
・『紅蓮華』(LiSA)…テレビアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマ
・『愛にできることはまだあるかい』(RADWIMPS)…アニメ映画『天気の子』主題歌
・『Blizzard』(三浦大知)…アニメ映画『ドラゴンボール超 ブロリー』主題歌
・『限界突破×サバイバー』(氷川きよし)…テレビアニメ『ドラゴンボール超』2期オープニングテーマ
・『零 -ZERO-』(福山雅治)…アニメ映画『名探偵コナン ゼロの執行人』主題歌
また、'18年の紅白歌合戦では、
・『Red Swan』(YOSHIKI feat. HYDE)…テレビアニメ『進撃の巨人』Season 3オープニングテーマ
・『打上花火』(DAOKO)…アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌
という2曲に加え、アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』のキャストによるユニットAqoursが出演。人気ゲームが原作のミュージカル『刀剣乱舞』に出演する刀剣男士と共に企画枠『世界で人気のジャパンカルチャー特集』で登場し、デビューシングル『君のこころは輝いてるかい?』を披露した。
近年の“アニメ推し”はなぜか
近年は視聴率が奮わないなど、人気が低迷しているという声もあるが、依然として大みそかの“日本の風物詩”であり、日本一の“お茶の間番組”である紅白歌合戦において、“マニア向け”とされてきたアニソンが多く取り上げられている。今年の紅白歌合戦も、出場者の歌唱曲はまだ発表されていないものの、以下のアニソンが歌われるだろう。
・『炎』(LiSA)…アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』主題歌
・『DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理』(鈴木雅之)…TVアニメ『かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~』オープニングテーマ
・『NAVIGATOR』(SixTONES)…テレビアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』のオープニングテーマ/もしくは同じくSixTONESで、テレビアニメ『半妖の夜叉姫』のオープニングテーマとなった『NEW ERA』
・『Stories』(Snow Man)…テレビアニメ『ブラッククローバー』オープニングテーマ
・『Prover/Tell me』(milet)/テレビアニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』エンディングテーマ
振り返れば、'83年に杏里がテレビアニメ『キャッツ・アイ』(正しくは「・」はハート)のオープニングテーマだった『CAT'S EYE』で出場するなど、紅白歌合戦でアニソンを披露するアーティストは過去にも複数組いた。とはいえ、近年の“アニメ推し”はなぜなのか。
「2010年代に入り、アニソンシーンがマーケットとして音楽業界内で巨大化したことで、多くの人気アーティストたちがアニソンを手掛けるようになりました。CDが売れない時代のなかで、レコードメーカーとしてもアイドルとアニソン枠はとても貴重なポジションとなっていったんです」
そう話すのは、音楽評論家で日本初のアニソン専門雑誌『アニソンマガジン』や『リスアニ!』企画立案者の1人としても知られる冨田明宏さん。
「日本の深夜アニメを彩っている現在のアニソンシーンは、LiSAさんのようなアニソンアーティストもいますが、水樹奈々さんのような声優アーティスト、そしてUNISON SQUARE GARDENやBUMP OF CHICKEN、L'Arc~en~Ciel、RADWIMPSなど非常に広範です。意外なところでは、Mr.Childrenや桑田佳祐さんもアニソンを手掛けていますし、言わずもがな米津玄師さん、あいみょんさんもアニソンを歌っています。
今や若年層から大人層まで幅広い年代にアプローチすることができるため、人気アーティストであればあるほどアニソンとは切っても切れない関係性になっていると言えるかもしれません」(冨田さん、以下同)
子ども向けから大人向けアニメへ
アニソン市場が音楽業界で巨大化したこと、またアニメやアニソンが幅広い層に支持されていった背景とは。
「最も大きな理由は、'90年代末ごろから日本におけるアニメの放送枠のメインが“深夜帯”に移ったこと。これにより子ども向けアニメから青年向け、大人向けアニメへとシフトしました。その結果、一般的なアーティストや人気バンドなどがアニメ主題歌を多数手がけるようになりました。
このきっかけとなった出来事は、『新世紀エヴァンゲリオン』の深夜再放送によるブレイクです。'95年にテレビシリーズが初めてオンエアされた当時は、夕方に放送されていた『エヴァ』ですが、'97年の劇場版公開に向けて深夜に再放送を行ったところ、哲学的かつ難解な内容、残酷な展開、濡れ場シーンなども含んだ『エヴァ』という作品性が、すでにアニメを卒業していた大学生や社会人を中心に口コミで話題になり、劇場公開時に社会現象のようになっていきます」
この結果“深夜に青年向け~大人向けのアニメを放送する”という流れが生まれ、2000年代初頭からその流れは加速し、日本で制作されるアニメ作品のメイン層は青年~大人層へと推移していった。
「アニメは'90年代くらいまでは、中学生になるころまでに卒業する趣味というイメージでしたが、青年向け~大人向けのアニメが主流となったことで“卒業する必要のない趣味”になったことも大きいと思います。大人も堂々と楽しめるアニメ作品が多くなったこと、そして大人向けアニメの先進国である日本が海外から注目されていったことなどが、市民権を得ていくことに繋がっていきました。
全世界を見渡しても、年間200本近い大人向けアニメをテレビで放送している国は日本だけで、海外は子ども向けが中心です。現在、大人向けアニメは、日本から欧米や中国など全世界に向けて供給されています」
今年の紅白歌合戦は、『鬼滅の刃』のブームにより、単純にLiSAが楽曲を披露するだけでなく、演出面でも“鬼滅色”が濃くなるという。
「紅白歌合戦は、その年の担当プロデューサーが何を尊重するかによって出場アーティストの傾向も多少は変わると思います。紅白歌合戦に数多くスタッフとして参加し、'05年と'08年には番組プロデューサーを務めた石原真さんは、当時からすでに東京ドームでライブをやっていた水樹奈々さんを、声優アーティストとして初めて紅白に出すことに尽力されていました。
とはいえ、国民から徴収している受信料で番組を作り、予算も国会で審議されているNHKなので、基本的には“できるだけ多くの国民から文句が出ない出演者”選びに腐心していると思われます。それだけに年々、アニソンを無視できない状況になってきていると言えるかもしれませんね」