「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
小林麻耶

第49回 小林麻耶

 新型コロナウイルスに翻弄された2020年もあと1か月あまりで終わろうとしていますが、ヤバ女・オブ・ザ・イヤーはフリーアナウンサー・小林麻耶に決まりでしょう。

 突然の番組降板、事務所からの契約解除、YouTubeでのいじめ暴露発言……。わずか10日ばかりの間に芸能界から追い出された感のある麻耶ですが、ヤバ女は一日にしてならず。2018年に発売された麻耶のエッセイ『しなくていいがまん』(サンマーク出版)を読むと、ヤバ女の芽のようなものをここかしこに感じるのです。

謙虚なフリして自己評価が恐ろしく高い

『しなくていいがまん』によると、念願かなってTBSの女子アナに採用された麻耶は、会社に恩義を感じ、入社後の目標を以下のように綴っています。

《わたしには、「やりたい!」と思う番組もたくさんありました。その番組でがんばることでTBSに貢献し、視聴者のみなさまにTBSをより好きになってもらって、スポンサーさんがたくさんついて、みんなのボーナスが増える……そんな壮大なことを目指していたわたし》

「会社のため」という姿勢に「なんて純粋な子なんだ」と、特に男性は心を打たれるかもしれません。しかし、私には「謙虚なフリして図々しいな、自己評価が恐ろしく高いな」としか思えませんでした。

 麻耶が、愛社精神を持って会社のためにがんばりたい、貢献したいと思っていたのはうそ偽りのない事実だと思います。「まじめに働きます」という決意表明でしょう。

 それでは、もしTBSの先輩たちがこの目標を聞かされたとしたら、どう解釈するでしょうか。「まじめな新人」と応援する人もいるでしょうが、鼻白む人もいると思うのです。

 目標という言葉は、学生時代は「達成したい水準」の意味で使われることが多く、「目標は高ければ高いほどいい」などと言われたりします。しかし、社会人になると「達成できる見込みのあること」を指すことのほうが多くなります。

 麻耶の目標を社会人としての意味で解釈すると、「自分ひとりで視聴率を上げ、大企業TBS全員のボーナスが上げられるほどの獅子奮迅の大活躍をしてみせる」と言っているのと同じことになります。こちらの意味で解釈するなら、麻耶は「まじめ」ではなく、「すごい自信家」「自己評価が高い」とみなされるでしょう。

 また、麻耶の「やりたい番組がある」という言い方は「その番組に出たい」アピールにも聞こえますし、「自分が参加することで、TBSに貢献する」というのは、「自分が出演することで、視聴率を上げてTBSが潤う」と言っているようなものですから、「前任者より私のほうが人気がある、私のほうが数字(視聴率)を持っている」と挑戦状を叩きつけているような気がしないでもない。麻耶に悪気がないことはわかりますが、失礼だと受け止める人がいてもおかしくないと思います。

 実際、麻耶は周囲との人間関係はうまくいっていなかったそうで、「調子に乗っている」「媚びて仕事を取っている」と非難されたと明かしています。

 自分は「会社のために」「まじめに」頑張っているつもりなのに、認められるどころか悪く言われてしまう。こんな生活を送っていたら、メンタルが疲弊しても無理はないでしょう。20代のころから、麻耶は大分ストレスを溜めてきたのではないでしょうか。なぜ周囲は麻耶を認めなかったのか。ぶりっ子キャラがよくなかった可能性も大ですが、これは「自分にしか興味がない人」の陥りがちなジレンマではないかと私は思っています。

自分が好きすぎるから、自信がなくなる

 麻耶は『しなくていいがまん』において、《「そのままの自分」に自信がない》と書いています。

 2016年に『しくじり先生』(テレビ朝日系)に出演した麻耶は、中学時代「6日に1回のペースで男子から告白され」、「1週間に1人来ないと『なんか変だな』と思う」くらいモテまくっていたことを明かしていました。大学時代は、明石家さんまと一般人女性が恋愛について語る『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系)で、よりすぐりのかわいい子だけが座れるとされる前列に座り、女子アナになって入社早々レギュラーをたくさん持たされた。この人生で「自信がない」と言われたら、どうすりゃいいのと思う人もいるかもしれません。

 が、「自信がない」には2種類あると思うのです。1つめは「自分の能力が劣っているので、周囲に気後れしてしまう」という意味、2つめは「自己評価が高すぎるので、現実の結果が不当なものに思えて苦しむ」パターンです。麻耶の場合は、後者ではないでしょうか。

『しなくていいがまん』で、《人が100人いれば、100人に自分を好きでいてほしかった》と書いていますが、国民的大スターにもアンチがいるように、世の中にはいろいろな趣味嗜好の人がいますから、全員に好かれることは不可能です。ちょっと考えればわかりそうなものですが、上述したように麻耶は鬼モテした実績があるだけに「自分ならできる」と思ってしまったのかもしれません。しかし、中学生男子とは違い、大衆全員に愛されることはやはり難しい。自分が好きすぎるから、自信がなくなってしまうのです。

 自分を高く見積もりすぎているために「自信がない人」は、人に認められたいので、努力は惜しみませんが、他人に興味を持たない傾向があると思います。麻耶は『しなくていいがまん』で仕事に行き詰まっている後輩にアドバイスを求められ、「全然、大丈夫! わたしごときができるんだから、あなたにできないわけがない」と答えたところ、後輩はもう相談してこなくなったと書いていました。後輩の相談に具体的なアドバイスをせず、自分の話をしてしまうのは「自分にしか興味がない人」の特徴と言えるのではないでしょうか。

 すぐに自分の話をしてしまうといえば、10月29日放送の『グッとラック!』(TBS系)が思い出されます。司会の立川志らくが「母親がいないと子どもが不幸じゃないか」と発言したことに対し、コメンテーターである麻耶が怒りに震えながら「母親がいないのは不幸だとおっしゃったのは、私はそうは思いません」とひくーい声で抗議して話題になりました。ネットニュースでこの話を知った人は「志らく、ひどい!」と思うかもしれませんが、実際に番組を見ると、印象は変わると思います。

事態が悪い方向に陥ってしまう理由

 同日の放送では、芸人・だいたひかるが乳がん再発の可能性を承知の上で、不妊治療に挑戦するという話題を紹介しました。志らくは「母親がいないと子どもは不幸じゃないか」と思ったので、妻とこの問題について話し合い、その結果、だいたの決断を応援したいと結んでいました。つまり、ここで言う「母親がいないと子どもは不幸じゃないか」とは「だいたの身に何かあったら、生まれてきた子どもはどうするのか」という意味であり、世の中の「母親のいない子ども」全員を「不幸だ」と決めつけたわけではないのです。

 麻耶の妹である麻央さんがなくなり、甥御さん姪御さんは「母親のいない子ども」になりました。愛する身内が侮辱されたと思って熱くなったのかもしれませんし、志らくも言葉足らずだったと思います。しかし、きちんと話を聞いていれば、真意はわかったはずです。本筋に関係ないことで、いちいち激昂していたら共演者もやりにくいでしょうし、コメンテーターとしての資質に疑問符がついてしまうでしょう。

 このように、自分の評価ばかり気にしている人は、どうしても注意が散漫になり、他人や現実をおろそかにしてしまいます。その結果、被害妄想的な解釈や行動に出るようになれば、仕事に差し障りが出ます。人は社会的な生き物ですから、仕事の評価が下がれば、メンタルの落ち込みは避けられません。「自分にしか興味がない」「自分のことばかり考えている」と、事態はどんどん悪い方向に陥ってしまう可能性があるのです。

スピリチュアルは傷つきたくない人ほどハマる

 常に自分の評価のことばかり考えて、自分の世界に閉じこもるようになると、「自分を決して否定しない事柄や人」を求めるようになるでしょう。仕事で大きな失敗した場合、上司や先輩に頭を下げ、叱られ、なぜミスをしたか原因を説明することを求められます。しかし、スピリチュアルでは「すべては必然」「失敗は魂の学びのため」と言ってくれますから、自分の悪いところに向き合わなくてすむ。傷つきたくない人ほどハマるのではないでしょうか。

 麻耶の夫である、あきら。こと國光吟氏は「宇宙ヨガ講師」を名乗るくらいですから、そういう世界に理解があるのでしょう。夫が洗脳したのかどうか、私にはわかりませんが、出会うべくして出会った二人と言えるのではないでしょうか。

 自分のことばかり考えて、自分に自信が持てない状態を、私は「自分地獄」と呼んでいます。自分について考えれば考えるほど、周囲とうまくいかなくなり、自分の理想とする方向から離れていってしまうのです。

 麻耶をヤバいと笑うことは簡単ですが、この地獄に通じる穴はそこかしこにあります。誰もがこの地獄に落ちる可能性があることを、ヤバ女ウォッチャーとして申し上げておきたいと思います。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」