『NHK紅白歌合戦』に瑛人(23)が初出場する。サビにブランド名の『ドルチェ&ガッバーナ』が出てくる『香水』をヒットさせた歌手だ。
が、このサビをめぐっては、以前からある「心配」がささやかれていた。公共放送であるNHKでは「広告」につながる歌や言動がタブー視され、そのまま歌えなかった歴史があるからだ。
NHKであのサビは聞けるのか
47年前には、南こうせつとかぐや姫の『神田川』がこの問題に引っかかった。歌詞に『クレパス』という商品名が出てくるため、NHKは「クレヨン」への変更を要請。彼らはこれへの不満もあって、内定していた『紅白』を辞退する。
また、山口百恵が『プレイバックPart2』をNHKの歌番組で披露した際には「真紅なポルシェ」が「真紅なクルマ」に変更されたし、松本伊代にいたっては『センチメンタルジャーニー』の「伊代はまだ16だから」という歌詞が自分を「広告」しているとして問題に。彼女は歌番組で、「私まだ16だから」と歌うことになってしまった。
この問題は平成に変わってからもくすぶり、20年前にはaikoの『ボーイフレンド』に出てくる「テトラポット」が注目された。ただ、彼女が作詞時に思い違いしていたのか、正式な商品名は「テトラポッド」。おかげで『紅白』でも無事歌われたのである。
そんなわけで、出場歌手発表会見に出席した瑛人は「NHKさんから(歌詞のとおりに)歌えるか聞いていないです」と状況説明。
「もしその部分が歌えなかったら、難しいですね。(別のフレーズを)寝ずに考えます」
と語ったのだが──。会見後、NHKが問題なしという見解を示し、一件落着した。
ではなぜ、問題なしなのかといえば、NHKのガイドラインに、こうあるからだ。
NHKの本音と建前
「企業名や営業上の商品名・サービス名・ロゴマークなどを放送できるのは番組編集上必要で広告目的ではない場合である」
つまり、本人に「広告」するつもりがなく、番組に必要ならOKというわけだ。これはなかなか便利な考え方である。おかげで前出の「真紅なポルシェ」も『紅白』ではそのまま歌われた。
そもそも、NHKはかつて、民放のドラマ主題歌やCMソングすら放送期間中は歌われるのをいやがり、かわりにB面曲を歌わせたりした。が、ヒット曲の大半がそういったタイアップものになるにつれ、大幅に譲歩。時代の流れには勝てないのだ。
勝てないといえば『紅白』が史上初めて裏番組に瞬間視聴率で負けたのは2003年のこと。相手はTBSの曙vsボブ・サップ戦だった。ところが翌年、応援ゲストのギター侍こと波田陽区がこれをネタにしてしまう。
「紅組が勝とうが白組が勝とうが興味ありませんから! 残念!! そのとき、格闘技の結果に夢中、斬り!」
と、皮肉ったのだ。しかも、これは裏番組を「広告」することでもあった。この暴挙に、彼が『紅白』に呼ばれることは2度とないと思われたが、なんのことはない、4年後にはまた応援に戻ってくる。おバカ&一発屋ブームで売れた『ヘキサゴンオールスターズ』の一員としてだ。
要は、NHKにとって、広告云々は建前にすぎない。売れているモノは出したいというのが、本音なのだ。
『香水』もまたしかり。NHKだって、長いものには巻かれたいのである。