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 自分の体調や人格をも変えてしまうこともある、それが「閉経」。女性ホルモンが減ってくる身体は、それまでとは確実に変わっていきます。「閉経」の前後10年の更年期の対処法とともに、元気に生き抜く知識を伝授します。

経験者は語る!びっくり閉経エピソード

 閉経前後の時期には心身に思いもよらない不調があらわれてときには自分や周囲が困惑してしまうことも。実際の閉経経験者が体験した、実話をご紹介。

■還暦を過ぎても生理が続きました 
「若いときから規則正しい生理周期だった私。50代後半になってから少しずつサイクルが乱れるようになりました。同年代の友人が次々と閉経を迎えている中、60歳を過ぎても生理がある自分はどこかおかしいのではないかと悩んだことも。『一生、生理が続いたらどうしよう……』と心配していましたが、63歳でようやく閉経しました」(63歳で閉経)

■周期も量も バラバラになりました
「しばらく生理がなくて『閉経したかな?』と思っているうちに生理がきたり、生理の期間が長かったり短かったり、経血量が多かったり少なかったり。『旅行の予定を入れたいけど、生理がきたらどうしよう……』、『量が多くて期間も長かったら困るな……』など、自分の体調をまったく予測できない期間が2年ほど続いた後に閉経しました」(55歳で閉経)

■猛烈なイライラでテレビを投げました……
「以前から『最近、イライラすることが多いな』と感じていたのですが、ある日、夕食の時間になってもテレビの前から動かない夫と娘を見ているうちに猛烈な怒りがこみ上げてきて、気づいたらテレビを投げていました。あまりにも様子がおかしかったのでしょう、救急車まで呼ばれてしまい、家族はもちろん私自身も頭がおかしくなってしまったのだと思いました」(54歳で閉経)

■愛犬との別れとともに閉経も
「いつかは別れの日がやって来ると覚悟はしていたものの、長年、可愛がっていた愛犬が天に召されたのはつらかったです。何をする気力も起きず、涙に暮れて過ごしているうちにいつの間にか生理がこなくなりました。当時は40代後半で閉経には早いと思っていたのですが、どうやら愛犬を亡くしたショックで閉経が早まったようです」(47歳で閉経)

■ファストフード店で大出血……血の池地獄!
「生理の周期が乱れて経血量も少なくなり、『そろそろ閉経なのかなぁ』と思っていたころのことです。娘とファストフード店で軽い食事をしている最中に突然、何かがあふれたような感覚に襲われたかと思うと、みるみるうちに白い椅子も床も血で真っ赤に染まりました。店員さんもやって来て、危うく救急車を呼ばれそうになる事態に」(52歳で閉経)

■社交的だったのに1週間、家にこもりつづけた私
「若いころから家にいるよりも外に出かけるほうが好きで、お友達との食事会や習いごと、PTAや、地域の集まりなど積極的に予定を入れていました。ところが、50代半ばを過ぎたころに突然、誰とも会いたくなくなり、予定を全部キャンセルして1週間、クローゼットに閉じこもっていたことがあります……。気分のムラがひどく、その後まもなく閉経に」(56歳で閉経)

閉経年齢の平均は50.8歳!

転がり落ちるように体調や気分が変化

 前述の衝撃エピソード、実はすべて対馬先生が実際に患者さんからうかがったことなのだそうです。

「女性の身体は女性ホルモンによって守られ、コントロールされているんですね。閉経を迎えるということは、それまで自分の身体を守ってくれていた女性ホルモンがなくなってしまうということ。そのため、崖から崩れ落ちるような勢いで心身の調子が変化してしまうものなんです」(対馬先生)

 対馬先生いわく、自身の不調が閉経によるものだと自覚していない女性は少なくないとのこと。

「例えば、めまいや耳鳴りといった不調に悩み、何軒もの有名な病院で診てもらったものの症状がおさまらず『このまま死んでしまうのかもしれない……』と深刻な様子で来院された患者さんがいらっしゃいます。その方に女性ホルモンに関する軽い治療を行ったところ、1か月後には明るい笑顔で来院されたんです。つまり、その患者さんの不調はすべて閉経前後に訪れる更年期の症状だったんです

 更年期による不調は我慢をせず、早めに専門知識を持つ医師に相談するのが得策。

医師に話を聞いてもらい、検査して『不調の理由は更年期です』と原因を特定してもらうだけでも気持ちがらくになるものです。最近の産婦人科医の7割は女性医師ですから、女性医療の知識があるクリニックが格段に増えました。更年期の相談にものってもらえる医師を早めに見つけておくのが理想的ですね。特に、生理前になると心身の調子が悪くなるとか、産後に調子を崩した方というのは女性ホルモンの変化に弱く、更年期の症状も出やすい傾向があります。自分の気質や体質を知りつつ、医師に相談をしていきたいものですね」

 また、あるひとつのことを習慣化する“キーストーンハビット”に取り組むことも、更年期や閉経後の人生に大きく役立つといいます。

「習慣にすることは何でもよく、例えば“1年に1回、健診を受ける”でもいいんです。健診を受けて結果を目の当たりにすると健康への意識が高まりますから、毎年続けていくうちに自分の身体との付き合い方がわかるようになり、健康度が上がります」

 閉経前後の不調は通り過ぎて終わるものではないからこそ、自分自身のトリセツを少しずつ作っていくことが大切。

「閉経の平均年齢を50歳とすると、50歳から100歳は人生のふたつ目のステージ。残りの人生が50年もあるのですから、今から対策を始めても十分に間に合います。何らかの対応をすることは精神的にも自信につながり、健やかに第2の人生を歩んでいけることでしょう

【閉経前後に不調が起きる3つの要因】
閉経前後に訪れる更年期の症状は、個々によって変わってくる。それぞれの体質はもちろん環境要因なども関係する。
ホルモンの減少:卵巣が老化し、女性ホルモンの分泌量が急激に減ってしまう
気質・体質:生まれもった性格、ストレス耐性、ホルモンに対する感受性など
置かれた環境:親の介護、夫・子との関係、職場や近所での人間関係など

【閉経前後のトラブル】
体調や精神面、お肌や髪の状態など閉経前後に起きるトラブルは人によってさまざま。
心の不調:不安感、うつ気分、睡眠障害、集中力の低下、自己嫌悪感、イライラ、怒りっぽい、やる気のなさ、情緒不安定もの忘れなど
身体の不調:多汗、ほてり、冷え、疲れやすい、頭痛、頭重感、動悸、手の震え、めまい、耳鳴り、手指のこわばり、四十肩・五十肩、肩こり・首こり、むくみなど
美容トラブル:シワ、シミ、たるみ、体臭、肌の乾燥など

がまんは損!状況を確認し早めに対処を

“女性の守り神”的な存在の女性ホルモンですが、具体的にはどのような働きを担っているのでしょうか。

「女性ホルモンには、卵巣から分泌される「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」があります。このうち、女性ホルモンの主役ともいえるのが「エストロゲン」で、女性らしい身体を作り、妊娠・出産という機能に大きく関わっています。ほかにも、肌の潤いを保つ、骨や血管を健やかに保つ、脳の機能を維持する、自律神経を正常に保つ、代謝を促して肥満を予防するなど、健康面や美容面にも影響を及ぼしています」(対馬先生)

 女性ホルモンのゆらぎによる体調不良が疑われる場合、婦人科で受けられるのが採血による「女性ホルモン値」検査です。

「エストロゲンは3種類に分類され、このうち女性ホルモン値検査で見るのがエストラジオール(E2)の量です。もうひとつ、エストロゲンが足りないときに脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の数値も指標になります。これらふたつの数値を見ることで、自分の更年期のレベルがどのあたりなのかを知ることができます」

 エストロゲン(E2)の数値は年齢を重ねるごとに下がり、成熟期は10〜1000pg/mlほどである値が更年期には30pg/ml以下になる人も。この値を下回ると、女性ホルモンがあまり分泌されていない状態になる。卵胞刺激ホルモン(FSH)は逆に値が上がり、成熟期に3〜20mlU/mlでも、更年期に35mlU/ml以上に。ここまで上がっている人は、女性ホルモンを出せという司令が多くなっている。ただし、2つのホルモン値は常に変化しており採血の時期に左右されることもあるため「あくまで参考程度」と判断する医師も。

 実は、「女性ホルモンを出して!」と卵巣へサインを出して分泌を促し、全体的な女性ホルモン量を調整するのは、脳の役割。

閉経前後にいろいろな症状が起きる原因は、脳が卵巣の老化に気づかずに『女性ホルモンを出して!』と命令を出し続けることにあります。いくら命令しても卵巣がこたえてくれないので脳はパニック状態に陥り全身の調整を行うという本来の機能が働かなくなっている可能性が。その結果、体内のさまざまな器官に支障が出てしまい、ほてりや多汗、めまいや頭痛といった更年期の不調となって現れるんです」

【気をつけて!閉経前後でかかりやすくなる病気】
 閉経前後から、女性の身体は女性ホルモンによる守護が徐々になくなっていきます。その結果、病気にかかりやすい状態に。

「50~60代に急増するのが子宮の内側にある子宮内膜にできる子宮体がんです。また、女性が患うがんの第1位でもある乳がんも、ホルモン量が下がり始める40歳を境に急増します。いずれのがんも定期的な検診を受けて早期発見することが大切です」

 また、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患、脂質異常症などをはじめとする生活習慣病、変形性関節症など、体質や遺伝による疾患も現れやすくなる。

「例えば、患者さんの8割以上が女性といわれている膠原病は女性ホルモンの影響を受けやすい病気です。また、甲状腺疾患などをはじめ、更年期の不調と似た症状が現れるものもあります。更年期からは女性の身体を丁寧に診てくれるかかりつけ医を持ちたいものです」

閉経後に注意すべき病気(代表例)

頼れるクリニックで自分メンテナンスを

 私たちの身体は一生使い続ける精密機械のようなもの。機械と同じく、長く健やかに使っていくためには、それなりのメンテナンスをすることが大切です。

「フランスでは15歳から婦人科のかかりつけ医がつき、妊娠・出産はもちろん更年期のさまざまな不調も診てもらうことができるんです。例えれば、自分の髪質や好みをわかってくれている美容師さんがいるのと同じような感覚で、普段から女性医療に強いかかりつけ医を持っておくと、間違いなく閉経後の人生の質は上がります

“ここだ!”と思うクリニックを見つけたら、定期的に診察を受けるのが賢明なのだそう。

「その医師のもとで定期的に検診を受けたりするだけでもいいんです。何度も通院するうちに自分の体質などをわかってもらえますし、人間関係を築くこともできます。また、自分のお金と時間を費やすことで自分なりの健康管理の方法がだんだん身についていくものなんです」

 対馬先生自身、日々、患者さんの変化や成長を目の当たりにしているといいます。

適切な治療を受けている患者さんはみなさん、会うたびに明るい表情になっていますし、見た目も実年齢よりもずっとお若いんです。

 自分の身体とうまく付き合う方法を見つけることが、美と健康につながっているんですね」

対策1. 女性ホルモンの急激な減少を穏やかにする「HRT」に大注目!

「HRT(ホルモン補充療法)」とは、閉経前後から減りはじめる女性ホルモンを必要最低限の量、薬で補う治療のこと。女性ホルモンを物理的に増やすため、不調の改善はもちろん、髪や肌にうるおいが戻るという、うれしい恩恵も。また、骨粗しょう症の予防と改善、動脈硬化の予防など健康面でのメリットも見込まれている。飲み薬や貼り薬などいろいろな種類があり、更年期症状であれば健康保険が適用になる。

対策2. 保険適用にもなった「漢方薬」に期待

 漢方薬は古くから更年期症状の治療に使われてきた。現在は健康保険が適用になり、漢方薬の利用率は高まっている。漢方ではひとりひとりの体質や体調を見極めて使用する薬を決めるため、医師の見立てが重要。漢方医学にも長けた婦人科の医師に処方してもらうのが理想的。また、HRTと併用しての治療も可能。

【3大漢方】
 漢方薬は古くから更年期症状の治療に使われてきた。現在は健康保険が適用になり、漢方薬の利用率は高まっている。漢方ではひとりひとりの体質や体調を見極めて使用する薬を決めるため、医師の見立てが重要。漢方医学にもけた婦人科の医師に処方してもらうのが理想的。また、HRTと併用しての治療も可能。

◎加味逍遥散(かみしょうようさん)……やや虚弱体質で「気」「血」が乱れている場合に処方される。ホットフラッシュがあり、不眠やイライラ、落ち込み、やる気の低下、うつなど精神症状が強い人に。

◎桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)……体力はあるものの、のぼせる傾向がある人の「血」の巡りをととのえる作用がある。「ホットフラッシュがひどいけれど、HRTが使えない」という場合に最適の漢方薬」

◎当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)……主に「血」と「水」の異常をカバーする作用がある漢方薬。“女性の聖薬”と呼ばれ、冷え性や貧血に効果を発揮します。体力がなく、頭痛があり、元気がない人向き。

必ず受けておきたい検査

 30代までは2年に1回、40代以降は1年に1回検査を受けたいもの。自分の身体の状態を知ると健康意識が高まり、健やかに若々しく年を重ねることにつながります。

■40代……一般的な健診に加え、子宮頸がん検診や乳がん検診、女性ホルモンのバランスを調べる検査、女性に多い甲状腺機能異常や膠原病の検査、骨粗しょう症を調べる骨密度検査などを受けたいものです。

《受けたい検査一覧》子宮頸がん検診/経膣超音波/乳がん検診(乳房触診・マンモグラフィー)/貧血や免疫検査/甲状腺機能異常を調べる検査/膠原病の要因の有無を調べる検査/関節リウマチの検査/ホルモンチェック/骨密度検査/更年期指数など

■50代・60代……年齢とともに身体はさまざまな病気を発症しやすくなります。40代までの検査内容に加えて、子宮体がん検査や、肝臓がんや膵臓がん、卵巣がんなど主ながん発見のスクリーニング検査なども。

《受けたい検査一覧》子宮頸がん検診/子宮体がん検診/経膣超音波/乳がん検診(乳房触診・マンモグラフィー)/貧血や免疫検査/甲状腺機能異常検査/膠原病の要因検査/関節リウマチの要因検査/ホルモンチェック/肝臓がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング検査/胃がんのスクリーニング検査/骨密度検査/更年期指数など

【診療を身近にする遠隔診療普及に期待】
 コロナ禍によってさまざまな分野でのオンライン化が進み、オンライン診療を取り入れる病院が増えつつあります。

「オンライン診療のおかげで、新型コロナの自粛期間中でも患者さんと面談をしたり薬を処方したりすることができました。今年の夏は故郷の弘前からNPO法人女性医療ネットワークが主催する女性のための健康講座『女性ホルモン塾』を発信。国内はもちろん、ドイツやハワイ、韓国、アフリカなど海外からの参加者もたくさんいました。

 いつでもどこでも必要な治療を受け、薬を処方してもらう。知りたいと思った専門知識を得られることは、大病とまではいかない女性ならではの未病予防において、とてもいいことです。気軽に相談、診察してもらえる環境に進化するといいですね」(対馬先生)

(取材・文/熊谷あづさ)


〈PROFILE〉
対馬ルリ子先生 1958年生まれ。対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座院長。産婦人科医、医学博士。専門は周産期学、女性医療。NPO法人「女性医療ネットワーク」を設立しさまざまな啓発活動や政策提言を行う。

『「閉経」のホントがわかる本』(対馬ルリ子・吉川千明著/集英社) ※記事中の画像をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします