渡部建と宮崎謙介

 「夫唱婦随」という言葉がある。夫が言い出し、妻がこれに従う。インタビュー記事などでこの言葉を見ると、素直に受け止められない。妻が眉間にシワを寄せて、いろいろなモノを飲み込んで、しぶしぶ従っているんだろうなと想像してしまう。逆に、婦唱夫随だとしても、妙な違和感がある。従うテイを装う夫に、ろくな男はいない。夫婦は対等な関係がベストだと思うのだが、芸能界にはさまざまな形があるようだ。(コラムニスト・吉田潮)

「婦唱夫随」の謝罪でも大ヤケド

 芸能界の一連の不倫騒動が、師走にきて再燃した。

 ひとつめは「アンジャッシュ・渡部建、とってつけた謝罪会見」である。12月3日に急きょABEMAnewsで会見を開いた渡部。前半は女性レポーター陣が矢継ぎ早に質問を浴びせ、不貞行為を糾弾した。渡部は「不適切な場所」と濁したものの、女性レポーター陣は許さない。女性を呼び出して多目的トイレを不埒に利用、しかも1万円を渡してメールを消すよう指示した狡猾さに対しての怒りを突きつけた。

 ひとりの女性レポーターが渡部の行為を「ゾッとする」と表現したのだが、この騒動の肝はまさにそこな。妻の尊厳を貶める不貞行為だけでなく、女性を見下しぞんざいに扱い、己の性欲処理をした傲慢さ、つまり「女性蔑視」が世の女性の怒りを買ったのだ。

 妻の佐々木希からは「今までの生き方が間違っていた」と言われたそうだ。実際の文言はわからないが、たぶん「女をなめんなよ」だろう。女性蔑視がデフォルトのお笑い芸人の世界では許されるかもしれないが、今の世の中では通用しないぞ、と。

 会見後半は男性記者の怒号とギャグ合戦も飛び交う。謝罪する前に水面下で復帰を目論み、番組の収録もしていたと報じられたことに対しても、しどろもどろな渡部。記者からは「僕らもガキの使いじゃないんで」と皮肉もぶつけられる。

12月3日、都内で行われた謝罪会見で問い詰められ、天を仰ぐ渡部建

 1時間41分も質問を浴びせ続けられ、みるみる生気を失っていく渡部。人気長寿番組のMCとして、脂っけ過多で仕切っていたころの影も形もない。会見中、100回以上「本当に」を繰り返した(数えるのを途中であきらめた)ので、「ホントウニ」という言葉のゲシュタルト崩壊が起きるほど。とてもみじめで、気の毒にすら思える。

 魂も脂っけも抜けきった渡部の後ろに、うっすら見えてくる3つの大きな影。妻の所属事務所で「不倫夫を許さない」スタンスを貫き、泣く子も黙るトップコート、ここ数年、不倫の禊の場を提供し続ける年末特番を制作する日テレ、お笑い芸人界の天皇・ダウンタウンの影が。泣く泣く仁義を切った(渡部が所属する事務所の)人力舎に思いを馳せないわけにはいかない。

 何ひとつ落ち度のない妻・佐々木が改めて謝罪するも、逆に「謝らんでええ」と怒られちゃう始末。佐々木の評判ですら下げかねない事態へ突入。男性蔑視の言葉を使うならば、完璧な「さげチン」である。長年、女性を見下してきた罪は重い。

夫婦そろってマイナスイメージに

 もうひとつは「元議員・宮崎謙介、懲りずに再度不貞行為発覚」である。2016年に妻・金子恵美の妊娠中にグラビアアイドルとの不倫が発覚し、議員を辞職。金子はこの騒動に対して言及した『許すチカラ』を出版。要するに、不貞を働いた夫を許し、今は幸せだとアピールしたわけだ。しかし、夫婦ともに元議員という肩書。今は何でメシを食ってるのかさっぱりわからん。ニーズがあること自体に疑問がある。

 その宮崎が再びやらかしたそうだ。地方在住の独身女性と高級ホテルで密会、マッサージを受けただけと苦しい言い訳を展開。宮崎は11月29日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS系)に妻とともに出演。神妙な顔つきで登場するも、MCの太田光からは「番組としてはいい迷惑」と吐き捨てられ、ゲストのりゅうちぇるは嫌悪感を露にしていた。

2016年2月、不倫騒動を謝罪する宮崎謙介元衆議院議員

 本人いわく、「コロナ禍で相談を受けてきた。その女性からホテルを指定され、行き過ぎたコミュニケーションがあった」とな。完全にクロ。文春オンラインによれば、パンツ脱いどるし。

 興味深かったのは、薄口政治評論家・杉村太蔵の言葉。宮崎を「全身の毛穴からほとばしるほどの性欲がある方」と評し、男として同情するとコメント。太蔵のマウンティングでもあるけれど、宮崎に理性と知性がないことがよくわかる言葉だった。

 宮崎も渡部と同様、女性を邪険に扱い、見下している。本まで出して、懸命に擁護した妻がバカに見えるという、これまた見事なさげチンっぷり。それでも金子は番組内で「監督不行届で私が悪い部分もある。今後も文春さんには監視し続けてほしい」と話し、自著を宣伝するたくましい商魂と懐の深さをアピール。寛容な妻を演じ切ったのだ。

 しかし、知識と経験を売りにする元議員タレントとしては、燃え続ける粗大ゴミを家に置いておく理由がどこにあるのだろう「妊娠中に夫に浮気された」という女性の同情票が動くのも初回限り。2回目ともなると、「え、バカなの? 夫婦揃ってバカなの?」と思われかねない。マイナスイメージもつき始めたので、そろそろ計算し直す時機かも。

 どちらも「婦唱夫随」のパターンなのだが、宮崎は「不肖で負傷」、渡部は「不詳で不承」を呼ぶ結果に。ええ、ダジャレですよ。言いたくもなりますよ。不毛な謝罪には。

 夫婦の在り方はそれぞれだが、渡部と宮崎の件で「不倫夫に対して制裁を下さない妻」にも、うっかり飛び火することがわかった。この2例は、不倫よりも女性蔑視が問題の根深さであり、「そこ、許すまじ!」という義憤には私も賛同する。

「もはや病気では?」という意見もちらほら。両者の謝罪場面では「カウンセリング」「依存症」という言葉も登場していた。令和ならではの配慮でもある。でもさ、ゾッとするような女性蔑視は決して病気じゃない。病気を理由に逃げてはいけない気がする。必要なのは治療じゃなくて、海より深い反省と己の客観視だよね。
 
 そういえば、もうひとつ。こちらは深刻な要加療案件だ。奇天烈な夫に洗脳されたと噂の小林麻耶である。奇しくも「夫唱婦随」パターンではあるが、妻の評価を下げるどころか別次元へ。そっと見守るにしてもYouTubeが激しく異次元になっており、長く観ていたら呪われそうな気がする。夫に盲従するリスクを改めて確認させてもらった。

吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。