2020年11月上旬、坂口杏里の薬物使用疑惑動画がSNSに流出。その変わり果てた姿に彼女が身を置く歌舞伎町の恐ろしさを垣間見た。歌舞伎町のホストにハマってギリギリの毎日を送っている女性たちが経験した恐怖とは──。
Tシャツ1枚であざだらけの足を組み、ボサボサ頭を気にすることもなくベッドに腰かけている女性。突然、呂律の回っていない甲高い声で『なーんて日だ~』とかつて交際していた男性芸人の持ちネタを絶叫する。
11月、SNSで拡散されたこの動画は衝撃を与えた。その女性が元タレントの坂口杏里(29)だったからだ。
ホスト男性を名指しで告発
「この動画は杏里が勤めていた歌舞伎町のバーのオーナーが《覚せい剤使用者は再起不能と判断致しました》とツイッターに投稿したものでした。薬物依存に気づいた店側が杏里を介護したと主張するが、杏里は監禁されていたと主張。
その後すぐに杏里は主張を翻し、バーのオーナーへの感謝を述べる一方でホスト男性を名指しで告発。と、よくわからない展開になっていますが、杏里が常にトラブルを抱えていることは確かです」(歌舞伎町関係者)
一時期はテレビでおバカタレントとして活躍した時期もあるが、なぜこのようなことになったのだろうか。
ホストにハマった女性は
知らない間に消えている
「'13年3月に母親で女優の坂口良子さんを亡くしてからの杏里さんは糸の切れた凧。ホストクラブ通いが日常になり、遺産を食いつぶしていきました。'16年にAVデビューしてからはキャバクラや風俗で働くなど夜の世界に溺れていきました。ホストとトラブルを起こし2度逮捕されています(いずれも不起訴)」(芸能関係者)
坂口杏里の現状は見るものに恐怖を与えるが、
「坂口さんはましなほうです。歌舞伎町でホストにハマった女性はだいたい知らない間に消えています。地方に出稼ぎに行ってるのか消されたのか亡くなったのか。闇堕ちした女性の消え方はさまざまですが、3年もてばいいほう」と、歌舞伎町に詳しいジャーナリストの渋井哲也さん。
闇に堕ちるとは一体──。
●「大学を退学して今は地方で“出稼ぎ風俗”」
みなまろさん(仮名・21)
《こぉんなに汚れた私を尊いと担当がゆってくれた。その数分後には臭いオヤジとDK(ディープキス)の地獄なのだ》、《キョウヤ(ホストの名前、仮名)とクリスマスに結婚しまーす》とホストとの写真つきの投稿をすると同じホストの客と思わしき女性たちから一斉糾弾のリプライ。それでも挑発する投稿を続ける。
自らを《ホス狂(ホスト狂い)》と呼び、痛々しい日常を綴るみなまろさん(仮名・21)は1年前までは都内の大学に通う“リケジョ”だった。
「担当(推しているホストのこと)と出会ったのは今年の2月です。コロナが騒がれ始めたころで、大学もオンライン授業になるかどうかというときに友達と新宿で遊んでいたらキャッチされたんです。
今まで出会ったことのないタイプで芸能人か? と思うくらい透き通った白い肌に茶色い瞳が印象的でした。まぁ、カラコンしてただけなんですけどね。私は岩手出身なのですが、担当も同郷で同い年だというので、すぐに打ち解けました。初回は3000円だというし、気軽な気持ちで遊びに行ったんです」
後にホストが同郷でも同い年でもないと知ることになるが、当時のみなまろさんはそのウソを信じて安心して身を任せたという。
「騒がしくて空気悪くて嫌だと初回は思ったんだけど、彼も“実は俺もこの空気、嫌いなんだ”と私にだけ打ち明けてくれて……。
岩手から出てきて友達もいなくて、ホストクラブで働き始めて1か月だっていうんです。だから私が支えてあげなきゃって思ったんですよね。その日アフターでラブホテルに行きました。“ひと目惚れした”って言われて、私も舞い上がってしまった。
でも彼が新人じゃなかったことや鬼枕(女性客と性的関係を持つこと)営業で有名なことを後に知るんですけどね」
初回3000円だった料金はどんどん値上がりしていき、とても大学生には払えない額になっていった。
「俺が払うから、ただ来てくれればいい、と言われてそんなわけないのに信じて毎日通っていました。ある日、青紙(つけ払いの伝票のこと)を渡されて470万円とか書かれていたときに現実かどうかわからなくなりました。
そんな私を見て担当は、“一緒に頑張ろう”と言ってくれて、歌舞伎町の風俗を紹介してくれました。抵抗はありませんでした。もうそうするしか道がないと思った」
私が本命だってまだ半分信じている
そのころの彼女はコロナ禍で大学にも通えず、接するのがホストだけという閉鎖的な空間に身を置かれていた。そんな彼女を夢中にさせるのはホストからしたら赤子の手を捻るように簡単だっただろう。
「ゴールデンウイークがソープランドのデビューでした。店長に技のレッスンを受けて、彼とも練習したりして、それなりに楽しんでいたんですが、最初のお客さんを見て泣きそうになりました。すごく太った気味の悪い男で汚いし、コロナも怖いし本当に嫌でした」
1人客をとっても1万〜2万円にしかならなかったという。さらに、コロナで客足は遠のき、店だけでは稼げないと判断した彼女はパパ活に励んだという。
「1泊2日で10万円とかなんでもしましたよ。変な鎖につながれたこともありました。地方に出稼ぎでデリヘル嬢をしたら“コロナうつすな!”と怒鳴られたことも。そんなことしてるから大学にはもちろん行けなくて、授業料の口座も解約して借金返済にあてました。
お金がなくて店に長居できないときは、店があるビルの前に座って待っていると、彼がやってきて一緒に私の家に帰る日もありました」
地方の両親は、彼女が大学を退学したことを知ると激怒。
「やりたいことがある、と言い納得してもらいました。今、私がこんなことになっているとは夢にも思っていないと思います。それは私の中で救いでもあります。彼のウソはわかっているけど会いたいし、私が本命だってまだ半分信じているんです。全部終わったら地元に帰って何もなかったように過ごしたい」
取材から2日後、みなまろさんのツイッターアカウントは削除され、連絡がとれなくなった──。
●「借金残高を見ては飛び降りの衝動と闘う毎日」
きこマイマイさん(仮名・24)
「ここ、飛び降りられなくなっちゃったんですよねー」
ホスト好きの間で“自殺スポット”として有名な歌舞伎町のとあるビル。取材しようと記者が屋上を見上げていると、若い女性が声をかけてきた。
聞くと、自殺を考えてこの場所に“呼ばれて”きたのだという。このビルにはホストクラブがたくさん入っており、華やかな外観の建物はきらびやかな歌舞伎町でも異彩を放っている。
「公にされているだけで若い女性の身投げが6件以上、'11年には若い女性が身体にライターオイルを浴びて焼身自殺を図った事例もある。昨年5月には、このビルに勤めるホスト男性が客の女性に刺されるという事件も起きました。何かとまがまがしい場所ではあります」(渋井さん)
その場所に呼ばれてきたと話すのは、きこマイマイさん(仮名・24)。11月の寒い日にもかかわらず、半袖のミニ丈ワンピース姿にムートンブーツといういでたちだ。腕にはリストカット痕が複数あるが、隠す様子もない。
色恋枕営業かけられてその気になった
「なんで死にたいかって? もう死んでるようなものだもん。担当に騙されて借金漬けにされて。あの男に後悔させてやりたいからここで死ぬんです」
何やらただごとではない様子の彼女に、これまでの経緯を聞くと、
「エースになることに必死で頑張ってきたのに金がなくなったら電話にも出ない。会ってもフルシカト。借金しか残っていない。みじめすぎる」
“エース”とは、指名ホストの1番の太客のことで、いちばん大切にされるという。
「相場は店によって異なりますが、ホストがナンバーワンで有名店の場合は最低でも月に300万円から500万円使わないとエースにはなれません」(渋井さん)
そんな大金を、どうやって稼ぐのだろうか。
「生で性行為をします。1日に何本(何人)も客をとる。お尻の穴まで解禁して性病になっちゃって。笑えますよね」
全然笑えない記者を尻目にへらへらしながら続ける。
「お尻の穴を使うとどうなるか知っていますか? 肛門が薔薇のようになるんですよ。もう身体はボロボロだし、どっちみち長生きしませんよ。私は看護師だったんです。一昨年ホストにハマって、すべてを失いました。きっかけは忘れました。色恋枕営業かけられてその気になったんでしょうね。バカですよね」
看護師として働いて貯めた貯金数百万円が3日でなくなったという。
「締め日にシャンパンおろすためだけに、普段は同じ服にワンコイン以下の食事で頑張りました。ナンバーワンになって借金を返したら私と結婚したいというたわ言を信じたんです。ホストに会っている時間以外は鬼出勤して、それでも時間が余れば店外営業して。なんでもして1日100万いけばよいほう」
命がけで相手を刺しても何も変わらない
ホス狂となって2年目の昨年5月、ホストが客に刺された事件がきっかけで目が覚めたのだという。
「私が犯人になっていたかもしれない、って思いました。そうしたら両親の顔が浮かんで急に申し訳ない気持ちになったんです。それで担当にその話をしたらヘラヘラしながら“刺されたホスト、不細工だったよなー”とか言っているのを聞いて、こんな男に数千万円以上も貢いでいたことに夢を感じなくなりました。
刺されたホスト本人も事件を連想させるようなネタで営業しているし、何よりホストを辞めていない。命がけで相手を刺しても、何も変わらないんだと空しくなったんです」
最初は甘い言葉で“釣って”いたホストも、
「もう私が離れないと安心しきっていて、私への扱いが雑になってきた矢先に起きた事件で。もう通えないことを伝えると、最初は営業をかけてきたけど最終的には“借りた金返してネ”とクソふざけたLINEが来て完全に冷めた」
それでも借金残高は2000万円近くある。
「毎日、身体売って病気のリスクや恐怖と闘って、ってやってるうちに死にたくなっちゃうんです。そういうときに、ふらっとこのビルに」
彼女の話がすべて本当かはわからない。けれど、彼女がホストによって心を傷つけられたことは確かな気がした。
「ホス狂になって3年もつ人はあまりいませんね。身体を売っても足りなくて臓器を売ったなんて都市伝説もあります。だいたい2年周期くらいで入れ替わってしまうので先を知りようがないんです」
と、前出の渋井さん。
「私の知っている嬢で、身体が売れなくなってホームレスに1回50円で身体を売る子もいました。
だいたいホス狂になる子たちは知らない間にドリンクに覚せい剤を混ぜられていたり、ホストとの性行為の際に打たれたりと依存状態を作らされています。残念ながら、ホス狂になって生還するのは物理的には可能かもしれませんが、精神的には不可能といえます」
坂口杏里はSOSを出せるぶん、安全なのかも。