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 ストレスと向き合わなくてはならない今、真っ先にすべきこととは? そして、依存症にならないためにはどうしたらいい? 心理のエキスパートおふたりがとことん語り合い、解消法を教えてくれました。

不安と上手に付き合う方法

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、“コロナうつ”とも呼ばれる精神的な不調をきたす人が増えている。芸能人の中にも、仕事が減少したことで、「自分に存在意義があるのか不安」といったことを漏らす人は少なくない。立冬が過ぎ、再びコロナが猛威をふるうとも言われる近時、出口の見えないウィズコロナの中で、私たちはどんな心持ちでいることがいいのだろうか?

山下 コロナによって、人々は「大きな変化」のただ中にいます。変化にはよい面も悪い面もありますが、不安を感じる人は気持ちが揺らいでしまいます

堀田 人間は変化を嫌う動物ですから、変化が起きると不安も起きますよね。そして、不安は万病のもとでもある。一方で、不安で心配性であるほうが危険に対する準備がしやすく、日常のわずかな変化や違和感にも気がつきやすいというメリットがあります。不安は必ずしもネガティブなものととらえず武器としてとらえ上手に付き合っていくことも大切だと思います

山下 人間は変化を嫌うと同時に「興奮したい」という欲求も持ち合わせていて、興奮があると不安が消えやすくなる。『図解ストレス解消大全』の中で書かれているように、「不安を興奮と言い換えるといったテクニックはとても大事なことだと思いました

堀田 ハーバード・ビジネス・スクールのブルックスの研究ですね。彼の研究では、「脳はリラックス状態以上に興奮状態にあるほうが、ポジティブな状態だ」ということを明らかにしています。ブルックスは、不安な状態からリラックスした状態に落ち着かせるよりも、不安な状態から興奮状態に移行したほうが望ましいと唱えていますね。

山下 「朝日を浴びる」「起きたら楽しい記憶を1分間、思い出す」など、誰でもできる実践的なアクションが多数紹介されているので、私も勉強になりました。というのも、精神医学で治療する際は、「ストレスは減らせない」と言われています。例えば、イヤな上司が職場にいるという場合、状況や環境が人によって異なりますから一概にくくることができない。ところが、「ストレスホルモンを下げるために〇〇をしましょう」という具合に、科学的エビデンスに基づいた行動が示されているため汎用性が高い。

依存症とストレスの意外な関係性とは

堀田 ありがとうございます! 山下先生は認知行動療法(うつ、不安、発達障害、各種依存症)を専門とされていますが、コロナが拡大して以降、相談者の数は増えたのでしょうか?

山下 実は、今年の春ごろの第1波が来た当初は減ったんですね。

堀田 そうなんですか!?

山下 東日本大震災のときもそうだったのですが、より大きなシビアな問題が起こると、自身で抱えている悩みの種が相対的に小さくなることで気持ちが楽になり、一時的に相談者も減少するようです。

 ところが、緊急事態宣言が明けて夏になるくらいから、先述したように興奮が薄れてきたことで、相談者が増えてきました。興奮がおさまってくると既存のストレスと向き合わなければいけなくなる。ただし、一般的にはストレスと依存症は関係ないと言われています。依存症はあくまで病気であって、だからこそ依存しているわけですから。

明治大学教授・堀田秀吾さん

堀田 なるほど。ストレスはきっかけにはなるかもしれないけど、依存症とは直接的な因果関係はないとも言われていますよね。

山下 依存症になっているときに、ストレスが加われば加速するでしょう。「酒をやめろ」と、アルコール依存症の人に言うと、精神的な負荷がかかり、かえって飲みたくなってしまう。

 また、原因不明なことを「ストレス」や「自律神経の乱れ」という、あいまいな言葉で片づける節もありますね。

堀田 確かに、じんましんが出ると「ストレスのせいだよ」なんて言われるなぁ。ストレスを抱え込まないためにできることはたくさんあると思うのですが、アルコール、ギャンブル、薬物……そういった依存症にならないためには、何に気をつければいいでしょう

山下 人がアルコールや薬物に依存してしまう原因はシンプルで依存物質の頻回かつ長期間の摂取です。お酒も、いきなり子どもがワインや日本酒をなめて「美味しい」と感じることはまずありえません。しかし、果汁を入れたり冷やしたり炭酸を入れたりして飲みやすくしたアルコール飲料を飲み続けると、いつしか甘くないビールや、炭酸が入っていないワインなども「美味しい」と脳が感じるようになってしまいます。

 そして、飲酒量が一定量を超えると、今度は離脱症状と呼ばれる「飲まないと眠れない」「酒が切れると手が震える」などの症状が出てしまうのです。心がけでどうにかなるわけではなく、メンタルが強い、弱いといったことも関係ありませんその依存物質がこの世にあり続けるからそうなってしまう依存症の人に対して、メンタルが弱いというのは間違っているんです

堀田 去る9月には、元TOKIOの山口達也が酒気帯び運転の疑いで逮捕されましたね。アルコール依存症とも言われていますが……。

山下 特に芸能界にいる人の場合、よきにつけあしきにつけ注目を浴びやすいのですが、彼らも病気の患者なんです。ただ石を投げるのではなく、一般の人も正しい知識を身につけることが大事です。「明日はわが身かもしれない」という視点を持ってほしいのです。

 現在、日本には依存症患者が100万人いると言われています。ただ、どこからが依存症なのか─というのは、人それぞれなんですね。

やけ酒やケンカが増えたら要注意

堀田 依存症の黄色信号をあげるとすれば何でしょうか?

山下 大好きな人とケンカが増えると危ないと自覚したほうがいいでしょう。堀田先生も書籍の中で「やけ酒はダメ酒」と強調していますよね。

堀田 東京大学大学院の松木則夫・野村洋の研究ですね。「やけ酒をすると嫌な記憶や気持ちがかえって強くなる」ことが報告されていて、アメリカ国立衛生研究所のホームズらの研究結果でも、「アルコールを常習すると嫌な記憶を消す能力が下がる」と指摘されています。飲みすぎは何ひとつメリットがないことが、科学的に証明されている。

精神科医・山下悠毅さん

山下 例えば、「宝くじがハズレました」と言われるのと、「当たりました! ……すいません、やっぱりハズレてました」では、後者のほうが気落ちの落差が激しい。

 同様に、やけ酒は、そのときは嫌なことが消えて楽しいけれど、朝起きると再び不快な現実と向き合わなければいけない。「楽しい席でのお酒は残らないとよく言われますが、つまり頭痛や吐き気といった二日酔いの正体は、沈んだメンタルがもたらすうつがフィジカルに変換された症状とも言えるのです

堀田 興味深い指摘です。

山下 また依存症の患者さんの中には、「自分はお酒を飲んだほうが腹を割って大事な話がしやすいから飲む」と話す方も少なくありません。

 そんな際に、「であるなら私もお酒を飲みながらあなたのカウンセリングをしたほうがよいのでしょうか」と尋ねると、みなさん「嫌だ」となる。これも患者さんが適当なことを話しているからではなく、「自身が依存症という病気であることに気がつけない」ことがもたらす病気の症状なのです。

堀田 ウィズコロナの最中、われわれを驚かせた事象のひとつが、相次ぐ芸能人の自死ですね。見えない恐怖は誰だって怖い。ぼんやりとした不安を抱えているとき、何が背中を押すかはわからない……。

山下 自殺の背景にアルコールが関係しているケースは本当に多いアルコールは理性や判断を司る前頭前野の血流を低下させ死への恐怖心をも麻痺させるのですアルコール依存症の有無にかかわらず、つらいときにお酒を飲むことは絶対にやめてください

堀田 そのとおりですね。前頭前野は新しい脳である「大脳新皮質」にあります。理性や知性といった「考えること」に関係する脳の部分ですから、お酒を飲むと機能が低下してしまう。

山下 ストレス対処の最も簡単な対処法は時間稼ぎです。怒りでも空腹でも、時間がたつと必ずしぼんでいきますよね。つまり、何か嫌なことがあった際に、お風呂に入る」「散歩をするなど、習慣的にやることを決めておくだけで変わってきます。自分で時間の流れを止めるアクションがあると歯止めになると思いますね。

堀田 あと、欲求を抑制する方法として、“気をそらす”こともあげられるかな。アメリカでは暴飲暴食を回避する方法として、おでこを指で叩くだけで食欲が抑えられるという研究もあります。ストレスは基本的に古い脳(脳幹)の働きによって引き起こされますから、新しい脳を使うように意識をそらすだけで、ブレーキが働く。

山下 私は患者さんに、依存物質を摂取したくなったらまずは7秒我慢してくださいと伝えていますそして、その7秒後も渇望が消えなければもう7秒待ってみる」。すると7秒を繰り返してみたところ、その日は我慢できたと話す方が一定数いらっしゃるのです

堀田 まさに「怒りを感じたら5秒待とう」という、アンガーマネージメントに通じるところがありますね。

山下 堀田先生の本では、そういったアクションが多数紹介されている。時間の経過にただただ委ねないように、自分で流れを止める術を心がけてほしいですね

堀田 よく読み込んでくださって、ありがたいなぁ~。さすが精神科の先生、心地よい……。山下先生と話していると、それこそストレスを感じない!(笑)

うわっー! となったらやってみて! 今すぐ使えるストレス解消法

左の拳を握る 
 怒りを覚えたら左の拳を握ると、攻撃的にならずに怒りを沈静化できる! 人間の脳は、怒りを感じると左前頭部が活性化し、逆に右前頭部の活動は怒りから回避しようとする恐怖反応に関連しているそう。実は、左手をギュッと握ると、右前頭部が活性化することが科学的に証明されている──そのため、怒りを覚えたときは左手を力いっぱい握ればアンガーマネージメントになるというわけ。左手が、文字どおりあなたの怒りを左右する。

腹が立ったらギュッ!誰でもできる怒りの火消し術

おでこをタッピングする 
 暴飲暴食の欲求を減らす方法として、おでこをトントントンとタッピングする(指で叩く)だけで、湧いてきた食欲を解消できるという研究結果があるというからビックリ! 指で自分の額を30秒ほどタッピングすることを4回繰り返すだけで、食欲が半分から1/3程度まで減退するそう。ストレスがたまって暴飲暴食をしたくなるとき、ダイエットが苦痛になって欲求にかられたときは、おでこをトントントンと叩いて制御してみてはいかが?

暴飲暴食を抑えたいならトントントン

手浴をする
 温泉に出かけなくても、温泉に浸かったようなストレス軽減効果を得られるアクションが、手にお湯をつける「手浴」。お風呂に入ることが難しい患者さんのために医療現場で実践される「手浴」は、38度の温水で手を温めることで患者の痛みが緩和したり、前向きな言葉を発するなど病気の回復に対する「やる気」の向上が実証ずみ。手の血管には交感神経支配が集中しているため、手を温めると、いろいろな効果が得られるのだとか! 

手軽に温泉効果♪ほっこりとストレスを軽減

取材・文/我妻アヅ子

精神科医・山下悠毅さん・やました・ゆうき 1977年生まれ。精神科医。ライフサポートクリニック院長。専門は依存症全般、パーソナリティー障害。さまざまな企業においてコーチングやマーケティングの研修講師としても活躍する。極真空手の選手としても知られる。著書に『いい子をやめれば幸せになれる』(弘文堂)など。

明治大学教授・堀田秀吾さんほった・しゅうご 1968年、熊本県生まれ。明治大学教授、言語学者。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく多角的な研究を展開。テレビ番組のコメンテーター、法律事務所や芸能事務所の顧問も務めるなど多岐にわたって活躍中。著書に『このことわざ、科学的に立証されているんです』(主婦と生活社)など。

堀田さんの新刊『図解ストレス解消大全 科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました』(SBクリエイティブ刊、税込み1650円)
 左の拳を握ると怒りがおさまる、歯磨きをするとストレス減退などなど。最先端の心理学、脳科学などの諸分野で実験によって効果が証明されたストレス環境の中で心の元気を回復するための科学的かつ具体的アクション100事例を網羅した究極のストレス解消本!