デビュー当初とは印象がずいぶん変わり、今に至る芸能人は多いもの。それが“脱皮”“開眼”になるか、“なんだか違う”と思われるかの分かれ目って、一体……。
そんな芸能人たちの「キャラ変」事情を、テレビウォッチャーでありライターの寺西ジャジューカさんに解説してもらった。
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「キャラ変」に成功した西島秀俊や山田孝之
芸歴の長い実力派俳優には「キャラ変」の成功例が多い。『きのう何食べた?』でのゲイ夫婦の好演も記憶に新しい西島秀俊。フジテレビ系の月9ドラマ『あすなろ白書』での線の細いイメージから、現在はどちらかというとマッチョで個性的な役柄を多く経験する実力派に。
「西島は、北野武作品の『Dolls』に出演していますが、もともと『オールナイトニッポン』の初回から録音して楽しむくらいビートたけしに心酔しているんです。
たけしさんは“振り子理論”と称して『アウトレイジ』みたいな極端な暴力映画を撮ったと思ったら、純愛小説を書いたりして表現の振り幅を大きくしています。彼もその影響を受けて、尖(とが)った役をできるだけ選んでいるのではないでしょうか」(寺西・以下同)
山田孝之もそんな“キャラ変”成功俳優のひとり。連続テレビ小説『ちゅらさん』のイメージから一転、『勇者ヨシヒコ』シリーズや『闇金ウシジマくん』、そして体重を10kg増やしその体当たり演技も話題となった『全裸監督』と、個性派トップ俳優へ。
「鈴木亮平とかもそうなんですが、ロバート・デ・ニーロ的なアプローチの役作りをする。本人の力量がついていかなければ、そもそもこういったキャラ変はできません」(寺西)。
ルックスやイメージから受け入れられる若手俳優は、地道に努力を重ねることで、次のステージに上がれるのだ。
清純派イメージを見事に脱却し、セクシー路線や”オヤジキャラ”もこなせる、多少のヨゴレもOKな実力派女優へと見事にキャラ変したのが長澤まさみ。
「殻を破る手段として、セクシー路線も辞さないという方向に舵(かじ)を切った結果、”お姫様感”が薄れて同性の共感も得ることができた。超大成功キャラ変だと思います。現代は、主役ばっかりやればいいという時代ではないですから」(寺西)
同じ東宝シンデレラガール出身の大先輩・沢口靖子が、キャラ変せずに長年『科捜研』とヤマザキのCMを続けているのと比べると、その違いがよくわかるかも。
沢口同様、「どうしても変われない」人もいる。西島と同じ『あすなろ白書』にも出演し「何をやってもキムタク」と揶揄(やゆ)される”ミスター月9”木村拓哉だ。
「イメージが固定されすぎて、勝新太郎や高倉健のように『この人がいれば』という大スターなんですが、本人は気にしていると思います。最近では『教場』での白髪が話題になったりとイメージ脱却を図っていますね」(寺西)
また、70歳を越えいまだ「ひたむきな若くて美しいお母さん」のイメージを貫く吉永小百合の生涯清純派もキャラ変とは無縁の世界。
「吉永は『サユリスト』と呼ばれるファンの存在……要は吉永小百合ファンを公言しているタモリなどが、そのイメージの固定化をある意味支えているのではないでしょうか」(寺西)
変われないのか、変わらないのか……いや、大スターたちはそもそも「変わる必要がない」のかも。
ギャップに悩む、作りこみ芸能人
大きくキャラ変をした芸能人と言えば、「こりん星出身」の別名「りんごももか姫(趣味:妖精とおままごと)」だった小倉優子。天然不思議キャラから、現在はママドルとしてキャラ変を成功させているが、実はこれ”二回目”のキャラ変だったことをご存じだろうか。
「こりん星以前は、大物芸能人にも物おじせず低い声と丁寧語でツッコミを入れる、キレキャラみたいな感じでした。こりん星はすでにキャラ変した後だったんです」(寺西)
もともと、素の自分とのギャップに悩んでいたという小倉。結婚・出産後、有吉に「嘘の限界」というあだ名をつけられたことをきっかけに、こりん星は「滅亡」したのだという。
「特異なキャラ設定で今も活動を続けられているのはデーモン小暮閣下くらいですよね」(寺西)
しかしながら、デーモン閣下も「大相撲に詳しい」といった、絶妙に”素の自分”を出せているからこそ、活動が続けられているという見方もできる。
設定のクセが強い芸能人は、その過去をなかったことにしたり、キャラ変を余儀なくされる時期が来る。こりん星的設定の正統後継者(?)ちぇるちぇるランド(沖縄県)生まれのりゅうちぇるをはじめ、宇宙からやってきた(!?)DAIGOなど、意外に存在するのだ。
「素」に戻って売れる人も……
今や「Vシネマの帝王」と言われる竹内力は、昔、さわやか系イケメン俳優だったが「だんだん素の自分に近づいていった」と寺西さん。
「彼はもともとバブル入社組の銀行員で、”やんちゃ”な人。さわやかを売りにしていた『101回目のプロポーズ』出演当時はストレスで円形脱毛症に悩まされていたそうです。
実は、人気作品の『ミナミの帝王』での主役は、原作とはイメージが大幅に違います。彼自身が作ったキャラなんです」(寺西)
現在のポジションが、自分らしい「素」に近いものだとは驚き!
逆に素の自分から離れて、さわやか路線で成功したのが唐沢寿明だ。
「特撮ヒーロー出身で、オーディションにもジャージを着ていくような無頓着な人間だった。あるとき周りのすすめでさわやか系の格好をしてオーディションに出たら、そこからは連戦連勝だったそうです」(寺西)
ちなみに、本人が「ダサい」と思っていたそのさわやか路線の服装をすすめたのは、浅野ゆう子だったというウワサ。
芸人は売れるまでキャラ変!!
売れるまで芸風を変えることもある芸人たちは、キャラ変エピソードの宝庫だ。タカアンドトシのタカは昔、細身のイケメンキャラだった。
「彼はもともとおしゃれがしたい、売れてモテたいという気持ちが強く、そうとう無茶なダイエットをしていたそうです」(寺西)
しかしМ―1などの賞レースを目指す中「漫才の足を引っ張ることはやめよう」と一念発起。現在のキャラに落ち着いたそう。
一時期は7本あったテレビのレギュラー番組をすべて降り、ユーチューバー文化人に転身し大成功したのが、オリエンタルラジオの中田敦彦。
「彼はゴールデンで視聴率が取れず、テレビに対する敗北感が強くあります」(寺西)
しかし今では「中田敦彦のYouTube大学」のチャンネル登録数が300万人を超え、自身のアパレル「幸福洗脳」も人気。負けるが大勝ち……?
そして「キャラ変」と言えるか疑問になるくらい自然と芸人文化人枠におさまったのが、フラットで忖度(そんたく)のないコメントでお茶の間に溶け込んだカズレーザー。
「彼は文化人になりたいと言っていましたが、それは『難しい顔をしてニュースを見ながら「根深い問題ですね」っていうだけの仕事がしたい』っていう皮肉まじりのものでした。いい意味で展望がないんです」(寺西)
いつも真っ赤なスーツでキメていることや、自身がバイセクシャルであることを公言していることは、ある意味、マツコ的”特別枠”として重宝されているのかも。
キャラから逸脱すると失敗に!?
一世を風靡(ふうび)したキャラを脱却し、違う方向に行こうとキャラ変をする人も多い。
フワちゃんがファッションやキャラの参考にしたことでも知られる篠原ともえもそのひとり。「シノラー」ファッションをやめた後は、“本当は美女”路線に舵を切り、ファッションセンスを活かして嵐やユーミンの衣装をデザインするように。だが、タレントとしてはなんだか失墜状態に。
「キャリアウーマン」のネタで一世を風靡したブルゾンちえみも、今年からは本名の藤原しおりでタレント活動をスタート。
「彼女はそもそも芸人になりたかったわけではなかったそうです。だから芸人らしい立ち居振る舞いができなかった。ある番組内で、出演者たちがパンストをかぶる場面があり、共演の女優ですらかぶったのに、彼女はNGを出した。それで一気に株が下がってしまったとか。
求められるキャラと自分がズレていたのは明確ですが、たぶんブルゾンくらいの世代だと、テレビで受け入れられるより自分らしく生きるってことの方が重要なんでしょうね」(寺西)
「キャラ変大失敗」なムードが漂うのが、ベッキー。これまで“元気いっぱい! 好感度抜群!”とされていたが、不倫騒動で一変した彼女。一時期のような勢いはどこへやら。
「彼女は『今の自分は二代目ベッキーだ』と言い、変わったアピールをたくさんしています。そもそも事件前のベッキーが、どれだけ好かれていたのかが疑問なのですが……」(寺西)
「幸せを感じないから着ない」としていた黒い服を着てみたり、”初代”はロケバスでも絶対寝ないで助手席で運転手を気遣っていたが、二代目は寝る、と言ってみたりしているそうだが……、正直「だから?」感は否めないのが、いかにもベッキー的。
80年代のアイドルファンには忘れがたい、熱病にかかったかのような伝説化したキャラ変もある。
当時正統派アイドルだった菊池桃子が一転、外国人女性コーラスを従えて突然始めたロックバンド(?)「ラ・ムー」だ。あまりの衝撃にやたら語り草となっているこのバンドだが、
「失敗とか黒歴史とか言われますが実際、楽曲は悪くなかった。むしろ音楽好きの間では再評価の声もあります」(寺西)
誰も求めていなかった突然のロック宣言は、30年以上も人々の心に爪痕(つめあと)を残している……。ある意味、大成功?
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「自分らしさ」と「世間からのニーズ」の間で悩んで起こる、芸能人のキャラ変。
寺西さんはこう分析する。
「長い間、芸能界に残るのは時流を読んで、そのときどきに合わせた変化をしてきた人、もしくは全然ブレない人の、どちらかなのでしょう」
《取材・文/高松孟晋》