「重度の障害者であっても、笑顔が素敵だ」
そんな志望動機を語って知的障害者施設の職員になった容疑者が、信じられないような暴行事件を──。
「言うことをきかないので、カッとなった」
昨年7月、愛知県東浦町の「愛光園 なないろの家」の臨時職員だった水野有幸(ありゆき)容疑者(45)は、当直をしていた夜間、54歳の男性入所者の腹を蹴るなどして腸に穴があく大ケガを負わせた。
その後、男性は2か月入院して、10月に死亡。暴行と死亡の因果関係は不明だが、病院から通報があった警察は1年以上にわたり捜査を続け、12月4日に、容疑者を傷害の疑いで逮捕した。
水野容疑者は、
「個室で2回蹴った」
「言うことをきかないので、カッとなった。日ごろのストレスがあって、イライラしていた」
と犯行を認めているという。
「2018年以降、この施設では今回以外にも3件、入所者がケガをする事案が起きたようです。
1人は昨年3月に亡くなり、このときの当直も水野容疑者だったとか……。残る2人も病院に搬送されている。警察は、これらと水野容疑者の関わりについても慎重に捜査を進めています」(地元メディア記者)
愛光園の日高啓治副理事長は10年前、容疑者が最初に同園へ就職したときの様子を次のように説明する。
「以前は飲食店関係の仕事をしていたと聞いています。2年ほど当園で働いたあと、いったん辞めて、別の施設で働き、6年前からうちで非常勤として働いていました。
当初は正社員を希望していましたが、“土日はどうしても空手教室や障害者スポーツのボランティア活動をしたいから休みたい”ということだったので、正社員はあきらめたようです」
容疑者は口数こそ少なかったが、落ち着いていて、まじめだったとか。
「ただ、声が大きいときもあり、今年の6月ごろに入所者に“座ってろと言ったでしょ!”と怒鳴ったので、厳しく注意して、始末書を書かせる処分はしました。しかし、まさか暴力までふるっていたとは……」(副理事長)
容疑者が供述している“ストレス”については、
「介護の仕事は、こちらが思ったようにはならないことが多いので、確かにストレスはつきもの。
カッとなったときは1度、その場を離れるとか、ほかの人にバトンタッチするようにしていました」(同)
突き刺すようなダメージを与えるためか、足の親指を立てた“凶器”で入所者を暴行したという容疑者。
障害者のためのボランティア活動にも熱心
「なないろの家」がある東浦町で4人きょうだいの末っ子として生まれた水野容疑者は、小学校時代から空手に打ち込んでいた。
「地元で空手を習っていて、大学卒業後も続け、10年ほど前に地元の空手会に入会。四段の腕前で、みずから子ども向けの教室を開いていました」(容疑者の知人)
報道によると逮捕直前の11月に空手の師匠へ、
《暴力行為を行ったことは事実であるため、空手を行うこと、まして指導する資格はありません》
《ご迷惑をおかけしたことは何度お詫びをしても済むことではありませんが、この度は本当に申し訳ありません》
という謝罪の手紙を送っていたようだ。
そんな“特技”を活かしながら、容疑者は障害者のためのボランティア活動にも熱心だった。
《障がい者スポーツを通じて障がい者の方と地域住民の方の交流を寄り添い、助け合える住みよい社会、街作りをしたい!》(原文ママ)
という理念のもと、特定非営利活動法人である「来夢の森」を設立し、クラウドファンディングで資金を調達。
空手のほかに、脳性まひ者などのために考案された球技・ボッチャなどを指導し、ほかの障害者団体と交流するなど、幅広く活動していた。
容疑者の指導は誠実で充実していた
それらの場で、問題行動はなかったのか──。
ある障害者施設の関係者は、
「部活動の外部講師として3か月の期間限定でボッチャなどを教えてもらいました。
ルールや投げ方、ゲームの進め方を初心者の職員や子どもたちに丁寧に指導してくれました。指導は誠実で充実していました。
最初から部活動を指導するボランティアとしてお願いしましたが、最後に全部で1万円の謝金を渡しました。非常に熱心な方だと思いました」
地元・東浦町の福祉関連団体でも、
「うちでは4年ほど前から、ボッチャを月に1回指導してもらいました。障害者10人ほどで行いましたが、和気あいあいと楽しんで、いい雰囲気でした。
私たちが(容疑者の)ストレスに気づいてあげて、サポートできなかったのかと反省しています」
私生活も問題なかったはずだと言うのは、前出とは別の容疑者の知人。
「水野のインスタグラムやツイッターを見ると、ボランティア以外にも家族思いで子煩悩なパパだと思っていました。まだ小さい長男に空手体験をさせたり、家族3人でディズニーランドや動物園に行ったりした様子が紹介されていて、公私ともに順調だったはずです」
昨年、まだコロナ禍の前に職場以外のストレスはなかったようだが、
「水野さんの奥さんと母親には不和が……」
と打ち明けるのは、自宅近所の住民。
プライドが高く、クレーマーとして有名だった母親
容疑者は40歳前後で結婚して、実家に妻を迎え1男をもうけていた。
「同居する父親は穏やかな人だけど、母親が勝ち気で、変な人。この辺りでは名家の水野一族の末裔(まつえい)らしく、プライドがめちゃくちゃ高い。
近所のあちこちにクレームをつけて、うち2軒は引っ越していきました。“あんたもどこかの馬の骨でしょ?”と言われた家もあったとか。
そういう母親だから、奥さんとは合わないはずです。容疑者はその板挟みになってストレスがあったのでは」(同・住民)
ハードな仕事のうえに、家庭内でのストレスがたまっていたのかもしれないが、それを無防備な知的障害者にぶつけるとは、とうてい許されることではない。
「私たちが死ぬのが早いか、息子が家に戻ってくるのが早いか……」
母親はそう漏らしているそうだが、容疑者の暴力と2人の死因に因果関係が認められれば、そんな日は当分、来ないはずだ。
みずからによる蹴りで、入所者が浮かべた笑顔ではない表情に、水野容疑者は何を感じたのだろうか……。