全裸俳優・原田龍二が、自らの過ちを見つめながら対談相手の人生に触れる本連載も、気づけば第20回を迎えた。「人生の荒波を乗り越えてきた人と話がしたい」と語る原田が今回、言葉を交わすのは、お笑いコンビ・品川庄司の品川祐。品川といえば、映画監督、小説家など、さまざまな顔を持ちながらも、一時期「嫌われ芸人」として名をはせていたこともあった。
原田とはつい先日、『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日系)という番組で熾烈な“ラップバトル”を繰り広げたばかり。
そんな品川祐の現在の素顔に、原田が迫る─。
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若いころは天狗になっていた
原田 今日はよろしくお願いします! 品川くんは戦友ですよ。お疲れさまでした。
品川 原田さんこそ、お疲れさまでした。大変な仕事でしたね(笑)。
この連載も読んだことあるんですよ。たしか、失敗をした人が出るとか……。
原田 失敗してない人も出てるから大丈夫!(笑)ちなみに品川くんは「反省」と聞いて思い浮かぶことはある?
品川 若いころ、すべての人に対して態度が悪かったことですね。本当に反省してます。スタッフさんとの打ち合わせで、ヘッドホンつけてて下向いてたんですよ。当時は天狗になってて「俺が本番で面白いことさえ言えば、誰も恥かかないでしょ」と思ってたんですよ。
先輩も後輩も関係なく、すごい人だと思ったらリスペクトできるんですけど、自分が相手を認められないと感じた瞬間にシャットアウトしてました。
原田 それは自信からくるものか、単純に相手をなめてたのか、どっちだった?
品川 単純にバカだったんですよね。誰にも媚びないのが、カッコいいお笑い芸人のスタンスだと思い込んでました。不良やヤンキーへの憧れもカッコよさへの勘違いから始まるじゃないですか。それと同じ感覚です。
原田 そうだね(笑)。
品川 ただ、それでトガった芸風ならまだいいんですけど、僕らの場合はポップな芸だったんですよ。裏で斜に構えてて、収録が始まったら「どうも〜!」って笑ってるのって、すごくダサいじゃないですか?
原田 アハハ! ある意味、プロフェッショナルだとは思うけどね。
品川 いやいや、ただのバカですよ。若手のころは、ダウンタウンさんの魔法にかかってたんです。ダウンタウンさんの態度が悪いという意味ではなくて、おふたりの不良っぽい感じに憧れてたんですよね。
松本人志さんが、ポツリとセンスがいいひと言で笑いをとる引き芸に憧れてやってみたこともありました。全然ウケなくて、その刀はすぐに鞘に収めました(笑)。
原田 そうだったんだ! 品川くんは昔から唯一無二の笑いを持っていたイメージがあるから意外だなあ。
本当の自分は違うと思っていた
品川 本当にあのころは、松本さんへの憧れや天狗になっていたり、仕事で疲れてたりが重なって、態度が悪くなってしまったんですよね。
僕、もともとは陽気なやつだったんですよ。中学時代は雪の日にブリーフ1枚で外に出てクラスのやつを笑わせてたし、やんちゃしてた時期もケンカは強くなかったから、仲間を笑わせるポジションでした。でも、芸人になりたてのころは“自分は昔からトガってた”と思い込んでいたんです。
原田 そんな経緯があったんだね。今は、その魔法はとけてますか?
品川 そうですね。今のほうが素に近いかも。でも“最近品川は丸くなった”とか言われるんですけど、気性が荒い部分は残っているので、それも違うかな、と。
原田 違和感があるんだ。
品川 変わったとしたら、映画を撮った経験が大きいです。映画は俳優さんがクランクインする衣装を決めたり、打ち合わせをしたり、何か月も前から準備する。一致団結して俳優さんをカッコよく、面白く撮りたいと、愛情を注ぐじゃないですか。
原田 そうだね。
品川 テレビ局の人たちも、僕らにそれをしてくれているんだ、と気がついたんですよね。収録前に何回も打ち合わせしたり、街ブラのロケでも事前に店に許諾をとったり……誰も僕をつまらない男に撮りたい、なんて人はいない。そんなスタッフさんたちに対して、すごく失礼なことをしてたんですよね。
仮に僕が原田さんと映画を作ることになって、初めての打ち合わせで原田さんがヘッドホンして下を向いてたら、ブチギレると思うんですよ。
原田 そうだよねえ。
品川 裏方の仕事をするほど、リスペクトの気持ちが強くなりました。それに、テレビも映画もチームワークだと強く感じるようになりました。この前の番組も、結局はチームワークなんですよね。
原田 と、いうと?
品川 ディスり合ってバトルするけど、相手が打たなければ自分も打ち返せない。やりとりがないと成立しないから、フリースタイルバトルもチームワークなんですよね。
原田 品川くんは、バトルもチームワークだととらえられる位置にいるんだ。俺はそこまで広げて考えられなかったけど、まさしくそうだね。
品川庄司は双方が夢を叶えられた
原田 映画の話が出たけど、もともと映画製作には興味があったの?
品川 ありました。兄貴が映像の仕事をしている影響もあって、僕も撮りたいと思ってたんです。でも、お笑いも好きだから、決めかねていて。そしたら、ビートたけしさんが映画監督やられて「芸人で成功すれば、映画監督にもなれるんだ! じゃあ芸人になろう」と。逆に、映画監督から漫才師になるほうが難しそうじゃないですか(笑)。
原田 たしかに(笑)。
品川 芸人はみんなゴールデン番組のMCをしたいとか、サッカー番組でMCやりたいとか。そんな夢があるんですけど、僕は映画が撮りたかった。一方の庄司は「アイドルと結婚したい」って言ってたんですよ。
原田 そうなんだ!
品川 品川庄司は、それぞれの夢を叶えたんです。ただ、ふたりの共通の夢である“お笑いで成功する”という夢は、失敗してますね(笑)。
原田 失敗とは限らないじゃない!
品川 アハハ! 今のところはたどり着いてないです。
原田 どんなビジョンを持ってるの?
品川 品川庄司で冠番組を持ちたいです。『アメトーーク!』や『ゴッドタン』みたいな、自分の好きなお笑いができる番組。やっぱり、お笑いがすごく好きなんですよね。これは庄司も同じだと思います。
原田 品川くんはいま何歳?
品川 48歳です。
原田 僕は50歳になったばかりなんだけど、30歳になったときとは確実に違う。今まで、年齢はただの数字だと思ってたんだけど、50歳は折り返した感じがする。
品川 わかります。原田さんは、50歳になるの楽しみでした?
原田 楽しみでも不安でもなかったかな。ただ、50歳になったら30歳ではできなかった役ができるから、どう取り組もうっていうワクワクはある。品川くんは、50歳は楽しみ?
品川 僕は楽しみですね。自分は、30代は中堅、40代はベテラン、と区切っていて。でも、40代って若者の中ではベテランだけど、おじさんの中ではいちばん若手な気がするんですよ。
原田 わかる! 60歳の先輩たちと話してると、僕らは若手なの。
品川 勝手なイメージですけど、50歳になったら堂々とおじさんになれるかな、と。緑色の頭で何言ってんだって感じかもしれないですけど(笑)。
原田 でも、本当にそうかもね。おじさんの仲間入り。
品川 原田さんは身体もバキバキだし、若く見えますよ。
原田 バキバキではないけど、これからも役者として意外性がある役を演じたいから、この身体が役立つ日が来るかも。品川監督、次回作はよろしくお願いします!
品川 こちらこそ、ぜひお願いします!
【本日の、反省】“品川祐”という武器を常に磨いている人ですよね。ラップにも、品川くんらしさがあふれてました。彼は過去に修羅場もくぐってきただろうし、昔は生意気だったと言っていたけど、それはそれとして自分の生き方をしっかり認めていますよね。個人的には、品川くんがフィルムに収めてきたアウトローな世界の原点の話も聞きたかったな。優等生で生きてきた人には撮れない映画なので。品川くんとは、またひざを突き合わせて深い話がしたいです!
《取材・文/大貫未来(清談社)》