NHK受信料を払わない場合、割増金を科す制度を法制化しようとする動きがある。「NHKを見ないのに、払えとは横暴」「見る人だけが契約すればいい」など、世論では怒りの声が! 将来的にはテレビだけでなく、スマホまで課金対象になる可能性も。NHKの今後の野望とは? 今こそ、“公共放送”のあり方を考え、声をあげたい!
見ないのに発生する支払い義務
NHKは、2021年の東京オリンピックが終わった後に、新たな放送センターを作る計画を進めている。次世代高画質放送「8K」にも対応する最新の放送機器を完備した“ハイテク社屋”になる予定だ。
そして、その建設予算は当初3400億円ともいわれたが、その後1700億円と公表した。それでも、ほか民放各局の新社屋の建設費を大きく上回る金額だ。その豊かな財源は……。そう、国民からひろく徴収している受信料にほかならない。
「国民の約8割が、NHKに受信料を支払っています。その収益は年7000億円にものぼります」というのは立教大学社会学部教授の砂川浩慶さん。NHKの受信料収入はここ5年連続で過去最高を更新している。NHK側に直撃したところ「民放とは異なる公共放送ならではの放送・サービスをさまざまなメディアを通して国民にお届けしている」とのこと。
“公平な負担”を掲げて積極的に受信料の徴収を進めておりテレビの設置者が受信料契約を拒めば、法的手段も辞さないという強硬な姿勢だ。その背景としては、受信料を財源とすることで、特定の利益や視聴率に左右されずに確かな情報を「いつでも、どこでも、だれにでも」提供する役割があるからだ、としている。
しかし、この動きを国が後押ししているのというのも見逃せない。総務省の有識者会議(公共放送のあり方に関する検討分科会)は今年11月、テレビを持っているのに受信契約に応じない場合「割増金」、いわば“罰金”を科す方針を打ち出した。来年1月の通常国会に提出する放送法改正案に盛り込む方針だ。ペナルティーを明確にし、全世帯で約2割いるといわれる不払いを減らそうというものだ。
総務省サイドとしては受信料を払っている人との不公平感が解消されるうえ、受信料徴収のためのコストも削減され、受信料引き下げにつながる……と考えているという。けれども一般国民としては納得できない部分が大きい。
「見ないのに、支払い義務があるなんておかしい!」「見る人だけが支払うスクランブル化をするべきだ」など、横暴ともいえる受信料の徴収について、不満の声は後を絶たない。にもかかわらず、国がNHKをここまで擁護するのには大きな違和感を抱くのだが。
政府の顔色をうかがうような番組作り
「民法とNHKの政治ニュースを見比べてみたら、その理由が推し量れるかもしれませんよ」(砂川教授、以下同)
「昔は“みなさまのNHK”を掲げ、視聴者に寄り添う姿勢をとっていましたが、現在は違ってきている。どちらかというと、国会だとか役所のほうに顔が向いていますね」
こんなエピソードがあるという。菅総理がNHK『ニュースウオッチ9』に生出演をしたときのこと、終わりぎわにキャスターが、日本学術会議任命問題について菅総理に何度も質問を重ねた。総理はあからさまに不愉快な表情を浮かべた。そして、その後、内閣広報官からNHK報道局にクレームが入った。
「圧力ともいえますね。安倍前首相時代にも、同じようなことが起きています。報道局の上層部は、すっかり政府の顔色をうかがうような番組作りを推し進め、もはや“真実を伝えない公共放送”ともいえる状況。NHKの番組は良質なものが多いですが、報道におけるこの姿勢は、いかがなものかと思います」
ではなぜ、政府がNHKに対して、権力をふりかざすことが可能なのか。その理由は、経営委員長の任命と、予算決めにある。
「まず経営委員会ですが、これはいわばNHKの最高意思決定機関。NHKに大きな影響力がある組織です。その委員の人事は、国会の同意を得て、内閣総理大臣が任命することになっています」
総理大臣の息がかかった人物が選ばれることが多々あるのだ。それゆえ経営委員会は、政府に不利な報道があれば、現場に対して口を挟むこともあるという。さらにNHKの予算は、国会承認を得られないと動かせない。
「総理大臣の機嫌をそこねて、承認されないなんて事態になればNHKとしては一大事です。3月末の新年度予算の決定までは、“政治の季節”であるのに、より報道番組が萎縮する傾向にあります」
このようにNHKと政府は切っても切れない関係。だからこそ、総務省も“割増金”などというNHKよりとも思える方針を打ち出すのだ。
収益7000億円というのは世界的にみてもかなり大きな金額だ。昨今の状況から広告収入が減少傾向にある民放各局は、経費削減などの経営努力が迫られているが、NHKはどこ吹く風。
「とにかく財源が豊富で、人モノ金のかけ方が違います。報道現場において、民放や新聞社の報道スタッフはコンビニ弁当を食べながら仕事をしているが、NHKのスタッフは、キッチンカーが来て湯気の立った弁当を食べている……なんて揶揄されるぐらいです」
批判があれば声をあげることが大事
加えて、タレントのギャラにも大きな隔たりが。
「NHKは民放の10分の1程度のギャラだとも言われています。NHKの言い分としては、全国放送で日本全国に顔が売れるのだから、安くてもおいしいでしょ、と」
ネットが発展した今、あまりにも時代錯誤な考え方だ。「NHKはもう十分に儲かっているでしょ!」と思わず腹立たしくなってくるが、さらなる野望は続く。
「インターネットが普及し、テレビ離れが進んでいる昨今。テレビ機器を持たず、スマホやPCだけを所持する人も増えてくるでしょう。例えばドイツの公共放送では、スマホやPCを持ったら、1世帯において受信料の支払いが義務づけられています。NHKも、ドイツ型を目指してくるでしょう」
さらに現在、5割程度といわれているBS放送受信契約率を引き上げ8割に達することができれば、あと2000億円ほどの収益プラスが見込める。民放との格差はますます広がり、NHKは巨大化していく可能性が高いのだ。
「世論から受信料について批判の声があがっているのは、NHKも自覚はしています。それゆえ、3年間で600億円の事業規模削減を行うとの発表も。とはいえ、国民の不満は根本的には解決されませんよね」
砂川教授いわく、私たち視聴者の側から反対の意見を示す場がないことが、いちばんの制度的欠陥だという。
「今は電気もガスも会社を選択することが可能です。ところがNHKは選択権がない。政権よりの報道ニュースに異議を唱えて、視聴を拒否し、受信料を払わない……という行為が許されない状況にあるともいえるのです」
しかし過去に「NHKけしからん」と国民が意思表示をしたことがある。それは2004年、NHK職員による不祥事が相次いで発覚したときだ。視聴者のNHK不信が強まり、受信料の支払い拒否・留保が増えて受信料収入が大幅にダウン。これによりNHKも態度をあらため、改革を進めるための有識者懇談会の設置や大幅な経費削減、2012年にはNHKとしては初めて受信料の値下げをするなどが実施された。
「国民サイドも常に監視をして、批判があれば声をあげることが大事。そのためにも、合法的に払わない権利が確立されることを望みますね」
政治家と役人とNHKが強固な三角形をつくり、公共放送としての役割を見失いつつあるNHK。批判や抗議をあきらめず、国民ひとりひとりが声をあげ続けることが、大切だといえそうだ。
(取材・文/樫野早苗)