高学歴芸人というと、クイズ番組で活躍する京大卒の『ロザン』宇治原史規を思い出す人も多いだろう。
高学歴芸人が増えたのはなぜか
「今は“隠れ”高学歴芸人がけっこういるんです。『M-1グランプリ2020』決勝メンバーを見ても、『おいでやすこが』のこがけんは慶應ボーイですし、『アキナ』の山名文和は偏差値68の超名門校・滋賀県立彦根東高等学校出身で名古屋外国語大学を中退しています。めちゃくちゃ秀才なんです」(テレビ局関係者)
ブレイク中の『ニューヨーク』屋敷裕政も、関西圏の私大の中でトップクラスの同志社大学卒。
もはや芸人でも“いい学校”を出ていないと、成功しないとも思えてくる──。なぜ芸人の高学歴化がここまで進んだのか。
「ものすごく簡単に言ってしまうと、芸人の数が激増しているからでしょうね」
そう話すのは、テレビや映画に詳しい昭和生まれのライター・成田全さん。
「あるテレビプロデューサーに取材したところ“この30年で芸人の数は100倍以上になった”と言っていました」(成田さん、以下同)
そこには、NSCの設立が大きく影響しているという。
「NSCは吉本興業が運営する芸人養成学校で、東京や大阪など全国に8校あります。ほかにも人力舎運営のスクールJCAや、渡辺プロダクションのワタナベコメディスクールなど多くの学校があり、毎年すさまじい数の人がお笑いの道へ進んでいます」
昔は師匠に弟子入りするか事務所のオーディションに合格するかの2択しかなく、芸人への道は狭き門だった。
「1982年にNSCができてから様変わりしました。そのNSC1期生には、ダウンタウンがいます。当時の生徒数は数十人で、ボウリング場の一角で授業が行われていたそうです」
ダウンタウンの成功──。それはお笑い界に大きな衝撃を与えたという。
「彼らは80年代後半から活躍した『お笑い第3世代』です。同世代にはとんねるずやウッチャンナンチャンがいますが、2組とも日本テレビ系のオーディション番組『お笑いスター誕生!!』を勝ち抜いて芸能界入りしています。対して、ダウンタウンはお笑いの学校を出て芸人になって、スターになった。この違いは大きい」(前出・テレビ局関係者)
学校に行けば芸人になれる時代
前出の成田さんも、
「お金を出してお笑いの学校に行けば、芸人になれて、しかも売れるかもしれない。これは芸人になるハードルを圧倒的に下げました。ダウンタウン以降、内弟子からデビューした芸人はかなり少なくなっていると思います」
M-1優勝コンビを振り返っても、中川家、ブラックマヨネーズ、トレンディエンジェル、銀シャリ、とろサーモンはすべてNSC出身。
芸人の裾野は広がり、さまざまな才能も開花した。
「又吉直樹さんは小説『火花』で芥川賞、矢部太郎さんは漫画『大家さんと僕』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。最近で言えば、『ガレッジセール』のゴリさんが、本名の照屋年之名義で監督した映画『洗骨』で第60回日本映画監督協会新人賞に選出されました。人材が豊富なんです」(成田さん、以下同)
『悪い子は吉本に入れるぞ!』関西では、言うことを聞かない子どもに対して、親はこんな脅し文句を言っていたが、それはもう昔の話。
「有名大学を出たら、大企業の会社員ではなく、芸人を選ぶ。それがあまり珍しいことではなくなってきて、優秀な頭脳がお笑いに入り込んできている。そもそも、お笑いビッグ3のうち、タモリさんとたけしさんだって有名大学に行っていましたから」
銀シャリも笑い飯も偏差値が高い
頭がよくないと、お笑いはできない。
「単純に“頭がいい=回転が速い”ので、当意即妙な返しができます。また、頭がいい人は根がまじめなので、アホなことにも一生懸命取り組みます。ですので、インテリな人ほど、お笑い芸人に向いていると言えるでしょう」
漫才やコントなどのネタを作るにも、
「瞬発力ではなく、継続して笑いを生まなければならない。さらに、フリとオチを作るという構成力も必要。M-1優勝者の学歴を見ても、『銀シャリ』の橋本直さんや『笑い飯』の哲夫さんはともに関西学院大卒です。ある程度の地頭というか、考えられる力がないとダメなんでしょう」
学生芸人の増加が高学歴化の要因のひとつだ、というのはお笑い評論家のラリー遠田さん。
「大学にお笑いサークルがあって芸人のような活動をしている学生が増えています。サークル同士でライブを開催したり学生芸人だけがエントリーできるお笑いコンテストを主催しています」(ラリー遠田さん、以下同)
早稲田、慶應、上智、同志社など比較的、偏差値が高いマンモス校は学生の数が多いため、自ずとサークル活動も盛んだという。
女性芸人も意外といる高学歴
「上智はラランド、早稲田はにゃんこスターのアンゴラ村長など、お笑いサークルからプロになった芸人は年々増えています」
ここ数年、タレント番組出演数ランキングで常に上位にいる大久保佳代子も、お笑いサークル出身。前出の成田さんは、
「エロネタで笑いを取る大久保さんもああ見えて、国立の千葉大学文学部卒(笑)。相方の光浦靖子さんも、東京外国語大学外国語学部インドネシア語学科卒。相当インテリなコンビですよね」
ラリー遠田さんは学生に呼ばれて、お笑いコンテストの審査員を務めた際、
「非常にレベルが高いと感じました。そこで優勝する学生芸人は、プロにも負けていないと思うほどでした」
注目の若手芸人を聞くと、
「真空ジェシカですね。彼らは青学と慶應の学生芸人でした。M-1グランプリでは、2年連続で準々決勝に進出する実力。変わった芸風なんですが、ハマるとクセになる面白さがあります」
ダウンタウンの功績が、結果的に芸人の偏差値が上げてしまった──。これもまた“ダウンタウン病”の症状のひとつと言えるのかも。