幅広いジャンルの知識を持ち、芸能界の新たな”ご意見番”として存在感を放つ、カズレーザーさん。だが、仕事に対しては「狙ってやってることなんて、ひとつもないです」と、あっさり語る。知性派売れっ子タレントの仕事観とは――。
※前回記事:カズレーザー「世界のすべては他人事」と思う訳
自分の代わりはいくらでもいる
「僕がやれる仕事なんて、ほかの誰でもできると思ってるんですよ」
取材中、スッキリとした顔で語ったカズレーザーさん。競争が激しい芸能界で、なぜこんなにも飄々(ひょうひょう)としていられるのか。メイプル超合金は『M-1グランプリ2015』をきっかけにブレイク後、コンスタントにテレビに出演し続けている。今のポジションを渡したくないと思ったことは、本当にないのか? 聞いてみると――。
「そんなの、一切ないですね。だって、たまたまそこにあったいすに座らせてもらっただけだから。誰かに『ちょっとどいて』って言われたら、どくしかないですよ。そもそも、自分が作ったいすじゃないし、もともと他人のいすじゃないですか。『自分の代わりはいない』って考えが、いちばんよくないと思うんです」
日に日に勢いを増すお笑い第7世代の後輩たちに対する焦りや敵対心など、一切ないという。
「別に、これまで第6世代もいたし第5世代もいたでしょう? 次は第8世代と言われる若手が出てくるだけ。人じゃなくても、世の中には新しいものがつねにあふれてるし、いちいち気にしてもしょうがなくないですか? どんなに頑張ろうが、自分も歳をとるわけだし」
もともとはピン芸人だったカズレーザーさんだが、ピン時代はなかなか人気が出なかった。「このままスベリ続けて死ぬのか、コンビを組むのか決めろ」と事務所スタッフに言われ、死ぬのは嫌だからとコンビを組んだ。
「どうせ、人間って全員ピンで生きてるじゃないですか。だから僕、ピンでもコンビでも、別にどっちでもいいなって思ったんです。ほんと、すべて成り行きで生きてます」
実績を重ねた売れっ子だからこそ動じないのかと思いきや、昔から変わらないようだ。金髪にいつも真っ赤な服を着用し、強烈なヴィジュアルとキャラクターを確立している彼だが、これも戦略的にやっているわけではないという。
「キャラをつけるんだったらもっと違うことやったほうがいいと思うし。ずっと同じキャラやっても、しょうがないですもん。ある程度浸透したんなら、次を意識してちゃんと変えなきゃいけないし。僕、お笑いもあんまり真面目にやってないんでしょうね(笑)」
自分軸はしっかりしているが、何事にも執着はしない。人間関係もあっさりしたタイプなのか聞いてみると、意外にも人情深い答えが返ってきた。
「なんにも執着しないのは、自分の今接してる人で手いっぱいになっちゃうからなんですよ。仲がいい友達や芸人仲間がいるので、その身の回りの人を大切にするだけで自分のキャパが100%埋まっちゃう。毎日、めちゃくちゃ幸せなんですよね」
風呂敷は広げない
好きな仕事をしながら自由に暮らしているカズレーザーさん。多忙な毎日の中でも、ストレスを感じることは一切ないという。背景には「風呂敷は無理に広げない」という、彼なりの持論があった。
「ハイリスクハイリターンって言うけれど、実際にはリスクなんて大したことないことが多いですよね。だから世の中、風呂敷を広げたもん勝ちだと思うんです。でも、広げたら広げたで、どこかでちゃんと畳まなきゃいけないタイミングがきてしまう。一度始めたことを手放すのは、しんどいじゃないですか。僕はしんどいのが嫌だから、最初から広げないことにしてるんです」
人気タレントだからこそ、さまざまな誘いが舞い込んでくるが、欲は出さない。自分のキャパシティーを自覚し、無理のない範囲で、今大切にすべきことを優先しているようだ。
「自分がやれそうにないことは、気軽に口にしないようにしています。本当にやりたいことって、宣言しなくても勝手にやると思うんですよ。もっと成功したいとか、いっぱい稼ぎたいとか考える人なら、周囲に宣言したほうがうまくいくんだろうなと思いますけど、別にそういう意欲もないし」
他人の評価を気にする必要はない
社会的な評価を気にせず、自分軸で生きられるカズレーザーさんの自由さは眩しい。一般的に、仕事をするうえでは人事評価や競争がどうしても発生するが、過剰に他人の目を気にしてしまう人にかける言葉はないか、率直に聞いてみた。
「褒められても褒められなくても、別に何も変わんないじゃないですか? 他人の評価に振り回されるの、しょうがない気がするんですよね。もちろん資本主義社会ですから、ライバルより先に次の一手を見つける人のほうが偉いわけで、何もしない僕が間違ってると思うんですけど(笑)。別に、何もしないのんびりしたやつがいてもいいんじゃないの?と思います」
SNS社会で、承認欲求を持て余している人に対してもズバッとコメント。
「周囲からの評価が気になるなら、スマホ捨てたら?と思いますね。スマホ、別にいらなくないですか? 利用してる人がいっぱいいるから、『SNSってすばらしいもの、価値のあるもの』って空気になってるだけなんですよ。全員が広告ブロックするアプリ入れて、金を生まないツールになったら、価値観なんてまた変わってくると思います」
(次回に続く)
小沢 あや(おざわ あや)コンテンツプランナー 、 編集者
音楽レーベルで営業とPRを経験後、IT企業を経て、2018年に独立。エッセイのほか、女性アイドルやミュージシャン、経営者のインタビューを多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。