今年もいよいよ残すところあと1日。毎年、『紅白歌合戦』に加え、『笑ってはいけない〜』や『RIZIN』で盛り上がりを見せる大晦日のテレビ番組だが、今年は新たな“刺客”が……!? コラムニスト・テレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
もともと在宅率の高い日であることに加えて、今年はコロナ禍でさらにその傾向が加速。あらためて大晦日に放送されるテレビ番組に注目が集まっている。
大晦日の番組と言えば、やはり『第71回 NHK紅白歌合戦』(NHK)を軸に考える人が多いだろう。活動休止目前の嵐を筆頭に7組がそろうジャニーズ勢から(うちSnow Manはコロナの影響で出場取りやめ)、NiziU、YOASOBI、瑛人などネット上で話題を集めた初出場組、松任谷由実、GReeeeN、さだまさしなどの特別企画組まで、幅広い出場者がそろっている。近年との比較はさておき、今年も視聴率トップの座は揺るがないだろう。
対抗馬となるのは、10年連続で民放1位を記録している『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日スペシャル 絶対に笑ってはいけない大貧民Go Toラスベガス24時』(日本テレビ)。
さらに、『ザワつく!大晦日 一茂良純ちさ子の会』(テレビ朝日系)は昨年に続く2年連続、『格闘技RIZIN』(フジテレビ系)は6年連続、『第53回年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)は53年連続の大晦日放送となる。
よく言えば「定番」だが、悪く言えば「代わり映えしない」という番組が並ぶ中、唯一の新顔が『バナナマンのせっかくグルメ!!大晦日に豪華芸能人が超満腹・全国縦断食べまくり旅SP』(TBS系)。『バナナマンのせっかくグルメ!!』は日曜夜にレギュラー放送されている番組で、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)、大河ドラマ(NHK)の“3強”の対抗馬として結果を出しはじめている。
新顔の登場によって、大晦日の勢力図が変わるのか。また、『笑ってはいけない』の視聴率民放1位に影響はあるのか。
あえて通常放送に近いムードで勝負
あらためて民放各局の狙いを見ていくと、「笑いでファミリー層を狙う」日本テレビ、「中高年層を手堅くつかむ」テレビ朝日、「格闘技ファンに狙いを定める」フジテレビ、「ブレずにベテラン歌手の歌を届ける」テレビ東京と、各局の特色がはっきりと表れている。
一方、「グルメ」「旅」というジャンルを選択したTBSは年齢や性別にとらわれず、「老若男女の視聴者を引きつけよう」という狙いが見て取れる。『紅白歌合戦』や『笑ってはいけない』のような年に一度の特別感は捨てて、「通常放送に近いムードでおいしい料理と美しい景色を楽しんでもらおう」としているのだ。
たとえば、『紅白歌合戦』や『RIZIN』の視聴者が本当に見たい歌手や対戦でない時間帯は、『バナナマンのせっかくグルメ』が有力候補に浮上する。そもそも大晦日の番組は長時間のものばかりで、見ている途中で飽きてしまうことが多いだけに、TBSも「チャンスはある」と踏んでいるのだろう。
また、『バナナマンのせっかくグルメ』には、もう1つ「底抜けの明るさ」という武器がある。全国各地を旅して名物料理を食べるバナナマン・日村勇紀は、他番組出演時をはるかに上回る“明るく、元気で、感じよく、かわいらしいキャラクター”を徹底。それを見守る相方・設楽統などのスタジオメンバーも日村に近いハイテンションのため、視聴者を明るく元気にしてしまうような魅力がある。
初めての大晦日放送だけに、「裏番組からどれだけ視聴者を引っ張ってこられるか」は未知数だが、「一度引きつけてしまえば、ズルズルと長い時間見せられる」という可能性を持った番組と言えるだろう。
紅白歌合戦の出来が
民放に影響を及ぼす
では、『笑ってはいけない』の視聴率民放1位が危ういかと言えば、それはほぼないだろう。同番組が初めて大晦日に放送されたのは2006年だが、世帯視聴率は10.2%に過ぎなかった。そこから毎年放送することでジワジワと数字を上げ、現在は10%台中盤に定着している。今年は渡部建の出演騒動でミソをつけたが、唯一のお笑い系である上に、これほどの長い歴史を持つ番組が急に視聴率を落とすことはまず考えづらい。
一方、他番組は前述したように、特定の視聴者層を狙い撃ちした安全策であるため、世帯視聴率は「1桁台が濃厚で、よくてギリギリ2桁」といったところではないか。だからこそ視聴者層を限定せず、しかも「グルメ」という普遍的な人間の欲を押し出した『バナナマンのせっかくグルメ』の結果が気になってしまう。
その結果を左右しそうなのは、民放の裏番組ではなく『紅白歌合戦』にほかならない。たとえば、桑田佳祐、松任谷由実、北島三郎らがステージにそろい踏みした2018年のような盛り上がりがあると番組を見続けるため、『バナナマンのせっかくグルメ』は厳しくなるだろう。しかし、近年は演出過多が批判されているだけに、今年も繰り返されるようであれば、チャンスが増えるのかもしれない。
最後に1つあげておきたいのは、活動休止目前の嵐が行う配信ライブ。これが「テレビ番組の視聴にどれくらいの影響を及ぼすか」と注目を集めているのだ。嵐だけでなく、YouTubeやInstagramなどを含めて独自の配信ライブを行う芸能人も少なくないだけに、人々がどんなものを選んで見るのか興味深い。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。