第50回 唐田えりか
女優・唐田えりかが月刊誌『日本カメラ』(日本カメラ社)で連載を開始したそうです。
唐田といえば、今年1月に俳優・東出昌大との不倫が報じられ、活動を控えていましたから、これが事実上の芸能活動復帰にあたるのかもしれません。
不倫が明らかになった東出昌大は妻である女優・杏と離婚しました。それぞれがそれぞれの道を歩き出しているのに蒸し返すのは何ですが、唐田の“匂わせ”はちょっと尋常じゃなかった。
東出と頬を寄せて撮った写真をプリントアウトして仲間に配ったり、お蔵入りとなったオムニバスドラマ『100文字アイデアをドラマにした!』(テレビ東京系)は役者と脚本家が話し合ってストーリーを作ったそうですが、主演の唐田のセリフに「東出」の名前が入っていたそうです。不倫という褒められないことをしておきながら、執拗に“匂わせ”をする。「妻である杏にケンカ売ってんのか」「どんなヤバ女だ」と見る人も多かったことでしょう。
芸能人としては見通しが甘すぎた
しかし「芸能人として」見ると、唐田はヤバいくらい見通しが甘いと言えるのではないでしょうか。2020年1月26日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS系)に出演したタレント・みちょぱは唐田の匂わせについて、「よくできんなって。奥さんを知ってるわけじゃないですか。しかもその奥さんのお父さんも知ってる。有名な方ですよね」と、杏にケンカを売ることは、杏の父親である国際派俳優・渡辺謙をも敵に回すかもしれない可能性に気づいている。
同番組に出演したタレント・藤田ニコルは東出と唐田の3年不倫を「いや、本気じゃないと思います。遊びだと思います」と発言、その理由を「だって、杏さんがそういう(子育ての)状況の中で、絶対に離婚するわけないじゃないですか」と分析していました。みちょぱもニコルもさすが売れるだけあって、若いのに目の付け所が違う。
結婚や離婚は愛情の量だけで成立するわけではありませんし、実際『週刊文春』による不倫・別居報道の直後、東出の所属事務所は「今回の別居は離婚へ向かうものではなく、なんとか修復のステップを踏むための冷却期間と聞いております」と、東出に離婚するつもりがないことを表明していました。
唐田がヤラかしたことは間違いありませんが、若い女の子が人気俳優に言い寄られて舞い上がって暴走したものの、男は家庭を捨てる気なんてまるでなく、もてあそばれてしまったという面もあるのではないでしょうか。
しかし、仮に唐田が騙されていたとしても、コンプライアンスが強化される最近のテレビでは、不倫のイメージがついた女優は歓迎されないでしょう。唐田ひとりの責任ではありませんが、唐田が1つの家庭を壊し、幼い子どもたちからお父さんを奪う遠因になったことは疑いようがない。東出と同じく、唐田の地に落ちたイメージを回復するのはそう簡単ではないでしょうし、芸能活動は相当難航すると思いますが、それでも唐田は案外、大丈夫ではないかと思うのです。
「100%自分の味方だ」と言える人が確実にいる
『女性自身』7月28・8月4日合併号では、唐田のお姉さんに芸能界復帰について話を聞いています。「女優復帰は厳しいのではないか?」という記者の質問に、お姉さんは「このまま引退ということはないはずです。それは本人はもちろん、家族も悔しすぎます。(仕事再開については)事務所さんにお任せしていますが、本人も仕事を続けるつもりですし、家族としても応援を続けていきます」とコメントしました。
お姉さんの「悔しすぎます」という発言には、若干の被害者意識がにじんでいるように感じます。唐田が叩かれまくったことに対して反論したいことも多々あるのだと推測しますが、不倫したことは事実なので、世間サマには通用しないでしょう。「本人はもちろん、家族もヤバいんだな」と言われてしまうかもしれません。
しかし、世の中のほとんどを敵に回していると言っても過言ではない、四面楚歌の唐田にとって、今の状況で「100%自分の味方だ」と言える人が確実にいることは、大きな励みになるはずです。もちろん事務所もサポートはしてくれるでしょうが、マイナスイメージは拭い去ることはそう簡単ではなく、以前のように仕事は来ないかもしれません。そうなると、事務所も商業的価値が見込めないタレントと契約を終了することもありえます。芸能人だけでなく、一般の世界でも、問題を起こすと家族や友達にまで見放されてしまうという話は決して珍しいものではありません。しかし、唐田は芸能界復帰がうまくいかなかったとしても、迎えてくれる人や場所があるのです。
「失敗しない力」よりも「やり直せる力」
できれば失敗しないで生きていきたいし、間違いは犯さないに越したことはありませんが、そうはいかないのが人生というもの。だからこそ、「失敗しない力」よりも「やり直せる力」のほうが求められるのではないでしょうか。家族でも友達でも恋人でも同僚でもいい。周囲からどんなにヤバいと言われても「この人は自分の味方だ」と思える人が1人でもいることが、やり直す原動力になるのではないかと思うのです。
私は婚活相談を行っている関係で、若い女性読者とメール交換をすることがあるのですが、「自分は嫌われている」と思う人が多いことに驚きます。実際に「あなたのことが嫌い」と言われたのならまだしも、根拠もないのに「嫌われている」というのは思い込み以外の何物でもなく、「好かれたい」という気持ちが強すぎて、他人の何気ない言葉に傷ついてしまうのだと思うのです。しかし、芸能人のような人気商売でなければ、そこにこだわる必要はありませんし、「好き」とか「嫌い」という感情は、そもそも証明しにくい、あやふやなものではないでしょうか。
直木賞作家・林真理子センセイの『本を読む女』(集英社文庫)をご存じでしょうか。本作は真理子センセイのお母さまを書いたものですが、真理子センセイのご実家は裕福な菓子商で、おばあさまは大変教育熱心だったそうです。オンナに学問はいらないと言われた時代でも娘たちを東京の学校に通わせますが、おじいさまが突然亡くなってしまいます。それでも、子どもを上の学校に通わせることについて、周囲に「世間に笑われてもいいのか」「親類に面目が立たん」と言われますが、おばあさまは「他人は何もしちゃくれません」「誰もご飯を食べさしちゃくれんだから、何を言われたっていいでごいすよ」と毅然として言い返すのです。
SNSの出現で、現代は他人のことをあれこれ言ったり言われたりする機会が格段に増えました。中には意見の範疇を超えて、誹謗中傷に思えるものもあり、傷つく人も多いのではないでしょうか。こんなヤバい時代を生き抜くためには、「ご飯を食べさせてくれる人」だけを大事にする合理性が大事なのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」