イラスト/サトウヨーコ

 誕生から10数年、天使のように愛らしかった息子が、無愛想で攻撃的になる思春期。母としては理解不能なことだらけだが、「脳」の仕組みを知ればなんてことなかった! 子育てがラクになる【秘】トリセツ、必読です。

思春期になると、“男性脳”になっていく

「学校どうだった? 」と聞いても「別に……」、「部屋を片づけなさい」と言えば「うぜぇ」。ちょっと前までは「ママ~♪」と甘えていた存在が、思春期になるとまるで尖ったナイフ。どう扱ったらいいのかと戸惑う母親も少なくない。

「原因は脳の使い方にあります。思春期になると、より“男性脳”になっていくからです」というのは人工知能研究者の黒川伊保子さん。

 そもそも脳には大きく2つのタイプがあり、ほとんどの男子は“空間認知優先型”の脳で生まれてくる。これは「遠く」まで視線を走らせ、空間の距離を測ったり、客観的な思考で問題を解決するという神経回路を優先して使う脳のタイプ。一方、女子は“コミュニケーション優先型”で、「近く」に集中して、目の前の人の表情や所作に反応する神経回路を優先して使う脳のタイプ。人はどちらの使い方もできるが、とっさにどちらを優先するかは、多くの男性が前者、多くの女性が後者にあらかじめ決められている。

理由は明確男性脳は狩り仕様に、女性脳は子育て仕様に初期設定されているのです」(黒川さん、以下同)

「空間認知優先型の脳は、いわゆる男性脳。とっさにスペック確認をして、問題点をいち早く指摘することが、脳の快感につながります」

 例えば、妻が夫に「今日パート先で嫌なことがあったの」と話したとする。すると男性脳を持つ夫は、「大変だったね」とは言わない。「君のあいまいな態度が誤解を生むんだ」などと欠点をズバッと指摘してくる。そのため女性は、夫を「冷たい」「理解してくれない」などと思ってしまうが、単に脳の機能が違うがゆえのこと。

 そして、この男性脳へと一気にシフトしていくのが、思春期。

「幼少期は、男子でもコミュニケーション優先型の脳の使い方ができるので、母親との会話を楽しむことができます。でも13歳を過ぎて男性ホルモン・テストステロンの分泌が盛んになると、闘争心、目的意識、縄張り意識が強くなり、脳も男性脳の使い方が助長されるのです」

 13歳までは母親と蜜月のような会話を楽しめたのに、13歳をすぎると無駄なおしゃべりを嫌い、やさしい言葉もなくなる……。狩りに出る男の脳に変わるのだ。

共感型の会話をたくさんしよう

 思春期男子の脳は、もうひとつやっかいなことがある。

「記憶の方式が大きく変化します。いわば子ども脳から大人脳へと成長します」

 12歳までの脳は、例えば給食の内容と味、友達との会話などを詳細に覚えていたりする。しかし、このような記憶方法を続けていると脳の容量が足りなくなるので、15歳ころからは類似体験に紐づけて覚えるという検索型に変わっていく。

過渡期である脳は脆弱で、“自分の気持ち”がうまく引き出せないという特徴が気持ちを聞かれるとイラッとしがちです

 加えて攻撃的になるテストステロンの影響もあり、「どこ行くの? どうするの? 」などと聞かれると、「うるせー」なんてことになってしまうのだ。

 この時期は、本人とは無関係の話題について「どう思う? 」と聞くのがいちばん。母親の相談ごとをしたり、「米大統領選、どう思う? 」など社会的な事案を話題にするといいでしょう」

 以前は頬をよせ「大好き」などと言ってくれた息子が、まるで他人のようになってしまうのが思春期。けれども、これは一時的なもの。

黒川伊保子さん

「テストステロンという男性ホルモンは、18歳以降は落ちついてきます。すると、息子の態度も穏やかになり、もう1度、母親のもとに気持ちが戻ってきます。

 反抗期(思春期の脳の混乱)は成長の一環として、ちょっと遠巻きに見守ってあげたいですね」

 息子が13歳以下であるなら、ぜひ実践してほしいことがある。

「コミュニケーション優先型の脳の使い方ができる年齢なので、共感型の会話をたくさんしておくのがおすすめ」

 共感型の会話とは、「腰が痛いわ」と言えば「寒くなってきたからね。大丈夫? 」などと気持ちをくんでくれる、女性的なやさしい会話のこと。男性脳が苦手とする会話だ。

「子育て中のお母さんは、共感型の会話を忘れてしまいがち。“宿題やったの? ”“早くお風呂に入って”“さっさと寝なさい”でしょ? これぜんぶ男性脳的な、目的思考・問題解決型の会話なんです」

 情の通った会話をしないまま子どもを育てると、子どもからも同じような会話しか出てこなくなる。

「脳は装置。入力しないものは出力できません」

 息子が弱音を吐いたら、「男なんだからグズグズ言わないの」なんて言わずに、「そうね、大変よね」と気持ちをくんでやる。やさしい言葉を入力してあげるのだ。

共感型の会話をしておくと、息子が大人になっても、幼少期のようなやさしい会話を楽しむことができますこの入力は母親にしかできないので、意識的にやっておくといいですね」

 息子がすでに大人という場合も、諦めることなかれ。

「子どものときよりは時間がかかりますが大丈夫。私の母は90歳になりますが、60歳近い息子の言葉が冷たいというので、やさしい言葉の入力をするようにすすめました。母は“いつも感謝している”とか“あなたが生まれてきてよかった”などを口にするように。すると、息子からもやさしい言葉が多く発せられるようになったんです」

 いくつになっても母の愛があれば、変えることができるのだ。

思春期男子とどう関わればいいのか

●共感力を育てる息子との対話5つのコツ

【1】恋人のようにほめる
 行為をほめてもらうことで、うれしく感じ、気持ちを理解しあうことの喜びに気づく。
【2】ねぎらう
 息子が弱音を吐いたら、まず「つらいよね、大変よね」と気持ちをくんであげて。
【3】感謝する
「生まれてきてくれてありがとう」「大好き」と感謝と愛の言葉を。やさしさが生まれる。
【4】頼る
 困ったことがあれば息子に相談をするなど、母は弱い存在であることを示して。
【5】弱音を吐く
 ときには子どもの前で泣いてもいい。母がどのように感じているかを想像させて。

●こんなケースはどうすればいい? 

(1)最近、学校を休んでひきこもることが……

「いじめなどがなく、本人の問題ならば、まず栄養不足を疑って。栄養が足りないと脳は正常に動かず、だるくてやる気が起きません。脳に不可欠なコレステロールを含む肉・卵・乳製品の摂取を。糖質過多も脳に必要なビタミンB群を消費するので要注意。昼夜逆転の生活もNGです。そして、母親は口うるさくしたり、心配しすぎないように。子どもと過ごす時間を設け、“いつもあなたのそばにいる”ということを示して。母という原点が確立すれば、自然と外へ出ていけるはず」

(2)いつもぼんやりしていて心配です

「外界で刺激を受けた脳は、その入力(経験値)を咀嚼して、センスに変える必要があります。内なる世界観を構築して、発見や発想の能力を高めるためです。脳内を整理する間、外界からいったん脳を遮断するという時間が男性の“ぼんやり”の正体。息子や夫がボーッとしていたら、“頭がよくなっている瞬間”である可能性が高い。脳が必要としている時間なので、そっと見守って」

(3)兄弟がいる場合の育て方は? 

「兄弟がいる場合は、兄は1番、弟は2番というふうに序列をしっかり示すといい。男性脳は位置やスペックを確認するので、序列が明確なほうが脳は混乱せず、兄弟ゲンカも少なくなります。また男子は問題解決型の脳を持つので、何かしてほしいことがあったら相談スタイルで話すといい。それに応えようとしっかりしてくるはず。このとき、この相談は兄、この相談は弟と、役割を明確に分けておくと、自分の役割を遂行しようと努力してくれます」

イラスト/サトウヨーコ
教えてくれたのは……黒川伊保子さん
脳科学・人工知能研究者、感性アナリスト。30年以上にわたり人工知能(AI)開発に携わり、脳と言葉の研究を極める。近著『息子のトリセツ』(扶桑社)は、“母も惚れるいい男”に育てるためのコツ満載で話題。
『息子のトリセツ』(扶桑社)著=黒川伊保子 

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(取材・文/樫野早苗)