テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
悲しき小池栄子
女優として地道に、着実に、評価を上げてきた小池栄子。絶妙なサブポジションで登場し、母性マウンティングで主役を完全に食う怪演を見せた『母になる』(日本テレビ系・2017年)、丁々発止の会話劇で茶の間の空気を心地よく盛り上げた『俺の話は長い』(日本テレビ系・2019年)など。ついこの前までは『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)で、うっかり玉の輿にのるホームセンター店長役で、物語の伏線を彩る重要な役をこなした。
女優・小池栄子は好きだが、風向きがちょっとおかしくなった。昨年末の特番『まつもtoなかい~マッチングな夜~』(11月21日放送・フジテレビ系)で、天海祐希と仲よくなりたいゲストとして登場。いや、これがマジでひどかった。
「恋愛は面倒臭い」「私の人生に必要ない」ときっぱり言い放った天海に食い下がるMCのふたり(松本人志と中居正広)に乗じて、毛や乳首の話など、本当にどうでもいい、品のない質問をたたみかけた小池。「どうにかして天海祐希と仲よくなりたい」という思いがあったのかもしれないが、どう見ても「男の権力者に気に入られるための太鼓持ち」にしか見えなかった。
「クラスにこういう女子、いたよなあ」と苦い気持ちになった。人気者や権力者の男子、あるいは自分が好きな男子に取り入るために、他の女子の知られたくない情報やあることないことを暴露しようとする女子が。女を踏み台にして男に取り入る卑怯な女。そういう構図にしか見えなかった。
もちろん、小池はバラエティー番組で鍛えてきた経緯もあるし、彼女にとって松本人志は尊敬する大先輩でもあり、頼れる人なのだろう。でも「男社会でうまく立ち回ってポジションを得てきた女」と見られてしまうのは、これからのご時世、はっきり言って損だ。そして、年末にその大損が立証された。
大晦日の特番『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス24時』(日本テレビ系)の一幕。名優たちが登場した過去の名場面を振り返るコーナーで、天海が登場した回のVTRが流れた。そのときに松本が発した言葉に愕然とした。
「違う番組で、小池栄子に乳首の色を聞かれた天海さんがマジギレしてました。小池に聞いたら、『しばらくメール返ってきてない』って」
これが面白いとは到底思えなかったし、なによりも小池の立場をより危うくした発言でもあった。そもそもそんなことでマジギレするほど天海の器は小さくない。男特有のお笑いのネタだとしても、小池が松本に愚痴をこぼしたことを暴いてしまったわけで。心がざらついたし、小池評が爆下がりしてしまった瞬間でもある。
別の番組での共演だったら
結果は違った?
「女の敵は女」というけれど、そう仕立て上げているのはいつも男。女同士の連帯を分断するのは常にこういう男どもなんだよな。
もちろん、すべてがネタというか仕掛けであってほしいとは思う。実際には小池と天海は仲がよくて、親交を深めているのならいいんだけど。それでも、テレビ的な仕掛けとして「女が女を貶めて、それをほくそえむ男たち」という構図は観たくないなあ。
可愛いモノや甘いモノが好きで、常に流行を追い、イケメンが好きで、ちょっとドジだったり、天然だったり、箸が転がるだけで笑って、脚を組んで座ってはいけなくて、恋愛や結婚を当然したいと思っている。それがテレビ的に求められる女だ。いまだに。
だから「男も友達も必要ない」と断言する女を異物扱いして笑いに変えようとする。必要なのは思いどおりになる女、男を頼って添え物になる女であって、自己が確立した女、拒否や断言をする女ではない。その手の女を理解できない、しようともしない。
そういう観点でいえば、小池栄子はテレビ的に求められる女であり、天海祐希は異物扱いされやすい女である。両方が貶められず、損もしない、つまりは小池が媚びずに存在できて、天海が自然体でいられるような番組はできないのかしら?
ふと思い出したのはトークバラエティー番組の『スナックあけぼの橋』(フジテレビ系)だ。2016年から年1回のペースで不定期に放送していた、いわゆる番組宣伝の番組。河田町にある架空のスナックという設定で、ちゃきちゃき仕切るママが天海、ぼんやり天然のチーママが石田ゆり子。夜な夜な訪れるゲストたち(主に俳優)にいろいろな話を聞き出しつつ、カラオケも歌いつつ、という平和な雰囲気で進行していく。
あの空気がとても心地よかった。人を貶めて笑いを取るような人も、俺様をふりかざす輩もいない。全4回に登場したレギュラーがずんの飯尾和樹というセンスのよさ。マツコ・デラックスが登場し、夜のスナック感をおおいにもりあげた初回、JUJUがゲストで歌い、スナックを超えてライブハウス感を味わえた2回目。毎年楽しみにしていたのだが、2018年の3回目は空気が変わって、激しく舌打ちしたことを覚えている。
天海ママが仕切る店に、俺様マインドが入って来ちゃって、すっかりジャックされちゃったのだ。「俺たちの音楽番組」みたいな空気で、番組はまったく異質なものになってしまった。4回目は映画の宣伝もあって、吉永小百合をゲストに迎え入れた。大御所相手に空気はやや硬かったけれど、再び居心地のいいスナックに戻って安心した。
小池がスナックあけぼの橋に来ていたら、もっと違っただろうな。それぞれに生き延びる処世術があってしかりなので、天海ママも受け入れやすかったに違いない。奇しくも同じフジテレビ。次回のスナックあけぼの橋がもしあるとしたら、どうか小池栄子を呼んであげて。あと、ずんの飯尾もマストで。
吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。