3年前に取材し、反響を呼んだ遺品整理クリーンサービス所属・小島美羽さんによる「孤独死」「ゴミ屋敷」をテーマにしたミニチュア作品。『週刊女性PRIME』では改めて小島さんを取材し、そこに込められた思いを、作品ごとに分けて伝えてく。前回の記事『「孤独死現場」をミニチュアで再現する遺品整理人 “並べられたお金” が意味するもの』に続き、今回は「ゴミ屋敷」だ。
「ゴミ屋敷って誰でもなり得るんです。みんな“私はキレイ好きだから大丈夫”って言うんですが、そんなことはありません。失恋、失業、いじめ、離婚……理由はさまざま。ちょっとした理由で気力がなくなってゴミを溜め込んでしまう人もいれば、看護師さんや新聞記者さんなど、単に仕事が忙しくてゴミ屋敷になる人もいます」
「ゴミ屋敷」をイメージして作られた2つのミニチュア作品を前に話す小島さん。作品には、これまで訪れた現場で小島さんが実際に見てきた数々のエピソードが集約されている。どちらも大量のゴミが、床を埋め尽くしているが……。
ゴミ屋敷で孤独死
ひとつ目は、40代女性が住んでいた部屋をイメージして作られたもの。
「ゴミ屋敷で住人の方が亡くなっているケースもあります。この作品も、ゴミに埋もれるように亡くなっていた女性の部屋のエピソードを主に詰め込んでいます。
ゴミの山の中からは男性の衣服も出てきて、壁には思い出の写真も飾ってありました。住みはじめたころは男の人と暮らして、部屋もキレイにしていたんだと思います。でも別れたのか、その喪失感で病んでしまって、結果ゴミ屋敷になったところで亡くなってしまったのかも。ここです、女性が亡くなっていた場所は」
そう言って小島さんが指差す部屋の奥は、体液だろうか、身体が埋まっていた部分は茶色く汚れていた。
「猫が好きだったんでしょうね。猫の雑誌もいっぱいありました」
その言葉どおり、ゴミの中には猫の雑誌が見える。しかし、こんな場所で過ごしていたとは到底思えない。女性はどうやって暮らしていたのだろうか。
「ゴミの上です。洋服もゴミに埋もれています。でもロフトだけはキレイにしていて、そこで生活している人もいます」
散乱するゴミの中にはペットボトルもチラホラ。これにも意味があるという。
「尿をペットボトルに入れていることも多いです。トイレにも行きたくないほどの精神状態なのかもしれません。男性の方が多いんですが、この部屋に住んでいた女性の部屋にも、ペットボトルにおしっこが入った状態で置かれていました。でも女性がペットボトルに入れるのって難しそうですよね? どうやらバケツに入れてからペットボトルに入れ替えているようなんです。尿だけでなく、コンビニの袋に入った大便が残されてるケースもあります」
残された“生きた証”
一見、すべてゴミに見えるが、細かく見ていくと、その人が生きていた証がところどころに残されていた。それは、キッチンに放置されたあるモノにも表されている。
「ゴミ屋敷でたまに見かける光景ですが、コンロ周りに卵の殻が捨てずに積み上げられているんです。それも、すごい数。それを再現するために、卵の殻をたくさん作りました。なぜ卵の殻なのかはわからない。卵って調理しやすいから、そういった理由もあるのかもしれませんね」
続いて小島さんが指差したのは、冷蔵庫の上。
「クレジットカードやポイントカード、宅配便の不在届や書類など、貴重品や大事なものが一箇所にまとめて置かれています。大切なものの置き場だけは、把握しておくためでしょう」
これだけのゴミを片付けるのも大変そうだが、まだ壁が見えるだけでもいいとか。中には4tトラック2台分のゴミが出た家も。
「天井までパンパンにゴミが部屋に入っていることもあります。ちょっとした隙間があれば、クロールするように入っていけますが、天井まで埋まってると入れないので、入り口から順番にゴミを出していくしかありません。
本当に体力が必要なんです。私も入社してから6キロくらい太りました。いっぱい食べて体力つけないと倒れてしまうので。男女関係ないですし、体力面に加えて精神的にもつらい部分がありますから」
何よりもキツイ、ゴキブリの処理
続いて見せてくれたのは、30代男性の「ゴミ屋敷」をイメージして作られたミニチュア。
「ダンボールが多いのは、外に出ないでネット注文が多いことを表しています。若い人だと、宅配ピザの空箱やファーストフードの袋なんかも多いですね」
部屋にはアマゾンなどの段ボールがあり、ドーナツの食べ残しやコーラの空き缶などが転がっている。だが、食べ残しも片づける側からしたら厄介という。
「空のお弁当は乾燥しているからいいんですが、食べ残しや生ゴミなど乾燥せずにネッチャリとしているものは匂いもすごい。ゴキブリとか虫も湧いていてつらいですね。私、本当に黒ゴキブリがダメなんです。とあるおばあさんの家を片づけたときに、部屋中にうじゃうじゃいたのが、今でもトラウマです。
よく孤独死の現場とかやってて病んだりしないの? なんて質問を受けますが、私は人間が相手ならば“家族”だと思ってるのでまったく嫌な気持ちはないんです。だけど唯一、ゴキブリだけはダメなんですよね」
と本音もポロリ。さらに、
「ゴミがかさばってふんわりしているといいんですが、ギュッと固まってしまうと、何年もかけて溜まったゴミが地層みたいになっていて大変。板みたいになってるから、ゴミ袋にも簡単にいれられなくて」
その場合はクワの手のような専用の道具で掃除をする。だが、権利書や免許証、お金などゴミではないものが混じっていたりもして、一筋縄でもいかないそう。
そしてひとつ、これらゴミ屋敷を見ていて気になることがあった。ゴミ屋敷とはいえ、ちゃんと掃除道具や「ゴキブリホイホイ」などが置いてあるのだ。
「片づけてるとコロコロ(粘着カーペットクリーナー)とか、掃除道具が出てきたりするんですよね。それからわかるように、みんなはじめはキレイにしていたんですよ。
最初にも言いましたが、誰でもゴミ屋敷になる可能性がある。ゴミ屋敷って聞くと、小汚い人が住んでるイメージかもしれませんが、実は全然そんなことない。逆に意外と外ではキレイにしている人が住んでいたりもして。ゴミ屋敷の住人が銀座のママさんだった、なんてこともありました。本当、見た目ではまったくわからないんですよ」
実際、小島さんの元には誰が依頼してくる?
「ご自分で連絡してくる方が多いです。でも自分の部屋だと正直に言わない人もいます。友人が汚くしたとか、ここは兄弟の部屋だとか。どう思われるかとか、恥ずかしいのかもしれません。だから周りにSOSを出せないままゴミ屋敷になってしまう。
本人が亡くなっている場合は、ご家族……と言っても近しい人からではなく、親戚から依頼がくることが多いです。両親から連絡を受けた場合でも、家に行って初めてわが子の家がゴミ屋敷だったと知るケースも少なくなくて。
コミュニケーションの重要性を感じるのは、孤独死と同じですね。“おはよう”“こんにちは”だけでもいい。家族、家族が難しければ近所の方でも、少しでもコミュニケーションがあるだけで、何かプラスの方に変わることができるのかもしれません。
ゴミ屋敷のきっかけは些細なことだったりもする。決して他人ごとじゃない。見てくれた人にもそのようなメッセージを受け取ってもらえたらいいなと思っています」
伝えたいメッセージを込め、作られていく小島さんの作品。遺品整理という本業にの傍ら、彼女は今日も事務所の空きスペースでミニチュア作品の製作に取りかかっている。