山田裕貴

 現在30歳、俳優生活10年目に突入した山田裕貴の勢いが止まらない。

地道な努力を続け…
転機は2019年

 デビューは2011年のスーパー戦隊シリーズ『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)で、その後も『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)、『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』(日本テレビ系)、『死幣-DEATH CASH-』(TBS系)など多くの同世代が集う作品への出演が連続。貴重な経験を積む一方、なかなか目立つことはできなかった。

 映画出演も含めて地道に演技力を磨いていたものの、知名度はなかなか上がらないという雌伏の時を過ごしていたが、2019年の朝ドラ『なつぞら』(NHK)出演で一変。番宣出演で見せるマジメで明るいキャラクターも評価されて、人気俳優の仲間入りを果たした。

 注目すべきは、この1年間でなぜか教師役と刑事役を交互に演じていること。2020年1~3月の『ホームルーム』(MBS)で教師役 → 同年4月~7月の『特捜9』(テレビ朝日系)で刑事役 → 同年10月~12月の『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)で教師役 → 2021年1月12日スタートの『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジテレビ系)で刑事役 → 同年1月16日スタートの『ここは今から倫理です。』(NHK)で教師役を演じている。

「教師役と刑事役のループ」という珍しい現象は何を意味しているのか? 気になる俳優の現状と未来を掘り下げていく。

「どこにでもいる」と「どこにもいない」

 教師役も刑事役もドラマの役柄としてオーソドックスな職業であり、まずこれが「似合う俳優」とみなされていることが大きい。刑事ドラマは「最も安定した結果を得やすい」と言われ、最も作品数の多いジャンルであり、学園ドラマは昨春の視聴率調査変更で、各局がスポンサー受けのいい若年層向けの番組作りを進めはじめたことで再評価されているジャンル。

 刑事ドラマはずっと作品数が多く、学園ドラマは昨年あたりから再び増えているため、両方をそつなく演じられる山田が重宝されるのは当然だろう。業界内では昔から、「小顔の美形が多い若手俳優たちに教師役と刑事役は似合いづらい」と言われている。華やオーラのようなものが邪魔をして視聴者に違和感を抱かせてしまうのだが、山田にはいい意味でそれを消すことができるため、物語に没入しやすい

 その上で制作陣から評価されているのは、山田がどこにでもいる普通の男にも、どこにもいない狂気の男にもなれること。

 たとえば、『ホームルーム』で演じた愛田凛太郎は、一見さわやかなイケメンながら、実はある女生徒を愛するあまり、自ら傷つけ自ら救い出す自作自演のストーカー教師だった。また、『先生を消す方程式。』で演じた頼田朝日も、温厚な青年と思わせつつ、実は生徒たちに同僚教師を殺すようにけしかけるサイコパスな教師だった。

 ぶっ飛んだ設定でも山田が演じると、「こういう男がいるのかも」と思わせてしまうから不思議だ。一方、『青のSP』で演じている三枝弘樹のようなマジメな刑事役もそつなく演じられる。

 つまり、普通の教師や刑事を演じられるのはもちろん、必要とあらば、悪に振り切った二面性を見せられるから、おのずと他の同年代俳優より出演作は増えていくのだ。

「断らない」スタンス

 次に、少し見方を変えて、キャスティングのポジションという観点から、この1年の出演作を振り返ってみたい。

 教師役の『ホームルーム』と『ここは今から倫理です。』では主演を務め、『先生を消す方程式。』も田中圭に次ぐ準主演で、黒幕を務めた。一方、刑事役の『特捜9』と『青のSP』では、主人公刑事役の井ノ原快彦と藤原竜也を支える助演を一歩引いた立場からまっとうしている。

昨年、山田裕貴は30歳に

 山田のようなアラサーが適齢期の教師役では堂々の主演を張り、年上世代が主演を務めることの多い刑事役では助演として主演をサポートしているのだ。

 これは「主演と助演を務められ、それを使い分けられる技量と器用さがある」ことを意味している。教師役と刑事役を交互に演じているのはたまたまだろうが、短期間での演じ分けを実現させられる同世代の俳優はなかなかいない。

 山田はイケメン俳優のカテゴリーに入れられることも多いが、もはやそんな枠組みが必要のない段階に入っているのではないか。まさに充実期であり、「基本的にオファーを断らない」という活動方針もあって、今後も出演作は途切れず主演・助演の両面での活躍が見られるはずだ。

 まずは16日スタートの『ここは今から倫理です。』に注目してみてはいかがだろうか。山田自身、「自分が演じる高柳に出会って、発する言葉にここまでシンクロを感じる人間もなかなかいないだろうなと」「普段自分が思っていることを、高柳を通して伝えられる気がして、役を生きる中で自分の心を伝えられる作品に出会えたことにものすごく感謝しています」と強い手応えを感じていることが何よりの品質保証だ。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
 ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。