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 新型コロナウイルスの感染拡大で不安な生活が続く中、“救世主”として待ちどおしいのが『ワクチン』だ。

 ワクチン開発には通常10年以上かかると言われている。しかし、アメリカの大手製薬会社『ファイザー』は昨年11月、異例の早さで新型コロナウイルスのワクチン(以下、コロナワクチン)を完成させた。アメリカやイギリスでは接種が始まっており、日本でも承認を申請中。政府は当面、16歳以上を対象に接種を進める方針だという。

 今月4日、菅義偉首相は「2月下旬までに接種開始できるよう政府一体となって準備する」と記者会見で述べた。かすかに明るい兆しが見えてきたようにも思えるのだが……。

不安視される接種後の『副反応』

 アメリカやイギリスではコロナワクチンの接種後に体調不良を訴える人が現れた。ワクチンとの因果関係は不明だが、死亡した医療関係者もいる。

「予防とはいえ健康な身体にできたばかりのワクチンを打つことに抵抗感や不安がある人は当然いるでしょう」

 そう話すのは、医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さん。

「特に不安が大きいのは接種後に起きる『副反応』(主作用とは別の反応)という健康被害でしょう。ですが、一定数の副反応はコロナワクチンに限らず、ほかのワクチンでも起こりうることなのです」(前出の村上さん、以下同)

 100%安全なワクチンはない。一般的なワクチンの副反応は数十万人に1人、複数回接種するのであれば10万人に1人ほどの割合で起きている。では、コロナワクチンではどのくらいの割合でどんな副反応が起きるのか。

「今のところ正確な頻度は不明ですが、打った直後『アナフィラキシーショック』が起こる可能性があります」

 アレルギー反応の一種で血圧低下や意識障害、呼吸困難などの症状が出る。治療が遅れれば、死に至る危険がある。

「また、いくつかのワクチンではごくまれに接種後しばらくしてから手足が動かなくなる『ギラン・バレー症候群』のような神経性の副反応が出ることもある。こうしたことが起こる可能性も考えられます」

 ワクチンの真の効果や副反応は数十万人規模の接種結果で検証される。しかし、コロナワクチンの臨床試験参加者数は10万人に満たないため、まだまだ検証が足りていないのが現状だが、

「これまでのデータから重大な欠陥は報告されていません。最終的には1年ほど様子を見て、重大な副反応の頻度がかなり低ければリスクも低く、安心して使えるワクチンと言えるようになるでしょう」

 肝心の効果はどうだろう。

「コロナワクチンを接種した人と、していない人の感染率を比較したところ、接種した人の感染率は接種していない人よりも9割以上低かった。

 当初、WHOは感染率を5割低下させるなら有効なワクチンだと想定していたのですが、実際にはそれよりもはるかに高い有効性でした」

ワクチンの効果が半年もたない可能性も

 だが、その効果が持続する期間はわかっていない。

「現時点では新型コロナウイルス感染後、体内にできる抗体は半年ほど効果が続くと言われています。ですが、ワクチンで作る抗体は感染の結果できる抗体よりも効果の持続力が弱いのが一般的です。コロナワクチンの効果が半年もたない可能性もゼロではないのです

 インフルエンザのように季節性はなく、年間通して流行する新型コロナウイルス。感染防止には最低でも年2、3回の接種が必要になるだろう。

 気になるのが費用だが、初回は国が全額負担する。ただし、2回目以降は数千円ほど実費がかかる可能性も。

 もうひとつの懸念はコロナワクチンで重症化を防げるかどうかだ。

「インフルエンザワクチンは接種しても最大2人に1人は感染します。ただし、その場合、ワクチンを接種している人は入院するほど重症化するリスクは低くなります。ですが、コロナワクチンが重症化のリスクをどの程度減らせるのかはわかっていません」

 過去には、開発中のワクチン接種後にウイルスに感染し、症状が重症化する副反応が報告された事例もある。今のところ、コロナワクチンでその副反応は報告されていないが、未知の部分は多い。

 コロナワクチンの副反応や効果に人種差がある可能性も考えられる。

「実は、今わかっているデータの多くはアジア人以外の被験者によるものです。もちろん日本人でも臨床試験はしていますが、データが少ない」

一斉接種スタートは早くても夏以降に

 日本人への安全性が不透明な状態で、政府が目標に掲げる2月下旬の接種はできるのだろうか。

「これは菅首相が政治的な立場から願望として発言しているだけです。新薬を承認するときは専門家が厚生労働省の審議に参加し、安全性などを科学的に判断するのが原則。日本人での臨床試験データの検討も含めると2月下旬はやや性急すぎるのでは」

 コロナワクチンは急ピッチで製造されているものの、計画より遅れており、必要数を確保するまでにはかなり時間がかかるともみられる。

 承認されたからといって国民全員がすぐに接種できるわけではないのだ。

 まずは医療関係者、65歳以上の高齢者、重症化リスクの高い基礎疾患がある人の順で優先的に接種が行われる。

「一斉接種が始まるのは早くても夏ごろでしょう」

 重症化リスクの低い20〜30代の接種時期はそれより遅くなるかもしれない。

「ファイザーのコロナワクチンはマイナス70度で保管、管理しないといけない。そんな設備がある病院は限られているので、どこの医療機関でも打てる状況にはならない。拠点を作り、そこに人を集めることになる」

 ファイザーのコロナワクチンは接種後、数週間あけて2回目の投与が必要となる。

 もしワクチンの効果が半年程度だった場合、一斉接種が始まるころには医療関係者らのワクチンの効果が切れはじめ、2度目の接種を迎える時期に。そうなれば一般人のもとにはいつまでたってもワクチンが回ってこない事態にもなりかねない。

できるだけ早く接種するほうがいい

 だが、不安なことばかりではない。コロナワクチンが現状を打破する希望にはなる。変異株に関しても現状では効果があると推測されている。

「うまくいけば、来年の今ごろにはステイホーム状態が改善されると考えられます。今後、今よりも効果の持続期間が長く、より安全性が高いコロナワクチンも開発される可能性は十分にあります」

 ワクチン接種が感染予防では最も効率がいい手段だ。

 接種が義務化されることはないだろうが、感染防止の観点から学校や職場などで接種証明書を求められる場面も出てくるかもしれない。

「個人的にはできるだけ早く接種するほうがいいと思います。接種すれば生活の自由度はずっと上がります。ウイルスがこの先、完全になくなることはありません。コロナ前に限りなく近い生活に戻る最短ルートがコロナワクチンなのです」

■専門家が懸念するポイント
(1)一斉接種2月下旬はほぼ不可能
(2)日本人への臨床データが少ない
(3)重症化を防げるかどうかは不明
(4)効果が持続する期間も不明
(5)副反応が出る可能性がある
(6)接種場所が限られてしまう
(7)接種証明書の提出を求められる可能性も


村上和巳さん フリージャーナリスト。医療専門紙の記者を経てフリーに。専門は国際紛争や安全保障、災害・防災や医学分野など。現在は毎日新聞医療プレミアでも執筆。『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)など著書多数