なぜに会食をくりかえす──?

 新型コロナウイルスの流行から約1年が経とうとしている。飲食店への休業要請や2度目の緊急事態宣言が発令されるなか、政治家たちが“大人数での会食”を報じられ国民に陳謝するという光景はもはや日常に……。なぜ彼らは会食をやめられないのか。漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんと考える(以下、コメントはすべて辛酸さん)。

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──緊急事態宣言がふたたび発令され、国民への『外出自粛』や飲食店に対する20時までの『時短営業』が出されたり、大変なことになっていますね。

「私も最近、仕事を終えて夕食をとろうとしたらラストオーダーギリギリで焦ったことが度々ありました。まともな食事をとっていないことで、免疫力が低下しているかもしれません。

 外食の際も『マスク着用』が推奨されていますが、たとえばひとりが“周りもマスクしてないから”と言い出すことで、みんなも外す流れになりがちですよね。また、一時は飛沫が飛ばないように、扇子で口元を覆いながら会食に参加していましたが、友人には“前世は平安だったでしょ?”と言われてしまいました。飛沫問題ひとつとっても大変です」

会食がないと政治は動かないのか

扇子会食は流行るのか……?(画像はイメージ)

──雅(みやび)な会食風景ですね。年末年始にかけて、自粛を要請する側のはずの政治家たちが、大人数での会食をして炎上するということが増えています。

「『バイキング』で“政治家が会食したワケ”をまとめて放送していましたが、その表の配色がおどろおどろしく、まるで会食が犯罪かのような扱いに。ただ、政治家のみなさんの言い訳もすごいです。

 埼玉県議が40人以上で集まって会食をしていたことについて、埼玉県議会の田村琢実議長は『打ち上げ会は中止にして三々五々食事をして帰っただけです。別に会食をしているわけではない』と説明されていました。三々五々という言葉の意味について改めて調べたくなります。

 菅義偉首相も各界の方々と集まってステーキを食べていましたし、会食がないと政治は回らないのかなと思いました。逆に会食が日本を動かしているとも捉えることができますね

●政治家たちの言い訳まとめ
《9人でふぐ会食》 石破茂元幹事長「店に行って5人以上の会食であることがわかった。参加すべきか逡巡したが会食を断れなかった」
《6人で高級寿司店貸切》 橋本聖子五輪相「結果的には想定外で6人の会合が重なってしまったということなんですけど」                      《8人でステーキ会食》 二階俊博幹事長「会食を目的にやっていない。意見交換を考えてやっている。全く無駄なことをしているわけではない」

ずっと会食をしてきた文化の人たちは

──先日(1月26日)も緊急事態宣言が発令されている最中、自民党の松本純国家対策委員長代理がイタリアンレストランと銀座のクラブをはしごしていたことがスクープされましたよね(報道を受け現在は役職を辞任)。3軒回って帰宅は午後11時になったみたいです。

会食を認めたうえで『要望・陳情を承るかたち』と意味がわからない釈明をされていましたね。クラブのママの『最近銀座にお客さんこないのよ〜』といったグチを“陳情”と言い換えたのでしょうか。あたかも国民に寄り添って悩みを聞いていた感を出していますが、店から出てくるときの写真はだいぶニヤケ顔だったような。

 店でアルコールが出されていたことについても『お茶がわりに(酒が)で出ていた』と説明されていました。私はこれまでお茶がわりにお酒が出てきたことがないので、やはり生きる世界が違うんですかね。

 同席していたもうひとりの公明党の方(遠山清彦幹事長代理。こちらも辞任)も『知人の話を聞いてあげたかった』とやはり“いい人オーラ”を出されています。この件をスクープした『週刊新潮』の記事には、会食をしたレストランのオーナーがイタリアマフィアの末裔(まつえい)だと書かれていました。営業時間の延長はある意味での治外法権が働いたのでしょうか? 政府は時短営業や休業要請に応じなかった飲食店は公表すると言っていましたが、この店もそうなるのか気になりますね」

──どうせ“陳情を承る”のなら、20時までの休業要請に従っている店から聞くべきな気もしますしね。そういえば石田純一もまた10人で会食しているところを撮られていましたね。彼の言い分は《偶然、同席していた知り合いの知り合いがお店にいて、合流してきて。『こんな数になるなら来なかった!』って怒りましたよ。でも、そこで帰るわけにもいかず。あ、私は飲んでませんよ》(『週刊新潮』2021年1月21日発売号)とのことみたいです。

政治家もそうですが、ずっと会食をやってきた文化のひとたちは“途中で帰る”という発想がないのかもしれません。店にダラダラ居座るという行為の根底には、孤独や満たされないものがあるのでしょうか。家庭に帰りづらいとか何か事情を抱えているのかな、などと想像してしまいます

──自民党の各派閥は1月19日、毎週木曜昼の会合時に所属議員同士で一緒にお昼に弁当を食べる『箱弁当』の文化をしばらくの間自粛すると決めたそうです。議員からは「寂しい」との声もあがっているとか。

結束を深めるために行われている伝統で、『一致団結、箱弁当』のかけ声もあったそうです。政治家は周りに敵も多く、簡単に心を許せない状態だからか、頻繁に一緒に食事をしていないと繋がりを実感できないのかもしれませんね。顔を合わせながら同じものを食べることで深まる結束があるのでしょうか。

 新聞には、竹下派は『弁当があると、持ち帰りでも議員同士で食べてしまうかもしれない』という理由で弁当を完全になくしてしまいましたが、女子高生のグループじゃないんだから……と思ってしまいました。中・高生にとっては『お弁当を誰と食べるか』は重要な問題かもしれませんが、いい大人がなぜこんな風習に囚われているのか不思議です。いまでもウラでは“隠れ箱弁当”やせめてもの“ZOOM箱弁当”などが行われていたりして。

 政治家が会食をやめないのは、派閥が生命線になる今の日本政治のありかたも影響しているのかもしれません。飛沫をわかちあうことが信頼関係を生み出していたと

スーパーで飲食店の弁当を

──その一方、市井の人の悩みでいえば、飲食店の時短要請による『夕食難民』なども話題になりましたよね。自炊をする習慣のない人たちにとっては大きな問題かもしれません。飲食業界も苦境に立たされています。何か解決策があればいいのですが……。

「前に、取材を終えて夜9時ごろに目黒駅を通りがかったら、地下鉄の駅ナカの団子屋に行列ができていました。ほかに店がやっていなかったというのもあるかもしれませんが、普段あまり団子屋に並んでいる光景をみることがないので少し衝撃的でしたね。五平餅はギリギリ主食にはなりそうですが。みんなコンビニ弁当には飽きているのかもしれません。

午後9時、目黒駅の団子屋に並ぶ人たち(辛酸さん撮影)

 状況が少しでもいい方向に転ぶとすれば、たとえば“休業になった飲食店がスーパーの一画などでお弁当を出す”といった取り組みなどやってみたらどうかな? と思いました。

 渋谷の『西武』の地下にいろいろな店のお惣菜が置いてあったりするイメージで、“あそこに行けば欲しいものがみつかる”といった場所があれば便利かなと。今も通りを歩くと、飲食店がお店の前で屋台を出していたりとかするのですが、好きなものを食べようとすると、こっちでお惣菜を買ってあっちで主食を買ってと少し歩かなければいけません。

 たとえばこれがスーパーなど、一か所に集まっていれば選びやすいし、地域のコミュニティも活気づくのかなと思いました。もちろん密にならないように気をつけてですが。こういった意見、どこに要望・陳情すればいいんですかね……」


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。