若者に人気のアプリ「TikTok」に関連した事件・死亡事故が多発している。
TikTokとは、15秒~60秒程度のショートムービー(動画)を共有できる中国発のアプリだ。ダンスや口パク動画のほか、料理やヘアメイクの仕方を伝授するお役立ち動画など、さまざまなジャンルの動画をサクサクと手軽に閲覧できることから、若者から人気を得ている。
昨年には中国がデータを不当に抜き取っているとして世界中で騒動になったが、具体的な証拠は示されていない。それよりも現実として、さまざまな脅威が、子どもたちを危険に晒(さら)している。
実際にどんな事例が発生しているのか。
「チャレンジ動画」で死亡事故が発生
1月20日にイタリアで、TikTokで流行している「失神チャレンジ」に挑戦した少女が、首にベルトを巻きつけて窒息死する事故が発生した。
「チャレンジ動画」とは、TikTok上のお題のようなもので、挑戦者はお題に沿った動画を撮影して投稿すれば気軽に参加することができる。
このチャレンジ動画をめぐっては昨年にもアメリカで「ベナドリル・チャレンジ」と呼ばれる、薬を大量摂取して幻覚を楽しむ企画が流行し、15歳の少女が亡くなる悲劇が起きた。
こうした危険について、ネット教育アナリストの尾花紀子さんは、
「チャレンジ企画には、安心して楽しめるものもたくさんあります。しかし、ひどい使い方をすれば人の命も奪ってしまう。
思春期はチャレンジ精神が触発される時期ですが、踏みとどまれる理性を養えるよう、こうしたニュースが流れたときに保護者が食卓でさりげなく会話して、未然に防いでほしいです」
と防止策を訴える。
TikTok では、投稿された動画に問題がないか運営者が24時間体制で審査しており、規約違反となるものは警告・削除しているという。それでも事故が絶えないのが現状だ。
いじめ動画がネット上で拡散
危険なのは事故だけではない。
ITジャーナリストの鈴木朋子さんによると、
「いじめの問題もあります。動画のコメント欄にブスだとか誹謗(ひぼう)中傷が書き込まれることも。いじめている動画が投稿され、それが複製されてネット上で拡散した事例もあります」
動画が悪用されることも……。
「女性の動画を勝手にキャプチャー(切り取り)をして、まとめサイトで“ブスまとめ”というタイトルで晒されるといった被害が発生しています。
少女の写真を勝手に出会い系サイトで使用されるといった被害も。ネット上で流用されると2度と消せないので、理解したうえで利用する必要があります」(以下、鈴木さん)
性犯罪に巻き込まれるケースも
さらには、子どもが性犯罪に巻き込まれるケースも後を絶たない。
昨年9月には、TikTokのDM(ダイレクトメッセージ)を通じて出会った小学5年の女児を誘い出し、ホテルでわいせつ行為をした男が逮捕される事件が発生している。
「脅されて追い詰められて、会ってしまう子もいる。この事件では男が“会ってくれないと家の前で死ぬ”と言っていたようです」
そもそもTikTokは13歳未満の利用を禁じているが、少女は親の端末を使っていたという。
「TikTokは動画の中に個人情報が含まれやすい。背景の公園やコンビニ、電柱などから住んでいる地域を割り出されてしまいます。
制服姿で投稿すれば、学校名もわかる。悪い人が見ていて会いに来たよと脅されることもあるので、注意が必要です」
ほかにも、少女になりすました男がDMで「裸の写真を送り合おう」と持ちかけて送らせた事件などが発生している。
「子どもはSNSを始めたてのころ、DMに返事をしなければと思ってしまいがち。怪しいアカウントや人物を見抜けるように、リテラシーを磨きましょう」
現在、TikTokでは16歳未満のDM送信機能を禁止しており、年齢認証を厳格化している。それでも家族のアカウントを使用して事件に巻き込まれるケースが多発しており、注意が必要だ。
人気ティックトッカーはいじめを捏造され、炎上
正しく安全にTikTokを使うにはどうすればいいのか。TikTokのフォロワー数が100万人を超える人気ティックトッカーの渡辺リサさん(18)が自らの体験を明かす。
「私もDMで“学校ここでしょ”“ここに住んでるでしょ”といったメッセージを受け取ったことがあります。今は個人情報を特定されないように、自宅の中で撮影をしたりなど気をつけるようにしています」
トラブルに巻き込まれたこともあるようで、
「私があたかも人をいじめているかのようなSNSの投稿を捏造(ねつぞう)されて炎上したことがあります。そのときは家族に相談しました」
しかし、いざトラブルに巻き込まれた子どもが親に相談するのは勇気がいることだ。
「子どもは怒られたり、自分のやっていることを否定されたりするのを怖がるものです。
TikTokも、親が普段から一緒に楽しむことができたら、何かあったときに相談してみようかという気になると思います」(渡辺さん)
前出の尾花さんも、こう続ける(以下、尾花さん)。
「親がトラブルにどう気づいてあげるか。普段から、“何かあったらパパには言わないから、ママにだけ話して”といったふうに、家族に1人だけでも相談できるようにしてあげることが大切です」
親は安全な環境を整えて、見守りを
子どもを守るため保護者がやるべきことについては、
「TikTokにはペアレンタルコントロールという機能があり、子どものアカウントと親のアカウントをひもづけて管理することができます。
子どもの使用時間の制限や、不適切なコンテンツ表示の制限、DMやコメント書き込みの範囲を制限して見知らぬ人との接触を防ぐことができます。思春期になると親がどうこう言えなくなるので、代わりに見守ってくれる機能を利用してほしいです」
この機能はアプリの設定画面から簡単に登録することができ、犯罪に巻き込まれるリスクは大きく減少する。
そのほかにも、
「子どもは賢いので、おじいちゃん、おばあちゃんのところに行って制限のないスマホを使わせてくれるよう頼んだりします。各携帯電話会社に“あんしんフィルター”というサービスがあり、問い合わせれば危険な機能を制限できます。
“大事なものだから、ちゃんと設定してからね”と言って、安全な環境を整えてから貸すようにしましょう」
設定が難しい場合は、親が代わりにやってあげるなどして、確実に対策することが必要だという。
「最後の砦(とりで)は保護者。手間を惜しまずに設定してほしい。犯罪に巻き込まれてからでは、悔やんでも悔やみきれません」
子どもはTikTokを自己表現の場として楽しんでおり、頭ごなしに否定してはならない。渡辺さんが指摘したように、家族でコミュニケーションしながら安全を守ってあげる努力が必要だろう。
※トラブルに巻き込まれたときの問い合わせ先
■インターネット違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)
自分の写真を無断で転載されて削除したいとき、個人情報を無断で公開されたとき、誹謗中傷を書き込まれたときなどに相談ができる。(https://ihaho.jp/)
■各地域の警察本部WEBサイト。ネットのトラブルに関する相談ができる。