“出物腫れ物ところかまわず”なんて言葉があるけれど、不意に便や尿が漏れたり、はたまたブッなんて音が出てしまったり……。これでは外出もままならない! 漏れを徹底ガードするセルフケアで、シモトラブルとスッキリ訣別!

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尿、便、おなら……すべてに関連あり!

 年を重ねるごとに増える排泄(はいせつ)トラブル。尿漏れは、いまや多くの人に認知されているが、便漏れはどうだろう。お年寄りやごく一部の人の症状と思いきや、日本大腸肛門病学会のデータによれば、500万人以上が悩んでいるポピュラーな病気なのだ。

 小腸・大腸の専門医である前田耕太郎先生によると、便漏れやおなら漏れは「肛門まわりと骨盤底筋といった筋肉の衰えや、神経トラブルが主な原因」という。咳(せき)をしたときや重い荷物を持ったときに便が出てしまうということは多々あるそう。実はコレ、尿漏れも同じようなシーンで起きることが多い。

 尿トラブルに精通した整形外科医の武田淳也先生は、

「便漏れがある人は、ほぼ100%尿漏れもあります。逆に、おならだけが漏れるという人も要注意。筋肉老化が進む50代以降から尿、便と、失禁が進む可能性があります」

 油断大敵、症状が進めば“三重苦”に陥る可能性は十分にあるのだ。

【“3大漏れ”のツラいエピソード続々!】
●いつ漏れるかわからない恐怖
 50歳を過ぎたころから、下着に便がつくようになったというA子さん。
「外出には替えの下着と消臭スプレーが欠かせませんでしたが、便漏れの回数や量が増えるにつれ、外出すること自体、怖くなって次第にうつのように。友達からの誘いも断り続けている日々です」(A・Kさん/53歳/東京都)

●お気に入りのワンピースを汚した日
 孫の誕生日を祝おうと家族でレストランに出かけたK美さん。
「突然、抑えきれない尿意におそわれトイレに駆け込むも間に合わずに漏らしてしまって……。気に入っていた服は汚れ、見た目にもわかる状態。あまりのショックにトイレから出られず、せっかくの誕生日会が台無しになってしまいました」(K・Kさん/68歳/埼玉県)

●お友達の笑顔が消えた……
「久しぶりに友達数人とランチを楽しんでいたんです。会話がはずみ大きな声で笑ったその瞬間、周囲にもそれとわかるほどの「ブッ!」と大きな音が。友人たちもおならの主がすぐに私だと気づいたようで、一瞬にして凍りつくような雰囲気になってしまい……。穴があったら入りたかったです」(M・Tさん/42歳/千葉県)

50代の10人に1人の女性が悩む便失禁

 無意識、または自分の意思に反して、肛門から便が漏れる症状を“便失禁”という。実はコレ、単なる老化現象ではなく、立派な病気のひとつなのだ。

「加齢に加えて、排便をコントロールする機能にトラブルが起きることで起こる病気です。症状が重ければ治療が必須です」(前田先生、以下同)

 便漏れに悩む人は多く、前田先生の研究データでは、50代女性の約12%、つまり10人に1人以上に便失禁があるという。

「多くの人が悩んでいるにもかかわらず、便漏れは恥ずかしいという意識から、誰にも言えず思い悩む人が少なくありません。ひとりでこっそりと下着を洗ったり、外出ができず家に閉じこもったり。生活の質を大きく下げ、うつ状態になる人もいます」

【便やおなら漏れ、高齢者だけの症状ではなかった!!】
・20代 便漏れ2.5% ガス漏れ23%
・30代 便漏れ6.1% ガス漏れ31%
・40代 便漏れ6.3% ガス漏れ43%
・50代 便漏れ12% ガス漏れ57%

*450人の女性(平均年齢31歳)を対象としたアンケート結果(前田耕太郎先生の研究データより)。年齢が上がるにしたがい割合が増えていくが、なんと20代で便漏れの症状がある人も。加えて20代の約4人に1人はおならが漏れているという衝撃事実!

出産経験がある人は漏らしやすい!?

 排便のコントロールには筋肉と神経がかかわっている。便意を感じて排便をするときは、まず脳が「トイレに行きたい」という指令を出す。トイレでいきむと腹圧がかかり、肛門の内側にある内肛門括約筋が開くことで排便ができる。逆に便意を我慢するときは、肛門の外側にある外肛門括約筋が肛門をしめて、排便をコントロールしている。

「脳の指令を伝達する神経や、排便に関する筋肉のいずれかにダメージがあると便失禁が起こります」

 便失禁には大きく2つのタイプがあり、自分でも気づかずに漏れてしまうのは“漏出性便失禁”といい、主に神経や内肛門括約筋に問題があると起きてしまう。もうひとつは“切迫性便失禁”といい、トイレに行くまでに間に合わずに漏れてしまうタイプ。こちらは主に神経と外肛門括約筋のトラブルが原因となる。また2つのタイプがまじった“混合性便失禁”というタイプもある。

「加齢による神経や筋肉の衰えのほか、糖尿病による神経障害や、腸の手術をした人、骨盤臓器脱、神経系の病気なども原因になります。加えて注意したいのが、出産経験のある女性。会陰切開や長時間のいきみにより、肛門括約筋が損傷していることがあるからです」

 自然分娩による出産時に肛門括約筋などに受けたダメージが、出産から何年もたってから加齢により発生することが多い。

 年齢を重ねるにしたがいダメージが顕在化し、便失禁となってあらわれることがあるのだ。

食事と骨盤底筋で漏れをガード!

 漏れを防ぐために気をつけたいのがまず食事。便漏れは下痢便であることが多いので、下痢を引き起こしやすいカフェインアルコール飲料香辛料の多い食品柑橘系の果物は避けたい。また腸内に便がたまっていなければ漏れる心配もないので、規則正しい排便習慣をつけるのも重要。決まった時間にトイレに行き、排便のリズムを整えたい。そして、おすすめなのが骨盤底筋を鍛えるエクササイズ(※最終ページ参照)。

「排便に関わる外肛門括約筋や肛門挙筋を鍛えると、便失禁を防いでくれます。不意におならが出てしまうガス失禁にも効果的です。1日に数回を習慣化させるようにしてください」

 もちろん症状の重さが気になるようであれば、肛門科や内科の医師に相談をするのがベストだ。もしも「年だからしかたがない」という医師であれば、迷わずセカンドオピニオンを。前田先生が代表を務める大腸肛門機能障害研究所(※)のHPを見れば、専門病院を探すことも可能。

https://kinoushougai.wixsite.com/mysite

“おなら漏れ”はどうすれば抑えられる?

●2人に1人が悩んでいる!

 意識もしていないのにおならが出てしまうのは、ガス失禁といわれる。原因は便失禁と同じで、神経伝達と肛門まわりの筋肉のトラブル。

「便失禁とガス失禁は密接な関係にあり、あわせて肛門失禁と呼びます」

 便失禁がある場合はガス失禁をともなうことが多く、ガス失禁がある場合は便失禁予備軍とも考えられる。前田先生によれば、50代女性の57%、実に6割近くの人にガス失禁の症状があるそう。

●早食い、早口、いも好きは注意!

「おならは腸の中で発生したガスだと思われがちですが、ほとんどが空気です」
 例えば、食事をしながらおしゃべりをすると空気も一緒に飲み込んでいる。慌ててしゃべる人や早食いの人も、空気を多く飲み込みがち。これらが腸で発生したガスとともに放出されるのがおならだ。

「おならを減らすには、ゆっくり食べる、ゆっくり話すなどに気をつけるといいです」

 加えて腸の蠕動(ぜんどう)運動が盛んになりガスが発生しやすいいも類や豆類は、ガス漏れがある人は控えめにするのがベター。

女4人集まれば、3人に症状がある尿漏れ

 日本排尿機能学会の調査によると、尿漏れ経験がある女性は40代以上で3人に1人、60代以上で4人に3人だという。60代が集まれば、ほとんどが尿漏れ経験者!

「尿トラブルは誰にでも起こりうる老化現象のひとつです」というのは武田淳也先生。膀胱(ぼうこう)や脳神経などの病気が潜在的に関わっている場合もあるが、ほとんどは骨盤底筋の衰えが原因。加齢に加え、更年期以降は女性ホルモン・エストロゲンが減少することで筋肉を維持する働きが弱まってしまう。加えて運動不足や肥満、便秘なども要因に。

「また経膣分娩をした人は、骨盤底筋などにダメージを受けていることが多く、なんらかの尿漏れリスクを持つ人は29%もいるというデータもあります」(武田先生、以下同)。

 尿をためるときは平滑筋がゆるんで膀胱が膨らみ、尿道括約筋がキュッとしまって尿道が開かないように調整している。骨盤底筋は膀胱や尿道、膣などの臓器を支えつつ、尿道括約筋とともに尿道を開閉し、排尿をコントロールしている。

「骨盤底筋が衰えると臓器が下がって尿道括約筋の力も弱まります。そのため、ちょっとした刺激で漏れてしまうのです」

 一般的な女性の尿失禁には、大きく2つのタイプがある。くしゃみや笑うなど、腹圧がかかったときに無意識に尿が漏れるのを“腹圧性失禁”といい、産後女性や40代以降に多い。もうひとつは“切迫性尿失禁”。急に激しい尿意が起こり、トイレに間に合わずに漏れてしまうタイプで、高齢者に多い。

 こちらは膀胱が勝手に収縮する“過活動膀胱”も原因となる。この2つを併発している“混合性尿失禁”というタイプも。

骨盤底筋を効果的に鍛える!

「健康で快適な日々をキープするためにも尿トラブルは放置せず、早めのケアが肝心」

 深刻な病気が隠れている場合もあるので、まずは医師に相談し、正確な診断を受けるのがベスト。そのうえで実践したいのが、骨盤底筋を鍛える運動。

「一般的な骨盤底筋体操は、膣や肛門をキュッとしめるというものですが、深部筋なためうまくできない人も多い。そこで、おすすめしているのが“ピフィラティス”というトレーニング(※次ページ参照)」

 腰や脚を上下に弾ませるリズミカルな動きが特徴で、骨盤底筋を意識できなくても、効果的にトレーニングができる。

「ピフィラティスなら、通常時に比べて最大で18~40倍の負荷を骨盤底筋にかけることが可能。便漏れ対策としても有効です」

 加えて、利尿作用と膀胱を刺激する作用があるカフェイン飲料を避ける、過活動膀胱を起こしやすい香辛料や柑橘類を避けるなどの生活習慣の注意も必要だ。

生理用ナプキンの代用はNG!

 尿漏れには、パンティーライナー、尿漏れパッド、紙パンツと、どれを選んだらよいか迷うところ。選び方のコツを花王サニタリー事業部・白神尚人さんに伺った。

「尿の量が少ない場合は、尿漏れ対応のパンティーライナーやパッドがいいでしょう」

 吸水量も微量から数百ccまであるので自分に合ったものをチョイスしやすく、汚れたらすぐに交換できるのも便利。

「ただし吸水できる面積が小さいので、運動する場合などは横漏れの心配が。その際は、使いきり吸水パンツがおすすめです」

 パンツとパッドが一体になっているので、ヨレとズレが回避できる。そして注意したいのが生理用ナプキンでの代用。

「おりもの用のパンティーライナーもそうですが、尿を吸収するために作られていないので、吸収した尿がしみ出しやすい。肌へのダメージもあるので避けたほうがいいです」

漏れトラブルをスッキリ解消するメソッド

【メソッド1】弱った骨盤底筋を鍛えるピフィラティス(スクワット)
 尿漏れがある人はもちろん、骨盤底筋は外肛門括約筋や肛門挙筋につながるので、鍛えることで便失禁もガードできる。骨盤底筋に入る力が通常の18倍にもなる「スクワット」をご紹介。
「1日3セット行うのが理想ですが、無理のない範囲で行って」(前出・武田先生)

骨盤底筋を鍛えるエクササイズ イラスト/上田惣子

(1) 両足を肩幅より少し開いて立ち(爪先を約30度外側に向ける)、ひざが足先の方向と同じように少し外側に向くようにして、腰を落とす。
(2) (1)の姿勢からひざを伸ばして腰を上げ、身体をまっすぐに伸ばす。(1)(2)をゆっくり3回繰り返したら、4回目に骨盤底筋を意識しながら、腰を落とした状態で3秒キープ。
(3) ゆっくり腰を落とし、腰を落としたまま鼻からゆっくりと息を吸う。このときできれば骨盤底筋を意識する。
(4) 次に「ハッ、ハッ、ハッ」と口から息を勢いよく短く吐きつつ、腰を素早く一気に跳ね上げるようにリズミカルに3回上下に弾ませる。(3)(4)を3回繰り返す。

【メソッド2】水分補給をするならカフェインは控えめに
 緑茶やコーヒーなどカフェインを多く含む飲み物は多くとらないように。腸の動きを活発にするので下痢を引き起こしやすく、加えて利尿作用があるので尿量も増えてしまうからだ。またアルコール飲料も同様の作用があるので、控えめにするのがおすすめ。

【メソッド3】不溶性食物繊維で下痢便を回避
 便失禁は下痢便が多いので、便を硬めにする効果がある不溶性の食物繊維を積極的にとるといい。大麦や玄米、さつまいも、ごぼう、にんじん、大豆などが代表的なので、積極的に取り入れて。便、尿漏れともに避けたいのが香辛料と柑橘類。下痢の原因となりやすく、膀胱の粘膜に刺激を与えるので過活動膀胱を起こして尿漏れにつながる。

メソッド4】正しい排便・排尿習慣を
 排便は、便意を感じたらすぐにトイレに行き排便することが肝心。直腸に便がたまっていなければ、漏れる心配もないので、外出時や就寝前は排便する習慣を身につけて。排尿は、一般的には1日5~7回、1回の排尿量は200~600ミリリットルという。尿漏れを気にして過度に水分を控えると、膀胱が小さくなりかえって状況が悪化することがあるので、自分の排尿状態を観察しつつ、水分補給量のコントロールを。

【メソッド5】きつい服装や下着は避ける
 きつい下着や、強く締めつけるような補整下着を着用していると、お腹を圧迫し、骨盤底筋に負荷をかけて尿漏れにつながることが。また脱ぐのに時間がかかるので、急な尿意や便意を感じてトイレに駆け込んでも、間に合わずに漏らす、ということにもなりかねない。ガードルやタイツの重ね着は避けるなどの工夫を。

(取材・文/樫野早苗)

《PROFILE》
前田耕太郎先生 ◎藤田医科大学病院国際医療センター教授。専門は、消化器外科、小腸、大腸、肛門の診療。「便失禁診療ガイドライン」制作委員長。共著に『シニアの頻尿・尿もれ・便失禁:その悩み、治療で改善できます!』(NHK出版)など。

武田淳也先生 ◎整形外科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。医療法人明和会整形外科スポーツ・栄養クリニック理事長。『尿トラブルが自分でこっそり治せる!米国の専門医式最新エクササイズ ピフィラティス』(わかさ出版)など著書多数。