加藤シゲアキ

文学に詳しい仲間からは“すごいね”と言ってもらえた。直木賞を受賞していたら吉川英治文学新人賞には候補にならないので、“(直木賞を逃したからこそ)なれる候補もあるね”とやさしい励ましもいただきました》

 2月2日、NHK土曜ドラマ『六畳間のピアノマン』のリモート取材会に出席したNEWSの加藤シゲアキが、「第42回吉川英治文学新人賞」に自身の小説『オルタネート』がノミネートされたことを受けて心境を語った。

「同作は『第164回直木三十五賞』最終選考まで残り、先日には全国の書店員によって選出される『2021年本屋大賞』候補作にもノミネートされました。この2004年にスタートした文学賞は、“本当におもしろい作品が選ばれる”賞の一つとして読書愛好家からの評判も高く、受賞作はメディアミックスされて漫画や実写になることが多い。

 すでに話題性ある『オルタネート』は、早くもドラマ、映画化が決定しているとも聞きます。高校生の群青劇だけに後輩の若手ジャニーズが出演して、主題歌をNEWSが担当というところか。あとは“○○賞受賞作品”というハクがほしい」(広告代理店関係者)

小説家を志した裏にNEWSの崩壊

 青山学院大学法学部を卒業した“高学歴ジャニーズ”の加藤が、『ピンクとグレー』でデビューしたのが2012年1月のこと。前年の11月には小説家を志すことを明かしていたのだが、転機になったのがNEWS史上最大のピンチだったとも。

「2011年10月に山下智久と錦戸亮がNEWSを脱退したのです。デビュー当初は9人だったグループが、両エースが抜けて4人になったことで解散危機も囁(ささや)かれました。加藤くんは“今後NEWSとして、芸能人として食べていけるのか”と、日々、そんな不安を抱えていたと言います。

 そんな折に、もともと読書家で小説を書くことに興味を持っていた彼は、自分の可能性と進路を広げるために“清水の舞台から飛び降りる”覚悟でペンをとったのです」(スポーツ紙芸能デスク)

 以後、NEWSと並行して創作活動を続けてきた加藤は、短編小説集を含む5作を手掛けて順調にキャリアを重ね、昨年11月に満を持して6作目となる『オルタネート』を発表。文学賞を受賞すれば当然、ジャニーズ初の快挙となる。

「今や“ただのアイドル”が芸能界で生き残るのは難しく、なんらかの付加価値が求められる時代。『A.B.C-Z』の戸塚祥太も2013年から雑誌で連載を持ち、同じく小説も手掛けて作家デビューしています。後輩には高学歴Jr.も多いので、加藤が賞をとって“先駆者”になれば“ジャニーズ作家”は増えていくと思いますよ」(前出・スポーツ紙芸能デスク)

 結果として、「直木賞」に輝いたのは西條奈加の『心淋し川(うらさびしがわ)』で、惜しくも受賞を逃した加藤。それでも1月20日の選考会で、選考委員を務めた小説家の北方謙三氏は加藤の作品に対して《よく書けていた》《強く推す委員もいた》と評し、さらにこんな裏側をぶっちゃけていた。

《決選投票の前に加藤シゲアキに直木賞を受賞させようという機運が選考委員の中にあって、私もその1人でしたが、やはり“もう1作ぐらい待ってみよう”と。とても惜しかった》

 なんと、投票を待たずして「加藤を受賞させる」ような空気もあったというのだ。「“彼ら”はしばしば出版業界の救世主になる」とは文芸ジャーナリスト。

「最近では『芥川賞』の又吉直樹さんを代表するように、時に文学賞とは“畑違い”とも思える作家さんがノミネートされることもあります。他にも、例えば若い女性作家さんが賞をとればメディア露出がグッと上がり、それをきっかけに候補になった他の作品にも興味を示してもらえるようになるんです。

 もちろん、作品自体がおもしろいことが大前提ですが、仮に同等の評価ならばより著名な、話題になりそうな作家を推したいのが業界の本音なのかもしれません」

受賞に向けられる「忖度」の声

 確かに又吉の『火花』が書籍だけにとどまらず、ドラマや映画、舞台や漫画にまでメディアミックスされたように、話題になるほど多方面にわたってビジネスが広がる。一方で、有名人の受賞は“諸刃の剣”になりえるとも。

内容が伴わなければ当然、“これで受賞?”“忖度では?”と懐疑的な声も出てくるでしょう。芸能人であれば、特にアイドルであればなおさらのことで、文学賞の権威をも損なうリスクも含んでいます。

 北方先生をはじめとした選考委員が、加藤さんの作品が受賞に値すると評しながらも“もう1作待ってみよう”とストップをかけたのは、邪推されることで彼の才能がここで潰されないように気遣ったのかもしれませんね」(前出・文芸ジャーナリスト)

「吉川英治文学新人賞」は3月2日に、「本屋大賞」は4月14日にそれぞれ受賞作が発表される。加藤は晴れて、ジャニーズ初の“作家先生”になれるのか。