銀座のスナック街

 池脇千鶴主演ドラマ『その女、ジルバ』(フジテレビ系)よりドラマチック! 失恋にも女の戦いにも負けず、コロナ禍で苦しみながらもたくましく生きる、そんなリアル『ジルバ』たちに迫った。

注目集める熟女ホステスやママ

「女はシジュー(40歳)から!」「捨てていいのは操と過去だけ!」

 数々の名言が飛び出すドラマ『その女、ジルバ』(フジテレビ系)。世の女性からは“元気が出る”“癒される”と話題を集めている。

 物語のヒロインは、池脇千鶴演じる40歳の新。婚約破棄に遭い、仕事もリストラ目前……冴えない『四十独身女』で破れかぶれの主人公が偶然、ホステスになることからドラマが始まる。

「『ジルバ』とは新が働く熟女バー『OLD JACK&ROSE』の初代ママ(故人・池脇千鶴2役)の源氏名だ。彼女を慕う店の超高齢熟女ホステスにも注目が集まります」(テレビ誌ライター)

 80代のくじらママ(草笛光子)をはじめ、草村礼子、久本雅美、中田喜子が演じる50~60代のホステスたちが脇を固める。

 熟女ホステスは、なにもドラマの中だけの存在ではない。

「キャバクラやラウンジのホステスは、20代の女性がメイン。ですが、スナックやバーでは、40代、50代、さらに上の世代の女性が活躍しているお店がたくさんあります」

 そう話すのは、これまで全国各地500以上の店舗を訪れてきたスナック探訪家の五十嵐真由子さん。

熟女ホステスの中には10代、20代のころから夜の仕事をしている方も多いんです。長年、培われた接客術やトーク力もさることながら、人生経験の豊富さや懐の深さが最大の魅力。彼女たちの話には、ドラマのようなエピソードも珍しくありません」(前出・五十嵐さん、以下同)

 だが、コロナ禍では売り上げが悪化し、苦境にあえぐ店舗も少なくない。

「テナント料だけで月の支払いが50万円を超えるケースも珍しくありません。老舗の飲食店からも『お店をたたむしかないのか』という悲痛な声も聞こえてきています」 

 そんな状況下でも日々、店に立ち続けている熟女ホステスやママたち。

これまでのやり方が通用しないことに葛藤を覚えています。でも、食べていかなきゃいけないと、プライドを捨て、慣れないオンラインで接客をしたり、試行錯誤しながら踏ん張っていますよ

 その強さからエネルギーをもらえるのも熟女バーの醍醐味。ここからは彼女たちのリアルなエピソードを掘り下げていく。

昭和VS平成の戦い

「60代~70代の大ママがいるお店もざらです。そんな伝説的なママに憧れて、この世界に入る子も多いんです」

 そう語るのは、都内の熟女バーに勤める仁科麗華さん(52・仮名)。夜の街を渡り歩いてきたベテランホステス。

「接客をしているからでしょうか、大ママたちはみんな実年齢よりもずっと若く見えます。私も年をとってもママたちみたいになりたいって思うんです」

 基本的にはホステスの仲がいいといわれる熟女バーだが、年の差ゆえのトラブルも。

「年配のママやチーママが“こうやってきたんだから!”と頭ごなしに言えば若い子は反発する。かといって年配ママたちも、若い子からのアドバイスも聞かない。昭和と平成の戦い、なんてことも言われています(苦笑)

 だが、多いのはお客さんをめぐるイザコザだ。麗華さんが明かす。

「まだ30代のころのことです。40代の先輩ホステスの上客だった不動産会社の社長が私に指名替えしたことがありました。そこからはまさに修羅場の日々……」

 さっそく先輩ホステスから更衣室に呼び出された麗華さんは、「枕営業でしょ!」と罵倒され、平手打ちをされた。もちろん事実無根だった。

「それだけならいいですが、翌日からはお財布や上着がなくなりました。どうやら先輩に指示された新米ホステスもグルになっていたようです」

 精神的にも追い込まれた麗華さん。しかし社長は麗華さんに入れ込み、皮肉にも売り上げは右肩上がりに。会計がひと晩300万円にもなる“太客”に。しかし、そこには思わぬ落とし穴があった。

「売り掛けです。担当のホステスは、お客様が売り掛け(ツケ)で帰った場合、その売り掛け代金の回収や、お店への入金の責任をすべて負わなくてはいけないんです。その方も最初はよかったのですが、担当して1年後に売り掛けで飛ばれました。およそベンツ1台分ぐらいの金額です。きっと『ざまあみろ』と言われていたでしょうね

 その後、麗華さんは退店し、独立。いまや50代になった彼女はその豊富な人生経験で男性客に連れられて来店した女性客の相談に乗ることも多い。

「夜の世界の“色恋事情”」

 作中では中田喜子演じるホステスのエリー(源氏名)が若い時分、結婚詐欺師と恋に落ちたエピソードがある。

 夜の世界に色恋はつきもの。“恋多き女”も少なくない。

「趣味は結婚、特技は離婚!」

 そう豪語するのは、茨城県水戸市でスナックを営む北宮亜希子さん(54・仮名)。これまで計3人の男性と結婚し、離婚。今は店を切り盛りしながら、独身生活を謳歌している。

気づいたら、うちの店のホステスは、み〜んな離婚歴のある女性ばかり。なかには『バツ9』のホステスまでいるんだから! もはや、バツイチなんて無傷よね

 おおらかな笑みを浮かべる亜希子ママの店には、女性客も多く、婚活相談から夫とのセックスレスまで、赤裸々な恋愛話が繰り広げられている。

「特に『長年付き合っている彼女との結婚に踏み込めない』なんていう若い男性は説教よ。その場で彼女を呼び出せと言ったこともあるわ(笑)。私だって“結婚したい”と言われたら、もう1回ぐらいしても悪くないもの。いくつになっても、恋をして幸せになりたいという気持ちは変わらないわ(笑)」

 失恋しても笑って迎え入れてくれる人たちがいる──。

 それも熟女バーの魅力だ。

「若いころは、『とにかくお客さんの指名が欲しい』ってギラギラしてました。でも四十路に差しかかったころから、そういうのもしんどくなっちゃって……。お店にも次々と若い子が入ってくるし、お払い箱になった私を受け入れてくれたのが、このお店なの

 東京都町田市にあるバーで働く高梨京子さん(47・仮名)は、しんみりとした口調で語る。ママは65歳で、ホステスも40代や50代。ドラマを地で行く高齢バーである。

今は“この場所”自体をなにより大事にしているの

 そう語る京子さんには、今も忘れられない出来事がある。昨年のとある冬の夜だ。

「この日は月末の金曜日で、狭い店内はすし詰め状態。常連さんや一見さんも和気あいあいと飲んで盛り上がっていたんです。その中の1人の60代の男性が『俺は元警察官だったんだぞ!』と急に怒鳴り始めてね」

 それまで和やかだった店の空気は、硬直。すぐさま京子さんをはじめホステス4人が泥酔した男性を取り囲んだ。

「みんなで“お客様、もしそういう言葉遣いをするのなら、別の店でお楽しみくださいね”と言って、“いっせーのせ”でイスごと持ち上げて店外に追い出したの。すごい力持ちでしょ、私たち(笑)」

 見事なチームワークで迷惑客を撃退した京子さんたち。当時の心持ちをこう振り返る。

たとえお客さんでもほかの常連さんに嫌な思いをさせたくない。なにより自分たちの『居場所』を荒らされたくない、そんな一心だったわね

 京子さんにとって、お店は職場以上の居場所なのだ。そして作中の熟女ホステスたち同様にママを慕っている。

「この店で働いているホステスは、離婚や、親の介護と苦労はいろいろ。でも1度お店に来たら、そんな苦労もすべて忘れて笑っていられる。まさに別世界ね。そんな私たちの気持ちを知ってか知らずか、この年まで雇ってくれるママには親以上に感謝しているわ」

 いまだ猛威をふるい続ける新型コロナウイルスの打撃は、京子さんたちの店も例外ではない。2度の緊急事態宣言ではお店の売り上げも大きく下がった。

「お店も時短営業だけど、それでも自分たちに会いに来てくれるお客さんがいる以上、笑顔で仕事しないとね」

 京子さんは笑う。

クヨクヨしてても始まらないわよ

 作中で中尾ミエ演じるチーママの真知が新に語るセリフだ。現実の熟女バーのホステスたちもみんな口をそろえて言う。

「ママもホステスさんも常連男性も同年代。気兼ねもないし、学生時代に戻ったみたいで楽しいですよ」(都内のスナックに通う50代の女性)

 今宵もどこか街の片隅で看板に灯りをともす熟女バー。迷いを捨てて扉を開いてみては?

女性ひとりでも楽しめる
オンラインスナックで乾杯!

 新型コロナウイルス感染が蔓延して以降、厳しい状況下にある飲食店。そんな中で店舗を維持するため、'20年5月に五十嵐さんが中心になって立ち上げたのが『オンラインスナック横丁』だ。

 テレビ電話を利用して、ママやホステスとコミュニケーションができるサービス。お酒や食べ物は用意しなくてはいけないが、ゆっくり話ができるのでスナック初心者の女性でも安心できる。料金は2500円~3500円。

『オンラインスナック横丁』の実際の画面。背景のレトロな看板や赤ちょうちんもかわいい。自宅にいながらお店さながらの時間を楽しめる。初来店でも安心

「加盟店も海外まで含めると、現在、約40店舗に増えました」(前出の五十嵐さん)

 小誌記者もさっそくオンラインスナックを体験。優美な着物姿で出迎えてくれたのは、銀座の「お茶屋バーいろ葉」のみづほママ(42)だ。

「最近は、女性のお客様やご夫婦でご一緒にいらっしゃる方もいますよ。私は全国各地のお取り寄せグルメや日本酒を紹介しているんです」

 この日、ママが教えてくれたのは、『英雄(ひでお)』という日本酒。

「にごり酒ですが、甘さはとてもスッキリなんですよ〜」とボトル片手にニッコリ。自室のパソコン越しではあるが、20代から銀座でホステスをしていたママの半生に耳を傾けるうちにお酒は進み、時間があっという間に過ぎていった。カラオケもないので、大声を出す必要もない。ママの絶妙な相槌とアドバイスに思わず話し込んでしまった。

 前出の五十嵐さんいわく、「クラブやスナックは、かつては男性が若い女の子に愚痴を言いながら癒してもらう場所でしたが、最近は、ママに憧れる女性客がキャリアや恋愛など未来を語る場所と変化しています

 宴もたけなわ、みづほママがこんな言葉を呟いた。

ホステスにとって大切なのは、人間力と人間関係。ドラマのお店は温かくて理想的。うらやましいです。私も新店舗でそんな店を作りたいですね

 手軽にジルバのお店のような熟女バーが利用できるこのサービス。緊急事態宣言下の息抜きに利用してみては。

2月22日には新店舗「銀座いろ葉」がオープン予定。中央区銀座7-7-19ニューセンタービルB1
お話を聞いたのは……五十嵐真由子さん・スナック探訪家、PRプランナー。Make.合同会社代表。スナック探訪家女子「スナ女」活動、コロナ禍のスナック支援として「オンラインスナック横丁」を立ち上げ、代表を務める

(取材・文/アケミン)