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「これほど多くの後遺症が起こる感染症はこれまでありませんでした。新型コロナウイルス(以下コロナ)は、風邪やインフルエンザとはまったくの別ものの感染症と考えたほうがいい」

 そう話すのは『ヒラハタクリニック』の平畑光一院長(内科医)。同院では新型コロナウイルス後遺症外来を開設し、これまでに800人以上の後遺症に苦しむコロナ回復患者を診察してきた。

「発症時の症状の重さと後遺症は関係ありません。当院を受診する方の中には軽症や無症状の患者も多い。“だるさが続く”“味覚がおかしい”などと訴えて受診、検査をしてはじめて感染していたことが判明した人もいます」(前出の平畑院長、以下同)

 平畑院長によると、女性は男性よりも後遺症が現れるリスクが1・4倍高いという。

50代女性の半数がひどいだるさに悩む

 では、具体的にどのような後遺症の症状があるのか。

 最も特徴的なのが前述したとおり“だるさ”“ひどい倦怠感”

 これまでに同院を受診した808人中253人がこの“ひどい倦怠感”を訴えているという。

 年齢別に見ると10~30代で3割~5割、60代以上の女性になると5割以上がその症状に悩まされている。

「若者は“感染しても重症化しない”と甘く考えているかもしれませんが、後遺症は重くなる可能性があります。

 さらに、シニア層の場合、もともと持っている基礎疾患が影響していることも考えられます。無症状でも身体に力が入らず布団から起き上がれなくなり、寝たきり状態になっている人もいます」

 起き上がれないほどのだるさとは?

「“歯ブラシを持つのがつらくて歯を磨けない”“ドライヤーを持ち上げられない”など生活が成り立たないレベルの人もいます。トイレにもはっていくのがやっと、という声もありました」

 平畑院長はそう警告する。「風邪やインフルエンザの後遺症でも同様の症状は起きますが、数日で回復します。ですが、コロナの後遺症は重く、なかなか治らないんです」

 数週間、数か月単位で続く場合もあるという。この症状により、出社できず仕事を辞めた人も少なくない。

免疫細胞が暴走する“サイトカインストーム”

 原因として考えられるのは“自己抗体による攻撃の影響”だという。

 東京脳神経センターの天野惠市医師が解説する。

「コロナに感染すると、白血球などの免疫細胞から分泌される“サイトカイン”というタンパク質が外敵を攻撃するために放出されます。ウイルスの量が多いほど免疫細胞はサイトカインを大量に出して、ウイルスと戦闘状態になります」

 問題なのはサイトカインを大量に分泌し続けると、免疫細胞が暴走し、分泌量のコントロールができなくなってしまう“サイトカインストーム”に陥ること。

 そうなれば症状は悪化、多臓器不全になる危険性もある。

コロナ感染後、血管で何が起きているのか

 コロナが回復しても、体内の細胞が受けたダメージは深刻なものとなっていることが推測されるという。

 1度傷ついた細胞のダメージはそう簡単に回復しない。倦怠感などの症状が続くとみられている。

 さらにコロナとサイトカインストームは細胞だけでなく、健康な血管にもダメージを与えてしまう。

 まず、コロナが血管の内側にある膜(内皮)を傷つける。するとその傷をふさごうとして、血管内に傷を凝固する血小板が集まってくる。

コロナが原因の脳卒中や心筋梗塞

 前述のサイトカインは血小板にも影響するために、傷の修復活動は活発になる。しかし、ウイルスの量が多いと、血管内でもサイトカインストームが起きる。

 血管内の細胞が傷を修復しようとして血小板が集まり、凝固した血小板が原因で一気に大量の血栓ができてしまうのだ。

 これは動脈硬化によって血管内に血栓ができるのと同じ現象。つまり、コロナによって脳卒中や心筋梗塞を引き起こす可能性がある。

 この現象は動脈と静脈で同時に発生。そうなれば身体中で血栓が作られてしまう。

新型コロナでできる血栓の場所とその症状

「コロナで重症化した人の30%が『血栓症』と呼ばれるこの症状になっています。大量の血栓が血液中を漂い、脳に近い動脈で血栓ができれば脳梗塞に、心臓に近ければ心筋梗塞につながります」

 足の静脈にできた血栓が肺の静脈をふさげば肺血栓塞栓症による呼吸困難や胸痛を引き起こす。これはエコノミークラス症候群で起きることがコロナの重症例で見られる。

「コロナが原因で肺炎が起き、肺機能が低下します。その状態で血栓が肺の血管をふさいでしまうと命に関わる状況が起きます」

 サイトカインストームは高齢者や基礎疾患のある人に起きやすいといわれている。

 コロナの重症化や突然死を招くだけでなく、重大な後遺症も残すのだ。一命はとりとめても血管は傷つき、血栓も血液中に漂っている状態。傷ついた血管は動脈硬化で起きる血管の内部に似た状態になっている。それにより脳出血を起こし、脳梗塞を併発するリスクは高まる。

 1月20日、前大脳動脈解離によるくも膜下出血、脳梗塞と診断されたタレントの爆笑問題・田中裕二。一命をとりとめた田中だが、昨年8月にコロナを発症、入院していた。コロナの後遺症だったのだろうか──。

爆笑問題の田中

 前出の天野医師は、「直接診察したわけではないので細かいことはわからないが、一般論としてお伝えします」としたうえで、

「田中さんはすでにコロナから回復して仕事復帰していました。重症化していないところをみると、サイトカインストームは起きていなかったとも考えられます。ですからコロナ以外の原因で脳内の血管が解離した可能性が高いんです」

 天野医師は気になっていることがあるという。田中が医師から“お菓子禁止”と言われていたことだ。

「糖尿病の兆候があるのかもしれません。糖尿病は動脈硬化の進行も早い。それが原因で脳梗塞を起こしたとも考えられます」

 とはいえ、コロナ後遺症についてもまだまだ解明されていない点は多く、予断を許さない。

脱毛症状を訴える女性は男性の2倍

 脱毛味覚障害を訴える人が多いのもコロナ後遺症のひとつ。前出の平畑院長が説明する。

「亜鉛不足が原因です。これは何らかの原因で亜鉛を吸収しにくくなっているとみられます。亜鉛が足りないと脱毛や味覚障害の症状が出ます。でも、通常であれば不足している亜鉛を摂取すればすぐに回復するものなんです。しかし、コロナに感染すると、この症状もなかなか回復しない」

 脱毛症状を訴える女性は男性の2倍にものぼるという。

「特に後遺症に注意したいのが50代以上の女性。ほかの年代と比べても脱毛の症状を訴える傾向が高いです」

 多くの感染者が後になって何らかの不調を訴えている。平畑院長が解説する。

「前述のとおり、細胞や血管が傷つき、免疫も下がって体力も回復していない状態なので数週間は安静にしておくことが大切です。

 とにかく激しい運動はやめましょう。ウォーキングも1時間以上はしない。それに熱いお風呂に入るのも体力を使うので避けたほうがいいですね」

家事労働で後遺症が悪化!?

 特に女性が注意したいのが日ごろの家事だ。

「うちに来る患者さんにも、コロナの治りかけで家事や家のことを頑張ってしまう人は少なくありません」

 すると無理がたたって後遺症が悪化してしまう。

「これが女性の後遺症が重い原因かもしれません。家事をひとりでこなそうとせず、とにかく家族を頼ってください」

 ゆっくり休む環境がある、それが後遺症が重くなるかならないかの分かれ道なのだ。

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「50代なら体力が落ちる程度ですむかもしれないが、70代以上で重い後遺症で寝たきりになれば認知症になるリスクはずっと高くなる。コロナは回復したのに、別の病気になってしまう危険も十分に考えられます

 日ごろから血栓ができにくい身体をつくることも重いコロナ後遺症を引き起こさないポイント。

「もともと心臓や脳に疾患がある人は血液をサラサラにする薬を飲んでいると思います。これは絶対にやめないでください。サイトカインストームで血栓ができやすい状態にしないためにも、血液サラサラの薬は重要です」

 天野医師もそうアドバイスを送る。ただし、この薬は医師による診断、処方が必要なので薬局で手軽に購入することはできない。

納豆、鶏肉料理が効果的

 救世主となるのが納豆だ。

「納豆には血液をサラサラにする、抗凝固作用があります。1日1パックは食べてください。あと、よく水を飲むようにしてください。脱水状態になり、血液が濃縮して血栓ができやすくなります」

 ほかにも体力を回復させるのにはあたたかい鶏肉料理が効果的だという。韓国料理のサムゲタンはピッタリだ。

コロナを発症していなくても、ちょっとだるいな、と思ったら鶏肉料理を食べて安静にしましょう。それでも症状が改善しなかったら受診してください。だるかったら、頑張らないことです」(平畑院長)

 1日でも早く元の生活に戻るためには、仕事も家事もセーブすることが鍵なのだ。

 頑張りすぎずに、心も身体も十分に休ませる。それがコロナ後遺症で苦しまないための秘訣のようだ。

■新型コロナの後遺症とみられる主な症状
・味覚障害
・脱毛
・頭痛
・息苦しさ
・倦怠感
・血管の損傷


東京脳神経センター医師
天野惠市医師(脳神経外科医)
医学博士(東京大学)。カナダマギル大学モントリオール神経研究所に留学。著書に『ボケずに長生きできる脳の話』(新潮社)。

ヒラハタクリニック院長
平畑光一医師(内科医)
ヒラハタクリニック院長。東邦大学大橋病院消化器内科で大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流について研究している。'08年7月より同院長。