寒い季節の定番料理“おでん”。「飲む点滴」と言われる“甘酒”と組み合わせることで、“健康おでん”に大変身!

撮影/廣瀬靖士

 おでんに甘酒をかける。そんな意外な取り合わせが、健康とおいしさを両立するおでんとして最近、注目されている。

「発酵食品の甘酒は身体にやさしく、すぐに栄養を補給できる点滴のようなもの。さまざまな食材が入ったおでんに調味料のように加えるだけで、手軽に甘酒を食事に取り入れることができます」

 そう話すのは、産婦人科医の島袋先生。甘酒には、酒かすを使ったものもあるが、先生がすすめるのは、米麹を使った甘酒だ。

「“麹甘酒”には、ビタミン類や必須アミノ酸などの多様な栄養素が含まれているからです」

 特にオリゴ糖や食物繊維が豊富で、これらは腸内で善玉菌のエサになったり、善玉菌の数を増やしたりする。便秘解消はもちろんのこと、体内の免疫細胞のほとんどが腸に集まっているため、腸内環境が整えば免疫力を上げることにつながる。

 ほかにも、エネルギーを作り出してタンパク質や脂質の代謝をサポートするビタミンB群も含まれていて、疲労回復、肌荒れ解消、ダイエット効果が期待できる。“麹甘酒”は、女性にうれしい天然の栄養ドリンクなのだ。

砂糖の置き換えに甘酒が大活躍

 もともと先生が甘酒に注目したのは、3年前の自身の耐糖能異常がきっかけだった。

「耐糖能というのは、血液中の血糖値が高くなったときに正常値まで下げる能力のことです。わたしは血糖値が低いほうなので、糖の代謝が悪いとは思ってもみませんでした」(島袋先生、以下同)

 検査を受けてみると、糖尿病に悪化する危険性の高い数値が判明。それを機に砂糖をやめ、甘酒を料理に使ったり、甘いものが食べたいときに飲んだりと食生活を見直した。すると、2年ほどで耐糖能の数値が正常値に下がったという。

「血糖値を急激に上げる砂糖に比べて、甘酒は血糖値の上昇がゆるやかです。もちろんとりすぎはよくありませんが、糖分以外の栄養も摂取できるのは大きな利点です」

 クリニックで提供しているおでんは、使用するしょうゆを少量にし、甘酒特有のコクやうまみで味に深みを加えて減塩している。試食したスタッフにも好評で、中には体重が3キロ減った人も!

「わたし自身、3年ぶりに会った知人に、5歳は若返ったと言われるほど、身体がスッキリとし、肌ツヤもよくなりました。不調を解消して美容にも役立つ『甘酒おでん』を、冬の健康キープに取り入れていただきたいですね」

甘酒+おでんの相乗効果

●甘酒の栄養を手軽にとれる
 甘酒には脳の大切なエネルギー源であるブドウ糖をはじめ、腸内環境を改善する食物繊維やオリゴ糖、身体を元気にするビタミンB群や体内で合成できない必須アミノ酸がすべて含まれている。“飲みもの”のイメージが強い甘酒を、調味料として使うことで“食べもの”として摂取できる。

〈甘酒の健康効果〉
・便秘解消
・免疫力アップ
・冷え解消
・アレルギー改善
・疲労回復
・美肌
・ダイエット

●1度にいろいろな食材をとれる
 現代人の多くが、ビタミン、ミネラル、タンパク質不足。おでんなら野菜や肉など、栄養バランスのよい食材をまとめて煮るだけで簡単。例えば、干ししいたけでビタミンD、昆布でミネラル、高野豆腐でタンパク質がとれる。

●塩分控えめでも味が決まる
 塩分のとりすぎは、高血圧や脳卒中、心臓病などさまざまな病気の原因になる。通常よりしょうゆの量を控えても、甘酒のやさしい甘さやコク、うまみがつゆに加わると満足度の高い味わいに。減塩しながらおいしさをキープできる。

高温で煮立てると効果激減!

 甘酒の発酵に最適な温度は60度前後で、高温の状態が続くと菌が死活してしまう。腸への作用を期待するなら、アツアツ状態のおでんに入れるのはNG。

「おでん鍋が、軽くあたたまったタイミングで入れましょう。お皿におでんを取り分けてから、スプーン1杯程度の甘酒をかけてもかまいません

 またおでんを煮る際に、グラグラと煮立てるのも禁物。

高温で調理すると、タンパク質と糖が結びつくことでできるAGE(終末糖化産物)の生成を促進。これは体内に入ると老化の元凶になります。材料を入れた鍋が沸いたら火を止めて毛布でくるみ、余熱で具材に火を通しましょう」

 圧力鍋の場合は、具材を入れたら軽くふたをのせて火にかけ、沸いてきたら火を止めて、ふたをしっかり閉めておけばOK。

【効果的な食べ方Q&A】

Q)どんな甘酒でもいい?
A)使うのは、米麹と米が原料の麹甘酒。酒かす甘酒は砂糖で甘みをつけるが、麹甘酒は発酵による自然な甘さで栄養価も高い。

「甘酒を作るとき、米を玄米にするのもおすすめです。さらにビタミン、ミネラル、マグネシウム、食物繊維、酵素がとれて、抗肥満、抗糖尿病効果も期待できます」

Q)コンビニおでんでもいい?
A大根、こんにゃく、卵、昆布などシンプルなおでん種はOK。逆に、加工品や練りものは、塩分と添加物が気になるのでNG。つゆも残して減塩すること。

Q)甘酒の適量は?
A1度の食事でとるなら、おでんにかける甘酒は大さじ4杯くらいまで。健康にいいとはいえ、甘酒も糖分。たくさん食べるほど効果が上がるものではないので、食べすぎは禁物。

【島袋先生直伝 甘酒おでん】

だしいらずで、具材を鍋に入れて煮るだけだから簡単。甘酒の深い味わいが楽しめます。

■材料(4人分)
・干ししいたけ 4枚
・昆布(6cm長さ) 4枚
・高野豆腐 4枚
・にんじん 1本
・大根 6cm
・こんにゃく 1枚
・しょうゆ 70ml
・干ししいたけの戻し汁+水 1リットル
・甘酒 300ml
*干ししいたけ、昆布、高野豆腐は水でもどし昆布は結ぶ。大根とにんじんは食べやすく切って下ゆでする。こんにゃくは三角形に切る。

〈おすすめプラス食材〉
・鶏手羽先
筋肉を作るタンパク質がとれ、シワやたるみを予防するコラーゲンも豊富に含むので美肌効果が抜群。皮膚や血管を健やかに保つ働きも期待できる。骨からだしが出るので濃厚な味になる。
・干しエリンギ
きのこ類は、紫外線に当てるとビタミンDが増え、カルシウムの吸収を助けて骨を丈夫にするのに効果的。エリンギは、屋外で半日〜1日、もしくは屋内の日光が当たる場所で数日乾かせばOK。

*練りものは要注意。市販のちくわやさつま揚げには、添加物や化学調味料、塩分が多く含まれたものも。できるだけシンプルな原材料で、減塩、無添加のものを選んで。

作り方
(1)鍋に甘酒以外の材料をすべて入れる
(2)鍋を中火にかけ、沸騰したら火を止める。鍋を毛布などでくるみ保温する。
(3)具材がやわらかくなったら、軽く温め直して甘酒を入れ、味をなじませて完成。

【炊飯器でカンタン! 自家製甘酒】

■材料(できあがり量:約1リットル)
・白米1合
・米麹(乾燥または生)100g〜150g
*玄米で作る場合は、玄米を約24時間水につけ、途中で2回水をかえる。玄米が発芽したら、玄米1合に対し水270mlでおかゆを炊き、白米での作り方(2)以降と同様にする。

作り方
(1)白米をといで炊飯器に入れ、おかゆモードで全がゆを炊く。
(2)炊き上がったら、おかゆが60度になるまで冷ます。
(3)ほぐした米麹を加えて混ぜる。
(4)炊飯器のふたを開けたまま、布巾をかけて8時間保温する。
*ときどきかき混ぜて、温度55〜60度をキープ。炊飯器のふたを閉めたり、布巾をはずしたりして温度を調整する。
(5)甘みがしっかり出ていたらできあがり。

*冷蔵で1週間、冷凍で1か月ほど保存可能

(取材・文/樫野早苗)

《PROFILE》
島袋 史先生 ◎産婦人科専門医、ゆいクリニック院長。出産・育児を支援するほか、小麦や砂糖、乳製品、合成食品添加物などを使わない食事をクリニック内で提供するなど、食事療法の重要性も説いている。