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 60代の10人に1人は緑内障、3人に1人は白内障になるといわれる目の“国民病”。

 緑内障は、眼圧(眼球内の圧力)が高いことにより、視野が狭くなっていく病気。一方、白内障(多くは老人性白内障)は、加齢などが原因で水晶体(目のレンズ)が白く濁り、見えづらくなる病気。

 年のせいだと思われがちだが、眼科医の山口康三先生は「発症は加齢だけが原因ではない」と力説する。

「緑内障、白内障など目の病気の根本的な原因は、生活習慣。実は患者さんの多くが冷え性、甘いものが好き、運動不足、睡眠不足といった共通点を抱えています。これらの生活習慣や慢性的な症状がある人は、目を含め全身の血行が悪く、それが緑内障の発症や悪化につながっているのです」(山口先生、以下同)

 いわば、緑内障や白内障は“目の生活習慣病”。目によい生活を続けていれば、年齢を重ねても予防することは可能だという。

 そのほか、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、眼底出血なども、同じように生活習慣病が発症に大きく影響している。

 緑内障と白内障、どちらも治療としては、最初は進行を防ぐ点眼薬を使用。病状が悪化すると、緑内障はレーザー治療、白内障は人工の水晶体を入れる手術をすすめられるのが一般的だ。

 ところが、山口先生は、これらが「逆に目の健康を脅かしている可能性があり、慎重な検討が必要」と指摘する。

手術やレーザーで視力低下のリスクも

「緑内障で行うレーザー治療は、症状の悪化を防止するだけで、改善が望めるものではありません。目の組織を傷めてしまい、かえって視力低下を招く場合もあります。また、白内障における人工レンズへの交換手術を受けると、加齢黄斑変性(目の網膜の中心にある黄斑という部分にダメージを受け、視力低下が起きる病気)の発症率が3倍に上昇することが、最近の研究でわかりました」

 では、目に負担をかけずに改善するにはどうすればいいのだろうか。

いちばんは、少食にすること。目の老化防止と血管をきれいに保つ作用が期待できます。血行を促進するための散歩と目のマッサージを合わせるのがおすすめです」

 山口先生のクリニックでは、同様の生活改善指導を行い、レーザー治療や手術しか道がないといわれた患者の多くが病状を抑えることに成功。改善している人も少なくない。

緑内障を発症する人は、動脈硬化や認知症になることも多い。目の症状は、全身の老化のサインのひとつです。目だけでなく、全身の若々しさを手に入れる気持ちで生活習慣を見直しましょう」

【こんな人の目は危ない!】
 □冷え性
 □甘いものが好き
 □間食・夜食が多い
 □睡眠不足
 □まじめ、ストレスが多い
 □裸眼(紫外線のリスクあり)

 自分では気づかずに、眼病リスクの高い生活を送っているかも。強い近視の人、眼底検査を受けたことがない人も、定期的な眼科検診を。

生活習慣の改善【1】朝食を抜く

 生活習慣の改善ポイントは、血行促進と身体の酸化を防ぐこと。食事に関しては“質のよいものを少量”が傷ついた目の修復&アンチエイジングに効果を発揮するという。

「長年の臨床経験からも、食べすぎを続けていると目の病気は治りにくいと感じています」

 少食のメリットのひとつ目は、抗酸化作用が高まること。2017年の研究では、遺伝子的に緑内障リスクを抱えるマウスが1日おきの絶食を行ったところ、体内でケトン体が増えて抗酸化作用が上昇。緑内障の進行がおさえられたと報告されている。

「大食い自体が激しい運動をするのと同じくらい体内で活性酸素が増える行為。老化を早めるので、年齢を重ねるほど少食を心がけたほうがよいといえます」

 食事によって増加する活性酸素量が抑えられるため、血流が良好になり、血液と血管がきれいに保てる作用も。

 さらに、少食は身体の修復に必要なホルモンの分泌を高め、目の組織の修復や病気の回復を促進する。体内の過剰なタンパク質を分解して活用する「オートファジー」という仕組みが活性化し、病変が消滅することもあるという。

「摂取エネルギーが少なくなり、長寿をもたらす“Sir2”という遺伝子が活性化。老人性白内障の抑制効果も期待できます。少食は目だけでなく、全身のパフォーマンスを高め、アンチエイジングにも役立ちますね」

■1日の食事量30%オフを目指す

 はじめに3食を腹八分目の量にし、慣れたら1食を抜く習慣に。1日の食事の30%をカットすることで、大きな変化が見込める。1日のどの食事を抜いてもよいが、食べない時間がいちばん長くなる“朝食抜き”が、最も効果的だ。夕食後から昼食までがプチ断食状態となる。

「量より質にこだわり、バランスのよい食事を心がけてください。少食にすると便秘になりがちなので、食物繊維が多い玄米、豆類、野菜をしっかりとること。玄米は、満腹感も高めるのでおすすめです。また、肉は黄斑変性症の原因とされる慢性炎症を助長するといわれているので控えめに」

■朝食を抜くと、糖尿病や動脈硬化の危険が高まる?

「急に朝食を抜くと、昼食・夕食で大食いになってしまい、血糖値が乱高下して糖尿病などのリスクを高めます。必ず3つの段階を踏んで行いましょう」

 まずは、間食と夜食をやめる。慣れたら3食を腹八分目に。

「腹八分目にすると体重が減っていきますが、続けるうちに体重減少の停滞期がくるので、それから朝食抜きに移行してください。特に、60代以降の人が急に朝食を抜くと健康に支障をきたす場合があります。無理せず始めましょう」

生活習慣の改善【2】1日13000歩歩く

 朝食抜きとあわせて行いたいのが散歩。

「最近の研究で、有酸素運動で眼圧が下がり、緑内障の予防に役立つことがわかりました。少食になると、筋肉が減少しやすいので、それを補うためにも軽い運動は必要なのです」

 適度な運動は全身の血流を高めるため、目の組織のダメージを治し、病変の回復が進みやすくなる。

「散歩はリラックス効果も大きい。目の状態は自律神経のバランスと深く関係しているので、ストレスなく過ごす時間を持つことも大切です」

 できれば1日1万3000歩、30分×4回の散歩を。

「1度に1時間も歩いてしまうと、お腹がすいて少食でおさまらなくなってしまうので、歩く時間は小分けにするのがおすすめ。室内での家事動作を含めると、30分×3回でもいいと思います」

 スーパーへ歩いていくなど、習慣化しやすいタイミングで歩く時間を確保すること。急に1万歩以上歩くと、体力的につらいので、まずは30分から始めるのが賢明だ。

「歩くことが義務になってしまうとよくないので、できる範囲で始めましょう。目的は、リラックスと血流改善であって、身体を鍛えることではありません。早歩きを心がけるウォーキングというより、趣味の散歩のイメージで行ってください。音楽や英会話を聞きながらではなく、何もしないでぼーっと歩き、ストレスフリーな散歩をするのが最高です

生活習慣の改善【3】目の5秒マッサージ

「目のまわりをやさしく押さえてパッと離すだけで目のまわりの血流が促進され、目への血液の流れをよくします。ただし、やりすぎるのはよくありません。1日2~3回を限度に気持ちいいと思う程度に行ってください」

 やり方は簡単。

目の上側:目の上にある眼球が収まる骨のくぼみの目頭側のふちに親指の腹を当て、軽く5秒ほど押して離す。目尻まで親指をずらしながら数回行う。

目の下側:骨のくぼみの目頭側のふちに人さし指の腹を当て、同様に目尻まで行う。眼球を押さないように注意する。

そのほかの「いい習慣」「悪い習慣」

●〈GOOD〉午前中に水分をとる

 良好な血流を保つために水分は必須。

「1日に1.5リットル~2リットルを目安に摂取するのが望ましいです。夕方以降に水分を多くとると夜間にトイレへ行きたくなり、睡眠の質が悪くなります。15時までに意識して水分をとること

 カフェインは利尿作用があり、体内の水分を減らしてしまうので少なめに。

●〈GOOD〉睡眠時には“口テープ”をする

 近年、無呼吸症候群を起こす人は就寝時に低酸素状態に陥るため、緑内障のリスクが2倍になると判明。

「睡眠時の“口テープ”で、鼻呼吸を促進し、無呼吸症候群の改善が期待できます」

 やり方は医療用のテープ(絆創膏も可)を5cm程度に切り、口の中央に縦に貼るだけ。睡眠の質を高めて目も健康に!

●〈NG〉寝る前の考えごと

睡眠は、目の病気対策として非常に大事です。質の高い睡眠は、自律神経の働きを整え、身体の修復に必要なホルモンの分泌を促すため、目の状態を改善してくれます」

 就寝前の考えごとは、睡眠の質を下げるので目に悪影響。

「ストレスや悩みを抱えたときは“これもよい経験だ”と前向きな気持ちで布団に入りましょう」

 アルコールを飲んで寝るのもよい睡眠につながらないので控えて。

●〈NG〉激しい運動

 激しい運動をすると活性酸素が増えて老化が進行。

50代を越えたら、ランニングなどはおすすめできません。ジムに通うのも週に1回くらいにとどめておいたほうがよいですね。身体を鍛えることを目的にするのではなく、趣味として身体を動かす程度にしておきましょう」

 激しい運動は、交感神経が優位になるため、血管が収縮。目など末梢の血行が悪くなるデメリットも。

(取材・文/河端直子)

《PROFILE》
山口康三 ◎眼科専門医。患者の食事や運動、睡眠などをかんがみて総合的に目の治療を行う「目の綜合医学」を確立。院長を務める「回生眼科」には国内外から患者が訪れる。著書に『緑内障・白内障は朝食抜きでよくなる』ほか。