活動休止に入った嵐メンバーの中で、業界内で特に注目が集まっているのは、相葉雅紀だという。彼は“過剰な期待”に応え、MCとして一本立ちするチャンスを生かせるか。テレビ解説者でコラムニストの木村隆志さんが解説する。
相葉雅紀に課せられた大きな難題
嵐が活動休止に入ってから、早くも1か月あまりが過ぎた。メンバー5人のうち、その姿をよく見られるのは、櫻井翔、相葉雅紀、二宮和也の3人。それぞれ毎週放送されているレギュラー番組があるため、昨年までと変わらない元気な姿を見せている。
なかでも業界内で最も注目されているのは相葉。志村けんさんから急きょ引き継ぐ形となり、昨年10月にスタートしたばかりの『I LOVE みんなのどうぶつ園』(日本テレビ系)、グループから1人で引き継いだ上に寄せ集めの後輩たちを束ねなければいけない『VS魂』(フジテレビ系)、今春から30分拡大して放送時間が倍になる『相葉マナブ』(テレビ朝日系)と、いずれも大きな変化があり、しかもそれぞれの難易度は高いからだ。
一方、櫻井は『news zero』(日本テレビ系)、『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)がこれまでどおりで、変化があるのは『1億3000万人のSHOWチャンネル』(日本テレビ系)1つだけ。二宮は『ニノさん』(日本テレビ系)がこれまでどおりであり、相葉と比べると難しさはない。ちなみに発表済の出演情報では、松本潤が2023年の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)があるのみで、大野智はなし。
なぜ相葉1人だけがこれほど難易度の高い番組に挑んでいるのか。筆者に限らず、長年テレビ業界で取材を続けている人は、その理由がわかるだろう。嵐の活動休止によって相葉は、これまで以上に期待感が高まり、それが不安につながりかねない危うさもある。
ファミリー層とコア層の支持が厚い相葉
まずは嵐が活動休止に入って以降の視聴率を挙げていこう。
最も結果を出しているのが『相葉マナブ』。1月10日が個人7.5%・世帯13.1%、17日が個人6.4%・世帯11.3%、24日が個人6.9%・世帯12.3%、31日が個人7.2%・世帯12.7%、2月7日が個人6.5%・世帯11.0%を記録した。いずれも後番組『ナニコレ珍百景』の18時30分~19時を上回っているため、「『相葉マナブ』を30分拡大し、『ナニコレ珍百景』を30分縮小する」という今春の改編は納得できる。
次に『I LOVE みんなのどうぶつ園』は、1月16日が個人7.7%・世帯11.9%、23日が個人6.6%・世帯11.1%を記録。昨年は個人5%台・世帯1桁に低迷することも多かったため、よい兆しが見えはじめたと言ってもいいだろう。ただし、今年2度しか放送されていないところに自信のなさが見て取れるし、まだ『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)のような安定感はない。
そして最も厳しい結果となっているのが『VS魂』。1月3日が個人6.0%・世帯9.0%、14日が個人5.5%・世帯9.1%、21日が個人4.0%・世帯6.4%、28日が個人5.2%・世帯8.7%、2月4日が個人4.8%・世帯8.0%。業界内で及第点と言われる個人6.0%・世帯10.0%に届かない苦しいスタートとなってしまった。番組のコンセプトは変わっていないことから、「嵐だから見ていた」という視聴者が多かったのかもしれない。
『相葉マナブ』と『I LOVE みんなのどうぶつ園』はファミリー層を中心に幅広い世代の視聴が見込める土日夜の放送であり、『VS魂』の裏番組には『プレバト!!』(MBS・TBS系)という強敵がいて、『THE突破ファイル』(日本テレビ系)が各局の重視するコア層(13~49歳)の支持を集めはじめている。
言わば、どちらも激戦区の番組であり、これは裏を返すと、相葉がファミリー層やコア層から支持されるキャラクターと評価されていることの証。これが嵐メンバーの中で最も相葉が期待されている理由となっている。
嵐メンバー随一の好感度を武器に
業界内で「嵐のメンバーでMCの技術が高い」と言われているのは、櫻井翔と二宮和也の2人。櫻井は落ち着きのある進行、二宮はアドリブを含むトーク力が評価されている。
一方、相葉がMCとして評価されているのは、技術ではなくキャラクター。長年CM出演数ランキングで上位をキープするなど、好感度の高さはメンバーの中でもトップであり、コロナ禍の今、癒しを感じさせられる相葉の存在価値はますます上がっている。つまり、相葉がMCを務めるだけで、その番組に癒され、笑顔になれる人が多いということだ。
たとえば、『VS嵐』は嵐の強みである仲のよさや楽しげな姿で視聴者を引きつけてきたが、『VS魂』のメンバーは各グループからの寄せ集めだけに同じようにはいかない。しかし、相葉がMCとして真ん中に立つことで、仲がよさそうで楽しげなムードが早くも芽生えつつある。
そんな技術よりムード作りを重視した相葉のMCスタイルは、『天才!志村どうぶつ園』で志村けんさんから学んだものだろう。何かと暗い話題が多く、ストレスフルな現在は、明るいムード作りが重視されている。また、King & Prince、Snow Man、SixTONES、なにわ男子、Travis Japan、HiHi Jets、美 少年など、ジャニーズの若手が一気に台頭してきたことで彼らを生かす兄貴分のMCが必要であり、その意味でも穏やかな相葉は最適な人材だ。
ただ、「嵐が活動休止に入った今こそ、MCとして一本立ちするチャンス」「先輩の中居正広とは違う形のMCとしてバラエティーをけん引してほしい」という期待値の高さが、いきなり難易度の高い仕事につながっている。たとえば、『VS魂』は親友の風間俊介がいることで精神的な負担は軽減されているが、それでも結果は別物であり、難しさは変わらない。
嵐の活動がない今、スケジュール的な問題がないだけに、3番組が無事に成功を収めたとき、相葉のもとに新番組のMCオファーが来るだろう。逆に、視聴率という目に見えた結果が得られなかったとき、キャラクターに頼るMCスタイルの是非が問われるリスクがある。業界内には「メンバーやファンを思って涙を流すこともあった優しい人柄が自分を追い詰めてしまわないか」と心配する声もあり、長い目で見ていきたいところだ。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。