2月11日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が会長を辞任する意向を固めたという。
2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会の場で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」という女性蔑視ともとれる発言をしたことの責任をとるかたちとなった。後任として起用の最終調整に入っていたのが、日本サッカー協会(JFA)相談役の川淵三郎氏。11日に森氏と面会し、就任に前向きな姿勢をみせ、「(解任するのは)気の毒だ」と涙ながらに語ったというが、翌日に事態は一転。
政府がこの“引き継ぎ”に難色を示し、就任は白紙となったという──。
「世の中は常識的に判断するから」
川淵氏は'58年、早稲田大学在学中にサッカー日本代表に選出、'64年に開催された東京五輪では代表選手として出場。現役引退後は『Jリーグ』や『Bリーグ(日本バスケットボールの新リーグ)』の発足に努めるなど、スポーツ界の重鎮である。
しかし、後任が川淵氏になろうとしていた時点では、マスコミ内でも懐疑的な意見を持っていた者も少なくない。
「新型コロナウイルスが猛威を振るい始めていた昨年2月、川淵氏は森会長とともに“オリンピックの中止や延期はいっさい検討していない”と主張したうえで、“ウイルスは湿気や暑さに弱いと聞いている。日本には、梅雨というウイルスをやっつける最高の季節がある。日本の知識や経験で必ず克服できると心から感じている”と発言されていました。
しかし、当時すでに高温多湿な気候のシンガポールでも感染拡大がはじまりつつあった時期。彼の日和見発言には当時から批判の目が向けられていましたね」(全国紙記者)
就任の方向で話が進んでいた12日午前までの間には、ネット炎上も巻き起こっていた。川淵氏は2018年からTwitterアカウントを開設しており、まめに私見をつぶやいているのだが、そのツイートが掘り起こされている。森氏が女性蔑視発言で辞任に追い込まれたという経緯もあいまって、過去の発言があぶり出されることに。
2018年のW杯コロンビア戦を前に、当時の日本代表監督・西野朗氏への期待を綴(つづ)った際、前任のバヒド・ハリルホジッチ氏を引き合いに出し、
《ハリルホジッチ監督の時、ほとんど勝てる可能性がないので、オランダ、イタリア、アメリカのサッカーファンのことを考えれば出場出来るだけラッキーと考えてW杯を楽しんでくださいと講演などで話していた。西野監督に変わった今は何か起きるかも知れないというドキドキ感が今朝になっ自分に出てきた(原文ママ)》(2018年6月19日)
この発言をしたのちの9月、イベントに登壇し、報道陣にコメントを求められると、「『ハリルホジッチが更迭になって良かった』と言ったら、炎上しました。でも結果……見てみろっ! って僕は言いたい。世の中はやっぱり、いろいろなことを常識的に判断するから、なかなか良い方向に進まないんでね」とあっけらかんな様子。
体罰は“魂のぶつかり合い”
体罰を容認するような発言もあった。
《体罰は悪だと一方的に決めつけるのではなく、このままいくと道を踏み外すかもしれないという子供には、親が先生が鬼気迫る形相でやむにやまれず手をあげることもあるだろう。そこには人間同士の魂と魂のぶつかり合いがある》(2019年7月4日)
また、オリンピックは国際的なプロジェクトであるからこそ、“他国が絡む発言”も掘り起こされてしまった。
2019年に韓国の歴史教育における日本の植民地支配に関する定説を次々と否定した『反日種族主義』を読み、
《よくぞまぁ韓国の学者が、それも李承晩学堂の校長がこんな本を出版したものだと感心する。日本人が同じ内容の本を書いても信憑性を疑われるが韓国の博士が入念に調査実証した上での著作だけに反論するのは難しいはず。日本にとってこれ程有難い歴史書はない》(2019年12月6日)
あくまで私見を述べたにすぎないのだが、“次期会長”ともなればこういった意見もネガティブに取り上げられてしまったのだろう。うがった解釈をされかねない文言を発信してしまう“発言の軽さ”がそこにあった。
このような問題発言ともとれる過去が次々とネット上で表面化した背景に、国民の反感があることは間違いないだろう。森氏は川淵氏を自宅に呼びつけて後任を要請したという。
「国民の反感の中心には“結局なにも変わらない”というのが根本にあるのではないでしょうか。今回、川淵さんが就任することに政府が難色を示したのも、そういった世論を無視できなかった部分も大きいはずです。どうせなら組織をガラッと変え、新陳代謝がなされたところを世界にみせてほしいと思いますね」(前出・全国紙記者)
話は振り出しに戻ったわけだが、世界がコロナ禍のなか、いったい日本はどこに向かうのか──。